第16話 メルヴィの妊娠

「まずは基本操作の確認をするよ。初めての魔法陣と機体だからね。俺が乗って試すぞ」


そう言ってエルヴィーノが乗ると、膝にメルヴィが腰かけた。

「えぇっ~と、メルヴィさん? 何をしているのかな?」

「だって私の専用機だから私も処女飛行したいもん」

エルヴィーノは仕方なくメルヴィの言い分に折れてしまった。


「では魔素注入、魔法陣発動!」


専用機は問題なく作動し所定の動作も確認でき、心配だった自動攻撃追尾魔法と制限解除もエルヴィーノの操作で問題無く制御されていた。

だがメルヴィの意外な一面を知ってしまった。

試乗を終え戻るなりメルヴィが操作したいと言い出した。

「次は私が操縦してみるね」

エルヴィーノは特に問題ないと思っていた。

しかし、メルヴィが魔法陣を発動して直ぐに制限解除をしたのだ。

物凄い勢いで飛んでいく機体。

エルヴィーノは呆然としていた。


「やはりヤツの子だな。速さに魅せられた親子か・・・これじゃ10分経たないと戻らないなぁ・・・デイビットにバレなきゃ良いけど・・・」


このあと親子でケンカした場合はブエロ・マシルベーゴォで決着をつけるようになった。

ただ初めての対決の時、軽量設計のデイビット専用機になかなか追いつけないメルヴィが、大きな声で「制限解除!」と叫び、あっと言う間にデイビットを追い越して勝利してしまった。


当然、デイビットから文句が入る。

デイビットは怒ってはおらず、ただ少しばかり拗ねているだけだとオリビアがそっと教えてくれた。

翌日デイビットの機体にも同じ魔法陣に変えた。

結果はデイビットの惨敗。当然だ。

デイビットは首輪をしたままだからだ。


メルヴィがデイビット専用機に乗り「制限解除」と唱えると、メルヴィ専用機同様に凄まじい速さで飛んで行った。

デイビットの寂しそうな顔を見てエルヴィーノは決めた。

デイビットの首輪も限定解除出来るようにしようと。

まずデイビットの首輪と専用機の魔法陣と連結する追加の魔法陣を考えた。

多少時間が掛かったが、一度デイビットの首輪を外し専用機に置き、新たな魔法陣を唱える。


「さぁこれで良いはず」

エルヴィーノはデイビットに首輪を付け説明した。

それはもうデイビットは喜んだ。

「これでメルヴィと対等だ!」

などと言うのでエルヴィーノは呟く。

「大人げない」

デイビットは照れながら

「まぁ、その、なんだ」

言い訳も出てこないデイビットは直ぐさまメルヴィの元へ向かった。


「メルヴィ、チョット競争しないか?」

デイビットの問いかけに

「嫌よ、どうせお兄ちゃんに言って改造してのでしょ?」

図星だった。

「私はもうパパとは競争しないもぉん。だからずっと私が一番だよぉ」

「ずるいぞメルヴィ」

逆切れしそうなデイビットに「ずるいのは誰ですか!!」とオリビアの怖い顔がそこにあった。

「大体何ですか、あなたは!」

オリビアの説教が始まった。

メルヴィは飛び火しないうちに、そそくさと”お兄ちゃん”といつもの場所へと向かうのだった。


そんな幸せな生活を続けていたエルヴィーノは、数日に一度ロザリーの所に戻るのだが、ナタリーから呼び止められた。


「そろそろロザリー様の臨月ですので、屋敷に待機して欲しいのですが」

「えっ? それって生まれるって事ですか?」

「そうですよ」

優しく微笑むナタリーだった。

「予定日はあと20日あと位かしら・・・この時期妊婦は不安定な心境なので、是非お近くにいてくださいね」

「わかりました。一度母の元へ戻り事の次第を告げてから戻ります」


エルヴィーノは実家に戻りリーゼロッテに説明した。

「解ったわ。今度は逆になるのね」

( ? 何の事だろう)

「エルヴィーノ。あなたに大事な話があります」

そう言ってリビングに行くと全員が待機していた。


「では、これから我ら一族にとって重大な発表を家長である私が説明します」

静まり返るリビングで、エルヴィーノは何が起きたのか心配でならなかった。



「今、我らダークエルフは5人しか居ませんが新たに6人目がいる事が発覚しました」

デイビットとエルヴィーノは喜んだ。

「どこに居るんだい母さん?」

デイビットはオリビアに尋ねている。

「男か?女か? 幾つぐらいだ?」

「あなた達のすぐ側にいます」

どうやらデイビットとエルヴィーノは感が鈍いらしい。

痺れを切らしたオリビアが鈍感な男達に説明した。

「メルヴィが妊娠したのよ!」


エルヴィーノはぶったまげてメルヴィの顔を見て聞いた。

「本当に?」

メルヴィがうなずく。

デイビットは泣いていた。

メルヴィの肩を抱き今の気持ちを告げた。

「嬉しいよ、メルヴィ」

恥ずかしそうに頷く。

エルヴィーノはデイビットとも抱き合った。

「1年後には爺ちゃんだね」

デイビットは嬉しいのか照れていた。


「では、皆さん席に付いてください」

リーゼロッテが仕切り直す。


「まずエルヴィーノですが王宮の仕事が忙しいそうで、今までのように頻繁にこちらへ来る事が出来なくなります」

これはリーゼロッテの嘘だった。

まさかエルフの女がエルヴィーノの子供を産んで、こちらに来られなくなるなど言える訳がない。

「それでも10日に一度は戻って来るるさ」


優しくエルヴィーノが約束するとオリビアが言葉を重ねてくる。

「メルヴィと赤ちゃんの事は心配しないで」

「そうだぞエルヴィーノ、お前は王宮でしっかりと働いてこい」

デイビットも励ましてくれた。


エルヴィーノはリーゼロッテには全て話してあるが、デイビットとオリビアがロザリーの状態を知っているのか分からなかったが、メルヴィを心配させないように話していることは理解出来ていた。



幸せいっぱいのメルヴィでした。

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