私が/私を愛した悪魔(ひと)

さくら

1.犬なんて

どうでもいいかもしれないけど聞いて。

私にはどうしても苦手なもの――うぅん、生き物がいてさ。


え?カエルとかナメクジじゃないかって?

いや、そりゃ気持ち悪いけど、私が恐れている『アレ』の比じゃないって。

物理的にも精神的にも。


え、Gから始まる黒い生き物……ってやめて!!むしろ苦手じゃない人っているのこの地球上に!!?


あのね、ごく普通に飼われてるものであって、遠くから見てる分には「可愛いなー」って、ちょっとは思えるんだけどね。ちょっとは。


でも、いくら小さくても、肉食だよあいつら!私の指がきっとおいしそうなウィンナーか何かに見えてるとしか思えない。かわいい顔して牙をむき出しにしてかじろうとするところなんか恐怖以外の何でもないって。


小さなころ――今でこそ違うけど――私の実家のあたりは「放し飼い」にしてるのが割と一般的でさ。それこそ「野良」もたくさんいたの。

小学校に通ってるときにも、狭い一本道を通ってたんだけど、そんなときに決まったようにソレが出てくるんだよ。歯をむき出して、唸り声をあげて。


ある時なんか、三頭も一斉に現れて道をふさいじゃってさ。か弱い女の子一人で、いったいどうしろって言うのよ、ほんとに。

急いで家に引き返して、お父さんに頼んで学校まで送ってもらって、やっと登校できたけどさ。


とにかく、私はそれ以来、どんな大きさであっても、『犬』という生物がどうしても苦手だし、恐怖の対象でしかなかったのよ。


――それがまさか、こんなことになるなんてね。


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