頑張る王子が下働きになりながら、下働きの少女と下働きの仕事をする話

仲仁へび(旧:離久)

第1話




 とある場所にある、とある城。


 その城の主である王子は、下働きの少女に恋をしていた。


「あの子が俺を好きになってくれたらいいのにな」


 きっかけは王子は城の中で、趣味である変装をしていた時。


 下働きの少女と会話した事だ。


 城の中で迷子になった新人の使用人、というこちらの言葉を信じ、丁寧に道案内してくれた下働きの少女。

 そんな親切な少女に一目ぼれしたのだった。


 だから王子は、その下働きの少女に、自分の事を好きになってもらいたいと考え、色々な事をしていた。


 相手の事を知るため、色々と話をしようと思ったのだが。


 それがことごとく、掃除の時間や調理などの仕事の時間だったために、結果的に相手の迷惑になっていた。


 後は贈り物などを大量に贈ったり、知らないうちに部屋の内装を豪華にしていたり、まかないを豪華にしていたり、お給料を増やしていたりもしたが。


 それも相手の迷惑になっていた。


「王子様、そういった特別扱いはやめてください」


 公平を愛する少女にたしなめられてしまった王子はしょんぼりするしかなかった。








「もうだめだぁ。一生あの子には好きになってもらえないんだぁ」


 王子は一度ネガティブな感情を持つと、とことん引きずるタイプだった。


 しょげかえった王子は、その日から三日間部屋から出てこなかった。


 しかし四日目に、護衛が話しかけた。


「王子、いい加減に元気になってください。駄目だったのなら、他のやり方でアピールすればいいではないですか」


 その護衛は、幼い頃から王子の友人だった者だった。

 なので、王子の心のツボを心得ていた。


「頑張る王子を見れば、きっと相手は好きになってくださいますよ、王子は出来る子でしょう。そうしている間に他の男にとられたらどうするんですか」

「それば嫌だ! 俺は出来る子、強い子だ! こうしちゃいられない。もっと頑張らなければ!」


 そうして元気になった王子は、さっそく何が駄目だったのかを考え、下働きに変装する事にした。


 やる気にみちる王子。


 しかし、護衛は真っ青になった。


「王子として近づくから迷惑になるんだ。下働きとして一緒に働けば迷惑にならない! 俺って天才!?」


 そんな結論に至った王子は、その日から使用人として他の使用人にまざって働く事にした。


 食器洗いや風呂掃除を毎日頑張っていく。


 王子は元気になったが、王子を励ました護衛は後悔する事になった。








 王子(下働き)の面倒を見る事になった下働きの少女。


 少女は、王子(下働き)に親切だった。


 風呂掃除でカビをおとすコツや、食器を割らずに洗うコツを教えていく。


「あなたは、私の弟みたいね」


 その結果、少女は王子(下働き)をこう評価した。


 世話がかかるため、弟のようだと告げてきたのだった。


 仕事が終わった後の王子は、一人自室で地団太を踏む事になった。


「そうじゃない。弟ポジションを目指しているわけじゃない!」







 王子(下働き)は弟ポジション脱却のため、一層下働きの仕事に精を出す。


 仕事をこなすごとに、めきめきと腕は上がり、家庭的なスキルが色々と身についていった。


 体力仕事も多かったので、肉体もどんどん逞しくなる。


 それを見た下働きの少女は大喜び。


「私の兄さんみたいに頼もしくなったわね!」


 王子は弟から兄的なポジションに変化していた。


 それを聞いた王子(下働き)は、仕事が終わった後、一人自室で地団太を踏んだ。


「そうじゃない。カテゴリをもっとずらして! 家族じゃなくて、異性として見てほしいんだ!」







 それからも王子は下働きの仕事を頑張り続けた。


 健気に一途に、少女に振り向いてもらうために頑張り続けた。


 王子を守る護衛達はそれを見るたびに、涙目になっていくが、王子は夢中なのでまるで気が付いていなかった。


 そのおかげで王子なのに、下働きのスキルがかなり上達していった。


「こうなったら、この下働きのスキルをとことん日常に活かしてやる!」


 せっかく身に着けた技術だからと、何事も無駄にしたくない王子は色々と活用方法を考えた。


 その中の一つが潜入だった。


 その国には、王子の事を良く思わない貴族が数人いる。


 皆、腹黒く、王子への反感を表には出さない。


 だから、王子は貴族達の裏を暴くために、使用人となって潜り込んだ。


「王子が進める政策で、薬が安価で流通するようになってしまった。私達の利益が減るばかりだ。こうなったらいっそ(ぶつぶつ)」


 貴族は何か良からぬことを企んでいたようなので、王子はそれを未然に防ぐ事ができた。


 使用人スキルが役立ったと、王子は笑っていたが、護衛は泣いていた。






 スキルが役立ったのはそれだけではない。


 隣国に招待された時も、下働きのふりをして内情を探る事ができた。


「他国には見栄をはっているが、我が国の食料事情は危ない。どこからか至急、輸入せねば」

「しかし、国のメンツをつぶさずにどうやって」


 その結果、王子はさりげなく余った食料を隣国へ輸出し、その国の民達が飢えるのを防ぐ事に成功していた。


 隣国はこの恩を忘れずに、いつか返そうと考えていた。


 それは数年後、王子の国で病が流行った時に役立つ事になった。


 このように王子が身に着けた変装と下働きのスキルは、様々な面で国を助けていた。







 しかし肝心の目的は果たせていない。


 下働きの少女は一向に振り向いてくれなかった。


「一体何が駄目なんだ! 俺の変装は完璧のはず、使用人スキルもかなり上がったはずなのに!」


 王子は頭を抱えていた。


 そこで、王子(下働き)は同じ下働き仲間に、相談する事にした。


「好きな子が振り向いてくれないけど、どうしてだろう」と。


 すると、その同僚は、「ああ、あのいつも君に指導してる女の子の事ね」と恋の相手を看破。


 ついでに、下働きの少女の内心を推理していった。


「容姿の好みはこの城の王子様が一番近いらしいよ。でも性格の好みは君が一番みたいだ」

「なん、だと!」

「王子がとんちんかんな行動をせず、君みたいな性格だったらよかったのにって、前に彼女が言ってたよ」

「なん、だと!!」


 王子は雷にうたれたような衝撃を感じた。


 つまり王子は王子(下働き)ではなく王子(王子)に戻って、下働きの時の様な性格で接すれば良いらしい。






 その日から下働きをやめた王子(王子)は、下働き時代の性格で下働きの少女に接する事にした。


 迷惑な贈りものもせずに、特別待遇もせずに、仕事の時間に話しかけて邪魔をしたりはしない。


 すると、みるみる仲が急接近。


「君が好きだ! どうかこの求婚を受け入れてほしい!」

「王子様がそうおっしゃるなら」

「いやったあああああ」


 そしてとうとう、プロポーズを受け入れてもらえるようになった。

 今までの苦労はなんだったのだとげんなりする王子。


 しかし、下働きとして磨いたスキルや、培った人間関係を思い起こして。

 あれはあれで有意義な経験であったし、楽しい思い出だった、と結論付けた。



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