拝拝

@tinnpeti_etti

拝拝



ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…ピピピピピピピ

「んんっ〜…何時だ…」

彼の名前は切戸契。シェアハウスに住んでいる事と不運な事以外は普通の冴えないリーマンだ。

「会社か…遅れて行こう…」私はそそくさと支度をして家を後にした。彼は会社へ行く途中に商店街へ寄っていた

「サボるなら会社からそう遠くない方がいいか…ん?なんだ?あれ…。」

彼は会社へ行く途中に商店街へ寄っていたのだが、路地の奥の方にある、何か奇妙な物を私は見ていた。

「うわっ…!」

私が路地に入ると足元を何かが通って行った。

「ね…こ?なんでこんな所に?いや路地だから普通か」

その時、不意な目眩が私を襲った。

「うっ…!なんか体調が優れないな…いいや会社には休むって言っとくか…それよりも家に帰って〜…!?」

私は路地に入った…筈だった。

「え?あれ?」

振り返るとそこには路地があった。

先ほど来た道を進んでも仕方ないと思った彼は、路地を進む事にした。

『早く戻らなければ』そんな気持ちが彼を焦らせていた。

路地は一本道だった為幸い迷うことは無かった。にしても長い、もう二十分は歩いた気がする。

携帯で現在地を調べようとしても圏外だった為どこに居るかもわからなかった。

すると不意に目の前が明るくなった。路地から抜けたのである。

彼の目には見たことのない荒んだ商店街が映っていた。

「あれ…?戻れたの…か?いやおかしい…僕は一本道を通った筈だ…何故入った方向と同じ方向に出られる?仕方ない、戻っ…!」

振り返るとそこには高い壁のみ。まるで幻でも見たようだった。

おかしい。流石に偶然とこんな事が起こる筈が無いと彼は思った。

その時彼の真横を一人の女子高生とその両親が通り過ぎた。

「幸せそうだな…」彼はそう言った。

『ギギィーッ!ガッシャーン…ガラガラ』彼の後ろでガラスが派手に割れる音がした。

彼は咄嗟に振り向いた。そこには傷だらけの女子高生とボロボロの車があった。

フロントガラスは血に染まり誰かが犠牲になったのだろうと分かってしまう程酷い惨状だった。

「優子さん…?何故こんな所に!?」

そこに居た女子高生は同じシェアハウスの住人、風見優子だった。

「とりあえず彼女の元へ…ッツ!?」

彼女が不意に居なくなった。幻でも見たかのようだった。

改めて見れば窓ガラスも割れていないし、車なんてものはない。

「あれ?」瞬きすると彼が見ていた景色はガラリと変わっていた。

「ここは…学校?…どこの学校だ??」

彼は校門の前に立っていたのだ。

彼は表札を見てこの場所を思い出した。

「ここは、僕の通っていた高校?それも、最後の…」

彼は校門を這い上がり中へ入った。

「懐かしいが今来るとどう考えても心霊現象が起きそうだ…時間帯も夜だし…」

彼は周りをキョロキョロと見ながら校内を進んだ。

「階段か。確か十三段?昇ると異世界へ行くとか言う七不思議があったな…」

彼は階段を登り出した。「一、二、三…十、十一、十二、十さ…!」

転んだ。それも前から。不運だ。とても。

「っつ〜!!!痛い…でも十三段目が無くて良かったな、ハハッ…」

彼は廊下を歩く。

「3年…4組…」

窓から中を覗くとそこには談笑する生徒らがいた。

生徒らがこちらへ視線を向けたが間一髪で隠れた。

『見つかってはいけない』男の中でそう本能が囁いていた。

彼はなお廊下を進む。すると上から「カラカラ…」と言う音と一緒に何かが目の前に落ちてきた。

「コン…クリート?」

上を見ると天井が欠けていた。

「今日は…もしかして…!」

彼には心当たりがあるようだった。

彼は教室内を静かに覗き出した。

「今日は…10月で11日!やはり…!じゃあここは…!」

10月11日。忘れもしない。この高校が廃校になった日だ。

彼は自分の元いた教室を覗く。

誰も居なかったのだ。今までの教室には人がいた。しかしこの教室には誰もいない。

彼は教室へ入り、自分の席を探した。

「えーっと…この時は…窓から二番目の一番後ろだったか?」

あった。「ガラガラ…」

試しに座ってみた。

すると机の中に本が一冊入っていた。

表紙は掠れてて見えないが、『崇徳物ー』と部分的に読めた。

中を開くと仮名文字で文が書かれていた。

「カラカラ…カラカラカラ…ガタガタガタ…!」


激痛が走った。

下半身が、瓦礫の下敷きになっていた。あまりの痛みに失神した。


気がつくとと、群衆の中にいた。

目の前には縄で縛られた男がひざまづいていた。「瀬を早み、岩にせかるる瀧川の、

われてもすえに、あはむとぞ思う。

後白河、必ずまた会おうぞ。」

男の乗る船は出発した。

後白河天皇と呼ばれた男は嗤っていた


目覚めた。森の中だった。周りは霧でよく見えない状況だった。

「寺…?」目の前には寺があった。

苔が纏わり付く石製の鳥居。遠くから見ても一部崩壊している。

相当昔の物なのだろう。彼は本能で、『入れと』言われた気がした。

『絶対危険だ。』そう判ってはいたが抗う気に慣れない。まるで傀儡の様だった。

入ってしまった。とうとう境内に入ってしまった。

前を向くと寺の中に人影が見えた。小柄な145cm程度だろうか。

しかしそんな事なんかは頭からすぐ消えた。

小柄な男が縁側を歩いている。

何故だろう。彼、切戸契はあの男を見ると、心の内の恐怖が掻き立てられる。

今すぐ離れようとした瞬間、小柄な男に見つかってしまった。

その瞬間、景色が一瞬で暗闇に変わった。寺なんてかけらも無い。

何も無い暗闇。その暗闇に、全てが飲み込まれる様だった。

彼は吸い込まれる様に前へ進んだ。

進むと足元で何かぶつかった

「えっ!?」

死体だった。

電柱の下には乾涸びた死体が転がっていた。

ボロボロの白い服…間違え様がなかった…船で流されたあの男だった。

「え…?」彼の顔の横にはあろうことか血塗れた自らの手があった。

「あれ?頭の視点が少しずつ変わって…イ?」

頭に自分以外の意識が居る気がした。

『イ……イ…イ…タイ痛イ痛イ痛イ!』

そんな声が聞こえると同時に視界が反転していく。

「痛い痛い痛いイダイイダイイダイイダイイダイダイダアアアアアア…イ?」

『逢いに行こふ…死シてもなホ逢ヒニゆク』

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