君のことを想っている。という嘘。
エリー.ファー
君のことを想っている。という嘘。
僕は君のことを想っているよ。
でも、それはきっと届かないだろうね。
そうこうしているうちに、この愛は、少しずつ劣化してしまうだろう。
ごめんね。
本当に、申し訳ない。
僕は僕の中にある言葉を吐き出す以外の手段を知らないんだ。
これは、君に向けて書かれたラブレターではない。
勘違いなんだよ。
怒りと、悲しみに満ちた、誰かの言葉なんだよ。
同じ場所で足踏みをし続けていると忘れられてしまうから。
誰かの言葉を借りて、自分の生き方をデザインしているんだ。
本当はね、君に想われているかどうか、僕が想っているかどうかなんて全く無意味なんだよ。
運命の先にある、ほんの少しの可能性から生み出された時間が、自由に見えるというだけなんだ。
僕たちは。
いや。
僕たち以外のすべての人もそう。
全員がそう。
逃げられないのさ。
愛とか恋とか、そういう綺麗な言葉に身を任せることだけに必死になって本質がなんであるかを知らないまま歳をとろうとしているのさ。
そう。
不安なのにね。
でも。
分からないままでいれば、不安も通り過ぎてくれるだろう。
うん。
それも妄想だけどね。
気づかなければいいんだ。
そして。
気づかなければいいと思っている時点で、既に気付いてしまっているんだけどね。
不憫だよね。
人間ってのは。
不器用で、間違いに彩られた下等種族だよ。
そう、思うだろう。
そう、思っていなかったら、君はここまで読んでいないだろうね。
良かった。
君はこっち側で、何かを理解するために、自分の頭を使えるタイプなんだね。
安心したよ。
追っている言葉が、もしかして、本質を突いてくるんじゃないかと心配しながらも、自分の聡明さでオナニーをしてきたタイプなんだろう。
大丈夫、大丈夫だよ。
気にしなくていい。
それってね。
皆、してるから。
君が特別だと思っている、君の特徴とか個性。
皆、当たり前に持ってるから。
君が気付いてないだけで、君みたいなのが世の中にいるから。
結構、君みたいなタイプばっかりだから。
上の上ではないにしろ、中の上とか上の下にはいるとか思ってるでしょ。
もっと言うなら、上の中で、上の上くらいには指先が届いていると思ってるでしょ。
君ね。
下の下だよ。
下の中にも、その手は届いてないよ。
君はね。
才能のなさと実力のなさを、キャリアの長さと、所属している派閥と、結果を出した誰かの名前と肩書のおこぼれで水増しし続けて、自分の人生の伸びしろを食いつぶした、プライドの高い凡人だよ。
ほら、似てる。
誰に似てると思う。
さっきも言ったよね。
僕と似てる。
で、僕ってどこにいると思う。
いないよ。
僕は、どこにもいないよ。
じゃあ、この物語は誰が書いてると思う。
誰の作品だと思う。
誰に依頼されて生まれているものだと思う。
君だよ。
君が、君に向かって呪いをかけて、君に書かせた物語だよ。
周りを見るべきだよ。
もっと、注意深く感じるべきだったんだよ。
最初から、この場所にいるのは、君だけだよ。
君以外いないんだよ。
感じさせるのも、感じるのも、感じていることを観察するのも、感じるとは何かを考えるのも。
全部、君の仕事だったんだよ。
放棄せずに、やっておけば。
何一つ、知らない、分からない、考えない。
そういう生き方さえしなかったら。
何か見えたのかもしれないのに。
もっと、生意気で、もっと、ナルシストで、もっと、他人を軽蔑していたら。
君は。
何かになれたいたのかもしれないのにね。
そして。
この言葉を聞いて、自分は違うと安心した君の表情を見ながら、打ち込むラブレターの色が。
僕はね。
僕は、大好きだよ。
僕は、君のことが大好きだよ。
本当だよ。
嘘じゃない。
嘘じゃあないんだよ。
愛してる。
「これ、なんなんですか」
「昨日、この屋敷で自殺があっただろう」
「あぁ、ガキですよね」
「そう、そのクソガキの遺言」
「キモいっすね」
「ほら、また逃げた」
君のことを想っている。という嘘。 エリー.ファー @eri-far-
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