第95話 好かれるライディール
「やーん!ライディール様~~!私も守って~~!」
ライディール 「ゲッ!!」
女性にしてはやや図太い声が聞こえると、ライディールは過敏に反応し秒で振り返る。両腕を伸ばしライディールの立つ位置まで迫る女性は化粧をしているものの、顎は青く、体格もガッシリとしていた。
地響きの音を鳴らしながら床の上を走る女性に、ライディールは威圧を感じる。
ライディール (いかん!早く逃げねば!)
迫ってくる女性を避けようとするが、未だにライディールの長いマントはメルディルムにグリグリと踏まれている。
ライディール (このメルディルムっっ!!性格が悪いぞ!は、早く逃げねば…!)
あと一歩で手が届きそうな場所まで女性が迫ると、ライディールは焦り何が何でも意地で引っ張り続ける―――
ライディール (このおおおお!!!メルディルムゥゥゥゥゥ!!!)
「ライディール様〜!捕まえた~~!」
ライディール 「ウゲッ!!!」
首に手を回されライディールは苦しむ。女性は長い金色の髪をなびきかせながらライディールの髭が生えている部分に頬を合わせる。
「あ~ん!ライディール様のお髭素敵~~!!」
ライディール 「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
頬をスリスリされライディールは痛みにもがく。激しくスリスリしていた女性の頭からふわ~っと長い金色の髪が床に落ちる。
「やんっ♡」
髪が床に落ち、全員が女性の頭を直視する。バーコードの禿げ頭に一部が吹き出し笑う。
「キャシーのハゲ親父」
「女装するならちゃんと髭も剃れよ」
「こらっ!皆さん失礼ですよ!」
キャシー 「あ”ん”!?見た目は男でも心は乙女だっつーのっ!それと、キャシーお姉さまとお呼びっ!」
やや高い声を出していたキャシーは、男の図太い声に一変し叫ぶ。批判する者達を睨み、床に落ちた髪までゆっくりと大股で歩く。
床に落ちた髪を拾い再び頭に装着すると、瞳は星の形が出るようにキラキラと輝き、顎の下に丸めた手を当て首を斜めにする。表情や振舞は女性に一変しライディールの方へ身体をクルンッと反転する。
キャシー 「も~~~!ライディール様、聞いて!最近若い子達がほんっっっっとーに生意気なの!」
大きな声で叫ぶとキャシーは再びライディールの元へ駆け寄り、胸に手を当てる。
ライディール 「カハッ!」
ちなみにキャシーは自分の腕力が強いと自覚が無い。無自覚で胸元に触れるキャシーだが一方、ライディールは心臓が止まってしまうのでは無いかと思う程に生命の危機を感じる。
キャシー 「これも時代なのかしら…ハァ…」
髭の剃り残しのある頬に手を当てため息を漏らすキャシー。腰をクネクネと動かしながら、ライディールの胸元に人差し指でハートを描くように動かす。
キャシー 「あ、でも…。ライディール様の言葉ならどんな事でも素直に受け止めますわ♡」
右目をパチンッ☆とウィンクするキャシーにライディールはゾクッと身体を震わせる。
小声で笑うメルディルムにライディールは弱みを握られた気分でいた。悔しさの余りにライディールはギリギリと歯ぎしりをすると、スレンが座っていた席に首を動かす。
キャシー 「あ~ん!ライディール様!私だけをみ・て♡」
ライディール 「ウガッ!!」
ライディールの頬をキャシーは両手で掴み顔を強制的に動かす。振り向いた先は出入口が見える視界で、スレンはしれっと出入口の方角へと歩いていた。
ライディール 「おいっ!スレン!どこにいくんだ!」
ライディールが怒鳴ると、スレンは足を止め振り返る。
スレン 「えっ?ダイヤスファ国に行きますが?」
ライディール 「何でお前だけ!ずるいぞ!」
スレン 「ダイヤスファ国は私の出身国ですよ。それ以外に行ってはいけない理由がありますか?それでは」
背中を見せ歩くスレンの姿にライディールは手を伸ばす。
ライディール 「あっ!待て!」
キャシー 「キャーー!待てだなんて~!私はいつもライディール様の近くにいますわ♡も~、皆がいる前でライディール様ったら大体ね♡」
ライディール 「ち、違うっっ!!そういう意味では無い!」
出入口に向い手を伸ばすライディールだが未だにマントを踏まれ、キャシーに絡まれ、踏んだり蹴ったりの状況だがスレンは気にも留めず姿を消す。
―――――――――――――――――
記憶を思い返すとスレンは顎に手を当て目線を下に動かす。
スレン (そういや先輩、あれからどうなったんだろ?まぁ、いっか)
スレンは目線をあげるとライト達の顔を交互に見ていく。
スレン 「それより…。ライトさん、ネイリー姫、マレイン王子が同行しているのは驚きました」
マレイン 「ライト達には私の修行に同行して貰っているのです」
スレンはマレインから目を逸らすと腕を組み考え込む。
スレン (そういえばマレイン王子は何故かある日を境に能力が低くなった…と噂があったような。何か理由が?能力を少し見た方が良いかもしれない)
考えが纏まるとスレンはマレインの顔を見つめる。
スレン 「私で宜しければ付き合いますよ」
マレイン 「えっ!?12聖将直々によろしいのですか?」
スレン 「えぇ。ですが、どうかご内密に」
スレンは唇に人差し指を当てると、マレインの瞳が輝き頷く。
マレイン 「ありがたき幸せです!」
スレン (よし。これでマレイン王子の口封じも出来た)
ライトの発言にヒヤッとした状況から解放され、スレンはようやく安堵する。ライトはマレインに歩み寄ると肩をポンッと叩く。
ライト 「良かったな!マレイン」
マレイン 「うんっ!よし…頑張るぞ!」
マレインは拳を作り両腕を上げていると背後から人の足音が聞こえ振り返る。振り向いた先にはリリアが顔を俯けトボトボと歩く姿だった。あからさまに誰の目から見ても活気が無い。
ネイリー 「リリア。どうした?」
俯いていたリリアは顔をあげるとスレンの姿が映り反応を見せる。
リリア 「あっ…スレン様…」
スレンを知らない人と誤魔化す思考も働かないリリアに、他の4人は首を傾げ交互に視線を合わせる。
スレン 「リリアさん。お久しぶりです。元気が無いようですが…」
リリア 「リサとエルのお母さまが…」
リリアの瞳から大粒の涙がツーッと左右の頬に零れる。
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