むかしのはなし

ミタカ ナントカ

第零噺  むかしのはなしをするところ

ここは、とある場末の酒場。夢破れても、その未練を捨てきれない者たちがその夢を語らう場所。看板はすっかり古ぼけていて、この店が長く続いてきたことを示している。

今日もまたお客が来たようだ。既にどこかで飲んできたのだろうか。部下に肩を担がれながら、ヨタヨタと店の階段を降りる足音がする。

 「よぉ~、マスタ~!今日もシケてんなぁ。飲みに来てやったぜ~!」

酒臭い息を撒き散らしながら、男が店の扉を押すとギギィと嫌な音をたてながら扉が開く。すると、奥に立っていたマスターと呼ばれた男が

 「いらっしゃいませ。ご覧の通りですので、お好きな席へ。」

とだけ言う。店の中に他の客はおらず、マスターと呼ばれた男も、グラスを拭くふりに飽きていた所のようだった。

 「カウンタ~でいぃか~?おまぇら~。」

酔った男は、返事も待たずにズカズの奥に進むと、鞄を床に投げつけるように置き、マスターと呼ばれた男の席に腰をおろした。

 「ちょ、先輩!待って下さいよー。」

 「まだ飲むんですか!?体壊しますって!」

止めようとする後輩二人の言葉に耳を貸さない酔っぱらいは、大声で言う。

 「うるせぇ~!今日は俺の奢りだぁ!好きに飲まんかぃ!」

顔を見合わせた部下二人は、やれやれと言った感じで席につくと、メニューに目をやる。

 「へぇー、以外と揃ってますね。課長は何にします?とりあえず生っ。てことはもう無いでしょうし。」

 「というか、他にお客さんがいないとは言え、大丈夫なんすか?こーゆー店で騒ぐと怒られたりしそうで。」

堅物そうな見た目の部下の一人が、同僚の能天気そうな男に耳打ちする。

 「お気になさらず。それより、何になさいますか?決めかねているようであれば、適当なものをお作りしますが。」

 「じゃあ~、それで!いいなお前ら?この店は客が少ないけれど味は確かだ!マスターのお任せならハズレなしだ!」

 「まーた勝手に決めるんすから。別にいいですけどー。」

 「まぁまぁ。初めてのお店ですから。私、初めてなんですよね。こういうお店に来るの。」


さて、今日はどんな夢が語られるのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

むかしのはなし ミタカ ナントカ @maikurasg

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