戦国アンビシャス

響恭也

戦国アンビシャス

 息を切らして階段を駆け上がる。さっき来ていたスマホへの通知。最新VRギアが当選したのだ!!!

 さらに、新作ゲームのテストプレイ権までついてくると言うおまけがついていた。

 天涯孤独の身の上で彼女なんてステキなものはいやしない。趣味はゲームで、稼いだ給料はすべてそれにつぎ込んでいると言っても過言じゃなかった。

 

「いやっほおおおおおおおおおおおお!!」

 隣から苦情が来そうな歓声を上げて部屋に飛び込む。何なら仕事も早退してきた。ドアに挟まれていた宅配屋の伝票から電話をかける。


「もしもし」

「不在伝票を見たのですが」

「はい、お名前をどうぞ」

「天田です」

「フルネームお願いできますか? あとご住所もお願いします」

「はい、天田士朗。住所はXX県○○町。ハイツ織田の201です」

「ああ、はい、確認取れました。これから御在宅ですか?」

「はい」

「では10分ほどでお伺いいたします」

「はい、よろしくお願いします」


 電話が切れた後、改めて伝票を見ると、発送元は栄光コーポレーションとなっていた。ということは中身は間違いなくゲーム機と新作ゲームだ。

 戦国アンビシャスVR。これが正式なタイトルだ。舞台は戦国時代。武士、商人、忍者、武芸者などの職業を選び、天下を統一するか天下一の称号を得ることが目的だ。

 俺は過去作をすべて網羅していた。武士のみしか選べなかった初代。オリジナルキャラでプレイできた2。そして合戦で無双できた3。一騎打ちが搭載された4。

 戦闘要素ばっかじゃねえかと言われればそれまでなのだが、やはり王道は武士で天下統一なのである。

 ただし、他の職業であっても肩入れする大名家を天下統一まで導くと言うメインシナリオがある。天下一武芸者でエンディングを目指す武芸者でもいいのだが、結局その武勇を天下統一に向けることになることが多かった。


「そもそもAIの大名は意味わからんことするからなあ」

 ほっておくといつの間にか九州から攻めあがってきた島津に叩きのめされる織田家とか実にシュールな戦国模様が出来上がる。

 どうプレイするか、VRになってどう操作性が変わるかなど、事前情報からいろいろ考えていく。


「やっぱ最初は武士だろ。いくさ場でパッと散るもまた良し……って討ち死にしたらゲームオーバーじゃん。なんでやねーん」

 テンションが上がってきて意味不明なことを口走る。それくらい俺はゲームに心を奪われていた。


ピンポーン


「はーーーーーーい!」

「あ、天田さんですね? こちらお荷物お届けにあがりました。ハンコかサインお願いします。はい、確かに。ありがとうございましたー」

「はい、ご苦労様です!」

「では殿、よろしくお願いしましたぞ」

「へ?」

 宅配のお兄さんは最後に意味不明なことを言って帰って行った。ああ、伝票を見て中身を推測したんだな。なかなかノリのいい兄さんだな。名前は……ま、いいか。


 ゲーム機本体にVRギアを接続し、いつものゲーミングチェアに座る。ヘルメット状になっているギアをかぶり目を開く。


『網膜パターン確認。ユーザー登録を開始します』

「ふおおおお!?」

『お名前をどうぞ』

「あ、ああ。天田士朗だ」

『アアアアマダシロウダ様でよろしいですか?』

「なんでやねん!」

『ナンデ ヤネン様でよろしいですか?』

 全力でツッコミたい衝動を押さえ、改めて名乗る。

「天田 士朗」

『アマダ シロウ様。ユーザー登録を受け付けました』

「最初からそうやって判別しろ!」

『???』

「ああ、もういい。「戦国アンビシャス」を起動して」

『かしこまりました。現在ゲーム本体データをダウンロードしています。先にキャラメイクをお勧めします』

「わかった。キャラメイク実施」

『キャラクターモデルを表示します』

「うーん、初期ジョブは武士で。パラメータは……ふむ」

 ここから約1時間にわたるこだわりのキャラメイクが行われた。パラメータの数値はジョブに応じて変わる。武士は基本戦闘能力が高い。ただし、部隊を率いたときの統率も重要だ。低すぎると兵が脱落したりする。

 かといって武力が低いと討ち死にのリスクが上がる。不要なパラメータはないのだが、初期値はどうしてもそれほど高くならない。


「うぬっ! ここで妥協すべきか? いや、ここで妥協したら絶対後悔する!」

 能力の合計は上限が270で258だった。更なる高みを目指して俺はガチャを回す……そして。

「よっしゃあっ!」

 歓喜のあまり服を脱ぎ捨てそうになる。出てきた数値はボーナスを含めて263。ほぼ上限だ。

 そのあとスキルのガチャを引くと……一発目でSSランクスキルを引き当てた。

「ヒャッハー!!」

 テンションが上がりすぎて椅子から落ちそうになるが、このVRギアを装着している間は身体は動かない。

 シャットダウンコマンドを入力するか、身体の機能が危険値を示さない限りそのままだ。

 ちなみに、俺のようなテスターはある種の人体実験ともいえる。まあ、新作ゲームが遊べるならそんなもんはどうでもいい。


天田 士朗

段位:1 経験値:0/15

統率:67

武力:84

政治:54

知略:58

身分:素浪人

スキル:見切り1 武術:3 農業知識:4 経世済民:4

装備:主武器:打ち刀 副武器:脇差 

       麻の服 ふんどし 半中草鞋


 そしてついに完成した自キャラを確認し終わったところで……ゲームのダウンロード完了を示すアイコンが視界の片隅に浮かんでいた。

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