第23話 ライトニング

 ポツポツポツ―――


 私の心の内を表すかのように、急に雨が降り始めた。先程まで見えていた月は分厚い雲に隠され、いよいよ希望が閉ざされたような暗い気持ちになる。


 出会ってまもないフラムを2度も殺し、当初の予定だった政府の避難所へ行くという事も出来ない。大事な時に、私はいつも失敗する。あの時も、家族や町の人、妹を救えなかった。


 もう諦めるしかないと、私は目を瞑り、タイガの拳を待った。

 

 ピャシャン―――ッッ!

 ゴロゴロゴロ――


 空気が震え、目を瞑っていても分かるほどに周りが明るくなり、その直後近くで雷が落ちる音が聞こえる。


「我ながら凄いなあたし! あたし最強じゃん」


 この場にいる誰でもない女の声が聞こえた。異常な状況が気になり、私は目を開ける。

 

 70センチメートル程の赤い片刃の直剣と、細めのカイトシールドを携えた赤いボブの女がそこにいた。女は僅かに赤い稲妻を纏っていて、片刃の直剣が私の胸ぐらを掴んでいたタイガの腕をぶった斬っていた。


「くっ…! テメェ!」

 タイガは私を殴ろうとしていた拳をその女に振る。


 女はその拳を軽く避け、更にカイトシールドでタイガの顔を殴る。


 タイガは顔を抑え、それでも反撃しようと回し蹴りを放った。


「あたしが凄すぎてごめんな?」

 しかし、その反撃は女にとって隙でしか無かった。

 女はタイガの支柱になっている足に直剣を突き刺し、回し蹴りをしてきた足をガシッと掴む。


「『通電ボルト』!」


 女の指先から赤い稲妻が走る。掴まれたタイガの足にその赤い稲妻が回り、やがて彼女の体全身を焼きながら痙攣を誘う。


「タイガ!」

 おかっぱ眼鏡の男が薄緑色のガラス板のようなものをこちらに飛ばしてくる。それを見て危険を察知した女は、タイガから直剣を引き抜いて距離をとる。


「スノウ・トウティとフラム・カグツチよね? 今は逃げるよ!」


 女は倒れた血まみれのフラムを救おうと、イヌとウェポンとマインが立っている方を見る。


「なんだお前? 地獄が見たいのか?」

 イヌはナイフをクルクルと回し挑発する。それに続き、ウェポンやマインも拳を構えて、フラムを取らせないよう位置取りを行う。


「うーん、困ったね……」


 女は手を叩いて再び武器を構えた。

 すると、後方にいたおかっぱ眼鏡の頭上から鉄の塊のようなものが降ってきた。


 ズウゥゥン―――


 鉄の塊の正体は、生気の無いロボットのようなものだった。女はそのロボットに手を伸ばし指を鳴らす。すると、ギリギリと歯車が回転するような音が響き、暗かったロボットの瞳が光り輝き始めた。


「あたしの為に時間稼いで、『ドレッドノート』!」


 大きく肥大化した腕部、それを支える堅牢な肩、頭から鋭く伸びた鋭利な一角、並の攻撃を防ぎ切れそうな頑丈で大きな胴体、太ももから足にかけて武装された大量の銃火器。


「分かりました、『ブリッツ』様」

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