鳴海後詰戦

「あんたらは?」

 二人の南蛮人に話しかける。甚兵衛などは槍を構えていたが、手を振って戦闘態勢を解除させた。


「わたしはジーン。そっちのデカブツはジル。ローマ教皇庁から派遣されてきた異端狩りさ」

 背後の大男はこくりと頷く。

 というか、金髪美人が流ちょうに日本語を話すのは違和感しかないが、まあゲームだしな。

「異端?」

「禁術とかそういったものだね。ああ、ちなみにジルはわたしの旦那だからね」

 じろじろと顔に見入っていたことで何やら誤解を招いたようだ。

「ああ、すまぬ。して貴公らの言いたいことは何となくわかった。助太刀を頼めるか?」

「ああ、あれだけの死人が動いているとねえ。理が狂う」

「よくわからんが、助けてくれるならば報酬は出すぞ」

「そりゃありがたい。わたしたちはこちらではただの不審者だからね。身分を保証してもらえると助かる」

「ならば、形式上でよいので俺の家臣としようか」

「ああ、助かる」


 こうしてジーンとジルの二人を戦列に加えて鳴海へと向かう。


「主よ、貴方の道をわたしに示し、導きのあらんことを。迷える魂は主のもとへと還り大いなる精霊と共にあらん」

 何やら呪文を唱える。彼らの持っていた両手持ちの大剣がボヤッと光を放った。


「ぬうん!」

 ジルの声を初めて聴いた。裂帛の気合とともに振り抜かれた剣は死者を真っ二つにして、その骸はボロボロと灰に還っていく。

「灰は灰へ、塵は塵へ。魂よ、平安のあらんことを」

 つぶやくように弔いの言葉をかける。

 再び振るわれた剣は、かすっただけで死者の呪縛を解き、塵へと還っていく。先ほど半数以下の敵に対してものすごく苦戦していたのがウソのような状況だった。


「ジーン、あの祝福とやらを俺の武器にかけてもらうことはできんのか?」

「ふむ、信仰心が試されるものだからね。まあ、試しにやってみようか」

 うまく行けばラッキーくらいなもんだ。


「前略、ブレス!」

 そんな詠唱でいいのか!?

「お、かかったようだな。試しにジルと共に敵に斬り込んでみると良い」

 こんなのでいいのか……?


「おりゃああああああああああ!!」

「殿おおおおおおおおお!」

 甚兵衛がなんか叫んでいるが、とりあえず槍を振るって敵をなぎ倒す。下手に生身の兵と戦うより楽だな。当たれば敵が倒れていく。要するに特効ってやつか。


「例えばだが、部隊全てに短時間でいいから祝福をかけてもらうことはできるか?」

「ふむ、殿経由でならできるかも知れないねえ。さすがに1000とか2000の兵すべてっていうのは難しいけども、このくらいの規模ならいけなくはないかな」

「なら、城の後詰をする際に頼む」


 兵を進めると徐々に死人兵の数が増えていく。ジルが前に出て蹴散らすので、兵の士気は悪くない。

 そうこうしているうちに鳴海付近に到着した。


「殿、城は城門付近まで攻めよられております」

 城壁の上から矢を降らすが何本刺さっても構わずに前進する様は、倒す方法を確立したわが軍でなければ悪夢の光景であろう。


「普通の兵ならうちの兵力じゃどうしようもないけどな。今回は切り札がある」

「はっ」

「ジーン、頼む。祝福がかかったら全軍一文字に敵を突き抜けろ!」

「……我が主の兵は神の兵たる者どもなり。祝福あれ!」


 ジーンが祈りをささげると、周囲の兵もろとも光に包まれる。

「どの程度効果が続くかわからん。続け!」

「おおう!」


 光に包まれた我が手勢は一気呵成に死人の軍を斬り裂いていく。何なら武器に触れただけで敵兵は消滅するのだ。そうこうしているうちに死人の軍勢の中心部に生きている兵がいた。若干表現がおかしい気がするが、どうやら奴らがこの死人の兵を操っているようだ。


「あれなるは朝比奈の手勢のようにござる」

「ふむ、兵力自体はそう変わらんなあ」

 死人の兵は祝福の光を恐れてこっちに近寄ってこない。すなわち……好機!


「あれなる敵兵に取り掛かれ! あ奴らを倒せば死人の兵は退くに違いない!」

 あてずっぽうだけどもそれほど外れているとは思えない。おそらく何かの手段を用いてこいつらを操っているということだ。


「うぬ、あれなるは柴田の麾下にいた天田か! 相手にとって不足なし」

 朝比奈泰能と思われる敵将は、左手に巻いていた数珠を振るった。すると、今まで遠巻きにしていた死人たちがこちらに向かって左右から挟むように押し寄せてくる。


「殿、あいつが持ってるブレスレットが怪しい!」

「俺もそう思う。突破できるか?」

「任せて!」

 ジーンとジルが斬り込むと、左右から迫っていた死人兵は溶けるように消え失せた。


「なにっ!?」

 敵将は驚きに動きが止まった。

 そこを槍衆に一人紛れていた小一郎が矢を放つ。一直線に飛んだ矢は見事に敵将の首を射抜いた。

「天田士朗が小姓、小一郎が敵将を討ち取った!」

 敵が怯んだその一瞬を逃さず藤吉郎が槍衆を一揆に突撃させる。

「ここだ! かかれや!」

 見事に呼吸を読んだ突撃で敵兵は一気に崩壊する。周囲ではジーンとジルが死人兵を次々と蹴散らしていく。

 うめき声をあげながら後退していくが、朝比奈の持っていた数珠を祝福された刀で斬り飛ばすと、死人兵の術が切れたのか徐々に動きを止めてただの死体へと戻って行った。そこに強い風が吹き、死人の群れは塵に還りまるでその場には何もなかったかのように吹き散らされた。

 その状況を見て城からも歓声が上がる。鳴海城を攻囲していた死人の軍を撃破し、城の救出に成功した。


 ピコーンとアラームが鳴る。久しぶりのシステムメッセージだ。

『Mission Complete!』

 ジーンとジルが家臣に加わりました。あやかしの兵に対して特効があります。

 藤吉郎と小一郎の手柄が一定値を超えました。苗字を与えることができます。

 

 イベント、雪斎の執念が開始されました。


 システムメッセージが流れた後、視界が暗転した。どうやらイベントムービーが流れるようだ。そこで、今回の死人の軍勢の所以を知ることになるのだった。

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