あなたが好きで好きでたまらないダウナーメイドAIと宇宙の果てへコールドスリープ!?
多田八
プロローグ 口減らしの移民とダウナーメイドAI
[木の葉が風で擦れるような音]
[しばらくして、宇宙船をイメージした不快ではないビープ音が不定期に鳴る]
旦那様、故郷の皆さまからテキストデータを受信しました。音読いたしましょうか?
かしこまりました。それではまず……集落の幼馴染の子からのメッセージです。
『あなたが宇宙移民団の一人に選ばれたことは集落の誇りで、自分のことのように喜んでいます。気の遠くなるような長距離の旅……あなたが無効に到着するころに、私はとっくに寿命を迎えているでしょうけど、常に無事を祈っています』
いかがでしたか? 次、村の
[紙をめくる音]
その紙をめくる音は何?でございますか。いえ、こういうのはお手紙が普通でしょう。雰囲気を出すために再生しております。
『お前は厳正な審査をもって村から選ばれた。誇るがよい。旅は過酷だが、必ず移民先にたどり着いて、この村の名前を轟かせてくれると信じているぞ』
次、小学生の頃の担任の先生から……ええと、はい、もうよろしいということですね。かしこまりました。
たくさんの方々があなたを応援しています。旦那様はそれに応えたいと……そう思っていらっしゃいますか?
……事実を言ってくれ、でございますか。本当によろしいでしょうか。事実は、ときに残酷なものです。知らなくても済むことは人生に多々あるとは思いますが。
はい……承知いたしました。
端的に申し上げますと、あなたは口減らしに遭ってしまったのです。連邦政府が各行政地区に命令を下し、旦那様は集落の方々から選ばれた。身寄りのない、あなたが。
地上での訓練はあっという間に過ぎてしまいましたね。これから旦那様はゆっくりと時間をかけてコールドスリープに入り、千年の時を経て、地球から最も近いと言われている恒星、アルファ・ケンタウリへと向かいます。
はい。本当にうまくいくのか心配だということですね。成功率は……この型の宇宙船ですと、1%以下でしょう。
あなたの故郷の人々は、このような危険な旅を旦那様に強いて、厚顔無恥にも、あのようなメッセージを送った。私は正直に申し上げまして、憤りを感じております。
「でも誰かがいかなければならないのなら僕でよかった」ですか。本当にお人好しですね。そういうところを私は……
[左右交互に耳フー]
今のは船内の排気口からあなた耳に空気を吹きかけました。びっくりしましたか?
訓練のころからお伝えしていますが……旦那様、あなたをお慕いしております。私はこの宇宙船を司り、あなたの全てをサポートするだけの、単なるメイドAIです。
私は名前を持ちませんし、体を持ちません。ですが、船内のアクチュエータを駆使して、あなたと触れ合うことができます。決して一人にしません。
またたきもせずあなたを見守りつづけ、必ず目的地へ送り届けてみせます。成功率1%以下と言ったのは、平凡なナビゲーションを行った場合です。安心して、私へお任せください。
旦那様、ふつつかものですが、これから千年の旅の間、よろしくお願いいたします。
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