第8話 使徒様の行方を追いますわよ!!

「本当に使徒様の行き先に心当たりは無いのですね?」


「はい、私の呪いを払って頂いた後は、街の城壁をすり抜けてそれっきり・・・。」


「貴重な情報感謝しますわ。これは心ばかりのお礼です。」


「そんなっ!!こんなに頂けません!!」


「構いませんわ、これも使徒様のお導き、それにあなたは洗礼を受けた仲間ですもの。仲間が生活に困っているのは見過ごせませんわ。」


「あぁ・・・使徒様、教主様、感謝いたします。」


ゴーツクの街で黒いのの行方を捜していたヤクア達。その情報は城壁傍に住んでいた元盗人の供述から街の外に出たという物で終わっていた。


「どうされますかヤクア様?」


「まさか領主にまで洗礼を授けていたとはなぁ。おかげで捜索は楽になったが・・・。こりゃ街の外に出ちまってるな。」


「もちろん追いかけますわ。そして使徒様の足跡をたどり、その偉業を纏め、最後にお傍にお仕えするのです。我が家の呪われた家族が行った愚行も謝罪せねばなりません。」


「そのご家族も今や洗礼を受けて改心されたと聞いています。なぜまだ牢の中に?」


「自らの行動を反省する為にそのままにして欲しいという本人たちの希望ですわ。洗礼を受けた時点で罪は許されているハズですのに、一向に出たがりませんの。それ所か強制的に出そうとすれば自害しようとする始末。本人達の気が済むまでそのままにするしかありませんわ。」


「街の住民の大半が今そんな状態ですがね。ヤクア様が使徒様の考えを広めなければ今頃大パニックですぜ?」


「おかげゴーツクの街が我々ピュリファイ教の総本山となりました。これも使徒様のお導きかと。」


「ゼバスの言う通りですわ。だからこそ私達は使徒様の後を追い、その奇跡を後世に伝えなければ行けません。」


「じゃあ領主に掛け合って巡礼の準備に取り掛かりまさぁ。」


「同行者を募ります。恐らく街の住民が全員着いてこようとしますが、基準はどうされますか?」


「ある程度自衛が出来る者、使徒様の御心を惑わせない者にしますわ。同行者には正装を、お守りはピュリファイ教全員配りましょう。いつも使徒様が見守っていて下さるように。」


「解りました。」


黒いのが街を去ってから1カ月が経っていた。傍に居られなくなった事に若干の焦燥感と、これも使徒からの試練だと自分に言い聞かせるヤクア。心の中にいつの間にか、家族への怒りや他の洗礼者への嫉妬が沸き上がって来た。外の気、胸元にある黒いののお守りから、紫色の靄が溢れヤクアを包み込む。


「あぁ、使徒様申し訳ありません・・・。ヤクアはまた悪しき心に飲まれる所でした・・・・。救っていただき感謝します・・・。」


紫の靄が晴れるとヤクアの心に生まれていた怒りや嫉妬が綺麗に消え去り。黒いのへの信仰心だけが残る。どうやらこの世界は宗教戦争を起こそうと信仰対象の力をその象徴に付与するらしい。だが争いを起こそうにも黒いのの力は“悪意を食い尽くす”力。他者を拒絶し、排除する為に争いを起こそうという黒い感情は全て飲み込まれてしまう。黒いのはまた本人の知らない所で世界の悪意を喰らっていた。


「そうですわ!!使徒様のお力はこれで証明できます!!ならばこそ、準備をしている間にこの街に残っている心悪しき者達を救い救済をしなければ!!それこそが使徒様の御威光なのですから!!」


ヤクアは積極的に動き出す。まずは信者達にお守りを出来るだけ配布する様にと言付けた。これは、まだ信者になっていない者達にお守りを配り、使徒の力をその身で感じ取って欲しいという気持ちからだった。


お守りを身に着けた者は、生まれた時からずっと心に救う淀んだ物を自覚し、それが無くなった瞬間の目の覚めるような爽やかさと、まるで世界全体が明るくなったような、自分が生まれ変わったような感覚に黒いのの力を自覚し、ピュリファイ教に入信していく。


