私の嫌いな人物の話

華吹雪

目の前の彼女の話

「お前なんて大っ嫌い。」


私は、目の前の今にも泣き出しそうな人物に告げた。

潤んだ瞳も、私の手と重ねるその手も、全てが煩わしい。苛立ちを覚えた私は、彼女から目を逸らし、無視をした。元々、存在なんてしていなかったかのように。



次の日。凝りもせずまた私の前に彼女は現れた。


「いい加減にしてくれない?」


怒りを隠すこともせず、今朝も私は、彼女に向かって冷たい言葉を投げかけ、その後は彼女から目を逸らし、無視をした。

彼女は私の問いかけに返事をすることは無い。だから、無視をすること自体は容易いはずなのだ。

しかし、彼女は毎日私の前に姿を現す。それはいつも私と同じ方向から現れ、私に不快感を与える。家、学校、図書館、アパレルショップなど、彼女は誰かと一緒でも顔を出す。

彼女と目が合うのが嫌で、最近は下を向いて歩くようになった。しかしずっとそうしている訳にもいかず、渋々顔を上げると、生気のない目をした彼女と目が合う。そんな日々の繰り返しだ。

今日もそんな彼女を煩わしく感じながら、いつも通りに過ごし眠りについた。



次の日。今朝も彼女は目の前に現れる。


「うざい。」


そう言ってすぐに顔を下に向ける。今の彼女は、きっと悲しそうな表情をしているだろう。でも、そんなこと私には関係ない。いつも通り過ごすだけだ。


でも、今日はなんだか、いつも通りが上手くいかなくて。誰の顔も見たくなくて帰ってきてすぐ、自室に籠った。

ああ、課題を忘れるし、友人の期待に応えられないし、電車で寝過ごすし。


どうして、上手くいかないんだろう。

なんで、失敗するんだろう。

どうして、私はこうもダメなやつなんだろう。


ーーーーー


『なんでそんなことも出来ないのよ。』

『あの子はもっと上手くできているのに。』

『ほんとあの父親にそっくりね、反吐が出るわ。』


『また怒られてんの?』

『でもあんたが簡単なことも出来ないからでしょ?』

『なんで泣いてんの?』

『泣いてる暇があったらもっと努力すれば?』


『あの子、あの先輩の妹らしいよ。』

『まじ?才色兼備の先輩とは全然違くね?』

『めっちゃわかる。血繋がってなかったりして(笑)』

『有り得るわ(笑)』


『浮気ごときでうるせえ。』

『お前重いんだよ。』

『二度と俺の前に現れるな。』


『なにかあった?』

『別になにも。』

『でも顔が悲しそうだし、辛そうに見えるよ…?』

『大丈夫だから。』

『でも心ぱ…』

『ほっといて!!』

『…うん、ごめんね。』

『あ、そのそんなつもりじゃ…。』


ーーーーー


ああ、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。


今にも泣きそうな私は、彼女と窓越しに目が合った。醜い顔。いっそ幽霊の方が嬉しいとさえ思う。私はふらふらと鏡の前に行き、その顔を見つめる。

そして、一昨日と同じように鏡に手を置き、あの言葉を呟いた。

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私の嫌いな人物の話 華吹雪 @Hanahubuki

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