夏祭り
黒咲蒼
第1話
軽快な祭囃子が外から聞こえ、僕は目を覚ました。
自室の窓から、まだ夜が明けたばかりの外を見ると、地域のそこそこ大きい祭りが今日やるということはすぐにわかった。
「今年は今日か」
僕は、丸の書いてあるカレンダーとその横に留めてある男の部屋には似合わないネックレスを見ながら、僕は彼女に会いに行く準備をした。
彼女のところに向かう途中、僕は去年のことを思い出す。
去年一緒に行った祭りで、一緒に花火も見たな…
他には……色々あって思い出せない。
彼女の笑う顔だけが、僕の脳の中にしっかり焼き付き残っている。
可愛い彼女…
彼女との思い出を色々思い出していたら、彼女のいるところの前まで来ていた。
僕は彼女の前まで行こうと歩みを進めていたら、背後から声をかけられた。
「ねぇ」
僕は振り向く。
そこには、僕の記憶の中にいる、彼女と瓜二つの浴衣の少女が立っていた。
思わず僕は、もういるはずのない彼女の名前を彼女に投げかけてしまった。
「茉理!なんで…」
そう、僕が声を投げかけると、少女は首を傾げ、
「マリ?違うよ。私はマリアだよ?」
そういう少女の顔はどこか寂しげな気がしたのは多分、夏休みに入ってからずっと勉強をしていたせいかと思う。
「ねぇ!!」
少女をじっと見る僕に、少女は大きな声で叫ぶ。
「ねえ、私とお祭りに行かない?」
それは、おかしな誘いだった。
全く知らない少女、いや、僕がかつて愛した彼女に似た少女から、そんなおかしな誘いの言葉が投げかけられるなんて多分、誰も予想していなかった…
そして、こんなおかしな誘いに「はい、行きます。」なんて答えるのは、多分世界中を探しても僕だけだろう。
「いいの?!!じゃあ、19時に神社の前に来てね!絶対だよ!!遅れたら、りんご飴買ってね!!」
「わかったよ」
そういい、少女に一時別れを告げ家に帰ることにした。
少し仮眠してから向かおうと思い床につくと、すぐに寝ることができ、そして久しぶりの夢を見た…
「やべ、遅れる…」
それは『あの日』の夢だった…
「今何時だ…もうこんな時間かよ」
僕は、短針が7と8の間を指し、長針がちょうど下を指しているときに目が覚めた。
遅れることが確定だ。
僕は彼女に遅れる旨の連絡を入れた。
返信はなかった。
僕が彼女との待ち合わせ場所に近づくにつれて、不吉なサイレンの音が徐々に大きくなっているように感じた。
その不吉は、まさか自分の大切な人に降りかかっていたなんて、その時の僕は知らなかった。
そして、僕は、その不吉を目の当たりにした。
事件というか、事故の概要は、酔っ払った運転手が運転するトラックが祭りに突っ込んできたというものだ。
そして、それに運悪く彼女は巻き込まれて、17年という短い人生に幕を閉じた…
目が覚めた僕は、携帯の時計を確認した。
携帯は19時00分をディスプレイに表示していた。
血の気がサッと引く感覚がした…
僕は直ぐに家を出る準備をすまして、神社に向かって走り出した。
その間も嫌な汗が身体中から出ているのを感じた…
僕が必死に走っていく横を救急車が通り過ぎて行き、更に僕の心臓は鼓動を早くしていった…
それは、『あの日』を思い出してなのか、はたまた家から全速力で走っているからなのか…
神社の前には2度と目にしたくないと思っていた、黄色と黒の規制テープが貼ってあった。
「急に倒れたけど大丈夫かしら?」
「近くにいたあの女の子は大丈夫なのかな?」
そんなことを言っている野次馬がいて前に進めず全く状況が理解できずにいた。
「すみません。僕の連れかもしれませんので通してください」
その声は、サイレンの音と、野次馬たちの声にかき消されて、誰にも届かなかった…
「どうして…なんで……」
そう僕が、どうしようもない気持ちになっていると、
後ろから背中を叩かれた。
そして、昼の炎天下の中で聞いた、声で僕に語りかけてきた。
「何遅刻してるんだよ!遅刻したから、りんご飴買えよ!!」
僕はその方向に身体を捻ると、その少女に抱きついていた。
そんな僕を少女は、優しく抱き返してくれた。
そして一言
「約束は守ってね。〇〇」
と、教えてもない僕の名前を言われ困惑して瞬きをした次の瞬間
僕は空を抱きしめていた。
少女は何者だったのだろう?
僕はそんなことを考えながら、りんご飴の屋台に行き、りんご飴を2本買った。
夏祭り 黒咲蒼 @Krosaki_sou
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