義母はモンスター
林さくら
第1話 出会い
明美は朝から緊張感に包まれていた。
半年前から交際している慶太の母親に会うのだ。
今日の為に午前中に美容院へ行き少しでも清楚な外見になるようミディアムストレートヘアに整えてもらった。
外はさっきまで雨が降っていて、梅雨が明けたのを疑いたくなるような曇り空と、体中に纏わりつくような湿気がなんとも不快な気分にさせる。
美容院でストレートに整えてもらった髪の毛も湿気にやられてクセが戻ってきてしまった。
「せっかく整えてもらったのに」
近所で美味しいと評判の洋菓子店のショーウィンドーに写る自分のクセ毛にため息をつきながらも白いワンピースに泥水が跳ねていないかチェックし、
慶太の家に持って行く彩り鮮やかなケーキを選びながら明美はふと慶太との出会いを思い返していた。
明美は20歳で結婚35歳で離婚し、現在の43歳まで仕事と二人の子育てに専念していた。
上の子が就職と共に自立してからどこか寂しさを感じていた矢先、子どもの幼馴染で長年の付き合いのある5歳年上のママ友の美希に誘われ美希の同級生の飲み会に参加させてもらう事になった。
その席で出会ったのが慶太だ。
慶太は美希の他の同級生の男性とは違い、群を抜いて若々しかった。
背は170センチそこそこだが、背筋がピンと伸びていてジムで鍛えられた腕が男らしく、ユーモアもあり魅力的だった。
お互いパートナーに裏切られ離婚した明美と慶太は5歳の年の差も気にならないくらいすぐに意気投合した。話せば話すほど、お互いの価値観や笑いのツボが同じでまるで若い頃に戻ったかのような初々しい気持ちになり、今まで男っ気のなかった明美が慶太に夢中になるまで時間はかからなかった。
なにより、子どもたちが応援してくれていたのが嬉しく完全に舞い上がっていた。
まだ交際半年ではあったがお互い再婚を意識するようになり、慶太から母親に会って欲しいと言われた時は素直に嬉しかった。
だが明美は慶太から聞いていた母、悦江の事が少し気になっていた。
悦江の母親像は同じ母親でもある明美には理解しがたいものがあった。
慶太は一人っ子で、慶太が3歳の頃に夜逃げ同然で
悦江は慶太の父親を捨て、パトロンが買ってくれた中古の一軒家へ引っ越したという。
離婚理由は「慶太の父親には経済力がないから」。
離婚後悦江は40歳までパトロンが経営するスナックで雇われママとして働き、40歳でスナックは引退
その後はパトロンの会社に名前だけの在籍で給与をもらい続けながら、パトロンが病気で亡くなるまで働かず悠々自適に過ごしていたという。
パトロンが亡くなり給与が入ってこなくなってからも悦江の生活費はすべて慶太が面倒を見ているので
現在75歳の悦江に入る月8万円ほどの年金はすべて悦江のお小遣いに消える。
そう平然と話す慶太に少し違和感を覚えながらも
慶太も子どもの頃から苦労したのだなと可哀想にも思った。
そのパトロンが残してくれた土地に慶太が結婚し二世帯住宅を建て替え一階に悦江、二階に慶太家族が住んでいたのだが、8年前に慶太の前妻が子ども二人を連れ出ていき今は悦江が慶太のいる二階部分に移り同居し、一階部分は賃貸物件として貸していた。
明美の母親も友達も親一人子一人の間に入るのは大変だと、なにも再婚はしなくてもいいのではないかと助言してくれてはいた。
明美も当然その事は頭をよぎっていた。
だが、久々の恋愛に舞い上がっていた明美は一抹の不安を抱えながらも慶太との未来を思い描いていたのだ。
ケーキを買い洋菓子店を出た明美はさっきまで曇っていた空に光が差してきたのを眺め、気合いを入れ直し慶太の家へと向かった。
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