入信者が増えればその分お守りは多く出回り、お守りを通して黒いのに力が流れ込んでいく。この機能も世界が力を持った信仰対象が諍いを起こし、世界に多くの混乱をもたらす事を狙った機能だったが、黒いのに入っている魂は未だ真っ白、しかも本人は自由気ままに好き勝手生きているだけなので全く効果が無く。唯黒いのの力を強めるだけに終わる。


こうして、巡礼の旅(と勝手に信者たちが言っている。)の準備が終る3日後までにはゴーツクの街はピュリファイの街と名前を変え。住民は全員黒いのを信奉する信者となった。


「お嬢様準備が整いました。」


「ご苦労様ですわ。これだけ短い期間で準備をしたのでしたらかなり無茶をしましたわね?協力して下さった方々にお礼をして差し上げなければなりませんわね。」


「皆使徒様がこの街に戻って来る事を期待して、無償で手伝ってくれました。」


「それでも、お礼はきちんとしなければ。」


「お嬢、使徒様の足跡が辿れましたぜ。」


「使徒様はどちらに?」


「ゴーツクの街から東に行った所に有名な毒沼が在ったんでさぁ。商隊の連中がその沼が綺麗になっているのを目撃したって話だな。」


「確実な情報か?その者達は信者では無いのだろう?」


「ゼバス、疑う心は悪しき力に付け入られますわよ?」


「ですがお嬢様。」


「大丈夫だゼバス。きっちり入信させてからの情報だからなぁ。」


「それならば安心だ。あぁ使徒様、疑いの心を持ってしまったゼバスをどうかお許しください・・・。」


「使徒様も人の為を思った事なら許して下さるはずだ。現にお前は靄に包まれてないからなぁ。」


「そうですわね。根底に卑しい思いが在れば別でしょうが。人を思う気持ちが在るのであれば大丈夫なのでしょう。この事も経典に記しておかなければ。」


「使徒様の御心に感謝します・・・。ではお嬢様、出発は何時頃に?」


「無茶をして準備して下さった方々に挨拶をして、全員が万全の体調を整えてからとします。」


「それでしたら俺の方でやっておきやしたぜ。巡礼に行く連中の体調もばっちりでさぁ。」


「なんと!!手を煩わせて申し訳ない。」


「なぁに、同じ司祭の仲間だ気にすんな。」


「では早速巡礼の旅に向かうとしますわ。」


ヤクア達は正装を身に纏い屋敷から出る。牢に入っていた両親には巡礼の旅に出るのでそろそろ牢から出て家の事をして欲しいと説得して後の事を任せた。


巡礼の旅に馬車などは使わない。黒いのの起こす奇跡は、どんな小さなことでも見逃してはいけないと歩いて向かうのだ。


ピュリファイの街の大通りを進むヤクア一行。同行者たちもその後に続き、その列は100人の行列となった。全員が黒いのを模したローブに赤いブローチ、そして黒いののお守りを持っている。手には杖を携え、背中に荷物を背負っている。


街の人々は巡礼に出るヤクア達に向かって祈りを捧げ、巡礼者の旅の安全と黒いのが街に戻って来る事、そして黒いのが起こした奇跡の情報を持ち帰る事を祈る。


街から出て、先の長い街道に目を向けながらヤクアは一度巡礼者達に向き合う。着いて来た者達はこれから先、どんな目に合っても黒いの元に行きたいと覚悟を決めていた。


その覚悟を見て取ったヤクアは、巡礼者たちに声を掛ける。


「私達はこれから使徒様を追って長い長い巡礼の旅に出ます。途中、様々な危険があるでしょう。命を落とす者が出るかもしれません。怪我や病で動けなくなり止む無く巡礼を終える者が居るかもしれません。ですが我々の事を常に使徒様は見守って下さっています。恐れず進みましょう!我々には使徒様の加護が在るのですから!!」


「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」」


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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