織田弾正忠家に仕官
「ぬうん!」
暑苦しい叫びと共に柴田権六様がもろ肌を脱ぎ力こぶを作って見せる。
その姿を侍衆がはやし立てる。
「まるで山のようじゃ!」
「腹の筋肉で大根をおろそうぞ!」
「岩山のごとき背中に付いていきますぞ!」
どっかのボディビル大会か!?
「わはははははははは!」
俺の隣で高笑いを上げているのは織田弾正忠信秀様。すなわち、尾張で一番の実力者である。
「儂もいくぞ!」
すぽーんと狩衣を脱ぎ捨てるとふんどし一丁の姿で柴田様とともに鏡写しのようにポーズを決める。長年の戦場暮らしで鍛え抜かれた筋肉は見事な盛り上がりを見せ、同時に侍どものテンションは最高潮に達した。
「殿! 愛してます!」
「柴田殿! 今度一緒に風呂に!」
「柴田殿! 兄者と呼んでもよろしいか!」
「ぬおおおおおおお!」
阿鼻叫喚だ。こいつらどんだけストレスをため込んでいるのだろうか……?
むしろこんなイベント実装した政策人の頭の中をカチ割って見てみたいとすら思った。
そのまま広間の前にある庭で酔っ払いどもが相撲を始める。土俵などはなく、その場でつかみ合いをはじめ、実に汗臭い。
そうして大方の侍が気絶するか酔いつぶれた後で、俺は殿さまに呼ばれた。
「天田殿。都はいかなる様相であったるか?」
「……よくはありませぬ。細川、三好の争いによって焼け出された難民が押し寄せ、わずかな食を巡って相争う有様にありました」
「うぬう……」
「主上はいかがにあらせられたか?」
「御所の築地は破れ、子供が出入りするほどの有様で……」
「さようか。先だって近衛卿がいらっしゃったでな。三千貫を寄進したのだが」
「……厳しいでしょう。底の抜けた桶に水を注ぐようなものです」
「誰かが底を塞ぐ役を果たさねばならぬか」
酔っぱらって馬鹿笑いをしていたとは思えない。というか最初からこうしてくれればよかったのに、などと思っているとニヤリと笑みを浮かべた。
「ふん、酒が入ればお主の心底もわかろうが。……お主の見識、武辺を我に貸してくれぬか。ひとまず権六が組下で頼む」
「はっ、これより大殿と呼ばせていただきます」
威儀を正し頭を下げる。この人にはかなわん。ゲームのキャラとは思えない人間臭さがあった。
中で役者とかが動かしてるんじゃないだろうかとすら思った。
「歓迎の杯じゃ!」
いつの間にか再起動していた柴田権六殿……上役だから殿か。が、赤ら顔をさらに赤らめて俺の手元の杯に酒を注ぎこむ。
「くくく、酔いつぶれん程度に飲んだふりをしておったがの。これよりは身内じゃ、遠慮はいらんぞ!」
ニカッと破顔した大殿が柴田様をあおる。
「なんじゃあ、けしからん。儂の酒が飲めぬと申すかー」
「いえいえ、飲みます。のみますって」
「がはははははははははは!!」
現代ならハラスメントだよなあとか思いながら酒を飲み干す。胃に何やら熱い感覚が伝わり、今どきのVRすげえと思いつつ、夜は更けていった。
翌朝、大殿に呼ばれ、広間に入ると柴田様がいた。
「天田よ、当家の状況をどの程度知りおるかの?」
今川との戦いに勝って三河の西半分を制していると知っている限りのことを伝えた。
「うむ、先ほどのいくさで松平は当家に与した。一応、武衛様に降ったこととなっておる」
「事実上は当家に降ったと」
「うむ。とりあえず貴様は新参故に所領を与えるには手柄がいる。権六を頼母の砦に入れる故、貴様はそれに従いてゆけ」
「はっ」
「うむ、良き手柄を期待しておるぞ」
そう言い残すと大殿は小姓と共に去って行った。
「して殿。俺は何をすればよいので?」
「うむ、頼母には砦を築いたでな、儂はそこに入る。そしておぬしには村を一つ押さえてもらいたい」
「村?」
「うむ。所領を預かったのちはその所領を発展させ、主家に税を納めねばならんのだ。しかし、村や当地の商人などにそっぽを向かれてはどうにもならぬ」
「なるほど、村の代官として掌握すればよいのですね」
「うむ。ひとまず兵を30預ける。村の人手としてもよいが、兵として鍛えるのも忘れぬように」
「はっ!」
『主命:代官地の守備 を受託した』
兵は砦から連れて行くらしい。殿の率いていた兵と共に城を出ると……。
「兄ちゃん!」
「へ?」
城の門の外に昨日助けた兄弟が待っていた。
「先日はお助けいただき、ありがとうございます」
兄弟の中でも年長の姉がぺこりとお辞儀をする。
「何、当たり前のことをしたまでじゃ」
改めて見ると綺麗な顔立ちをしている。これはヒロイン候補か!?
「あんちゃん。これからどこへ行くんだ?」
「ん? ああ、俺は織田様に仕えることになってな。そちらの柴田様の部下として頼母へ行くんだ」
「じゃあ、俺たちも連れて行ってくれ!」
「へ?」
事情を聞くと、どうやらこの兄弟は家出をして来たらしい。母親の再婚相手がすさまじいろくでなしで、借金のかたに姉を売り飛ばそうとしているのを知り、逃げてきたというわけだ。
「ちなみに、もう一人いるんだ……」
弟の後ろからさらに幼女? が一人出てきた。
「おさむらいさま。おねえちゃんをたすけてくれてありがと!」
たどたどしい口調でお礼を言う幼女。そして視線を感じて後ろを見ると……。
「天晴!」
殿が扇子を開いて目を潤ませていた。
「姉を助けるためにまだ頑是ない年にもかかわらず相働くは実に殊勝なり!」
「え、ええ。そうですねえ」
「うむ、天田よ。おぬし独り身であったな」
「え、ええ。なんなら天涯孤独ですが」
「なれば小間使いと小者としてこの兄弟を雇ってやるがよい。なに、その程度の給金は儂が出してやろう」
「「ありがとうございます!!」」
俺の意見を一言も聞かず、物事が決まってしまったようだ。
小者とはいえ家来には違いない。こいつらも食わせていかんとならんか……と考えたが、ゲーム内世界だからな。なんとかなるだろう。
そうして砦に着くとすぐに兵を率いて村に向かった。
周囲を柵に囲まれた小さな村は、先の戦いの後織田家に降ったそうだ。
「よろしくお頼み申し上げますじゃ」
村長の挨拶を受け、内政が始まった。
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天田 士朗
段位:2 経験値:5/18
統率:67
武力:85(+1)
政治:54
知略:58
身分:素浪人→足軽(主家:織田弾正忠家 上司:柴田勝家)
俸禄:2貫文
スキル:見切り2 武術:5 農業知識:4 経世済民:4 算術:2 足軽:1
装備:主武器:打ち刀 副武器:脇差
麻の服 ふんどし 半中草鞋
村:レベル1
忠誠度:20/100
発展度:30/100
開墾度:35/100
人口:300/500
兵力:60/250
訓練度:20/100
村長:権兵衛
統率:44(+24)
武力:65(+45)
政治:38(+18)
知略:40(+20)
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