第83話 アース村の事件


マレイン 「ネイリーーーっっ!!」


ネイリー 「き、気にするな…!大丈夫…だ」


 赤い血が地面にポタポタと落ち、ネイリーは傷を負った右腕を左手で押さえる。仲間の気が乱れぬよう至って普通を装うが、痛みの余りに額から汗が流れる。血を流すネイリーにライトは居ても立ってもいられず地に落ちた剣の柄を握る。


ライト 「ネイリー!今助け―――」


 剣の柄を握り、刃を地に着けたまま持ち上げると再び力が入らず柄からスルッと指が滑る。そして、重力のままに柄頭がライトの左靴の上に直撃する。


ライト 「いってーーーー!!封印装置を装着してるの忘れてたーーーー!!」


リリア 「こんな時にライトはまた何やってんのよ!」


 再び痛みの余りにライトは膝を曲げ左靴の上を手で押さえると、リリアは大声で怒鳴る。


マレイン (私が不完全な土の壁アースウォールを作ったせいでネイリーの腕に傷がっっ!)


 マレインはネイリーを守る事が出来ず膝に手を当て悔しさの余りに顔を俯ける。マレインの横に立つリリアはその場から素早く走った瞬間、謎の人物は右手を前へ出し左手を横に移動すると氷の剣アイスソードの造形で長い剣を造る。


リリア 「氷の剣アイスソード!?」


 氷の剣を造り出すと素早く走りネイリーの側に向う。右腕を負傷しているネイリーは抵抗する余力も無くポタポタと血を床に零し立ち止まる。


 「お前からだ」


 謎の人物がネイリーの目の前へ辿り着くと氷の剣を高い位置で留め縦に振るうと


ミラルド 「土の壁アースウォール!……ハァハァ」


 氷の剣はミラルドの詠唱した壁に当たりネイリーを守る。連続で魔法を詠唱するミラルドはほんの僅かな魔力を消費し土の壁アースウォールを設置すると膝から落ち手は地に着く。


マレイン (ミラルドの体力がもう残っていない。このままでは……)


 魔法を連続で繰り出すミラルドは疲れ切った顔で息を切らす。マレインは横目でミラルドを見つめていると、謎の人物は壁が設置されていない箇所に素早く移動し再び氷の剣を縦に振る。


マレイン (このままでは―――ネイリーがっっ!!)


ネイリー 「くっっっ!!」


 氷の剣で斬られる瞬間を見たネイリーは目を閉じる。視界は真っ暗となったネイリーは痛みを右腕以外に痛みを感じる事も無く目をそっと開ける。


ネイリー 「壁に…包み込まれている…?」


 ネイリーの身体を優しく包み込む壁が設置される。まるでアース村を包み込むような壁を人間用にコンパクトにした形だ。


マレイン 「これ以上、ネイリーに手を出すな!土の壁アースウォール!」


 ネイリーの頭上ががら空き状態となっていた場所にマレインは蓋を閉めるかのように丈夫な壁を設置する。


リリア 「マレイン!ナイス!今度は私からっ!」


 リリアは右手に光輝く短剣ライトダガーを造り出すと、謎の人物に向い素早く斬りかかる。


 「っっっ!!」


 リリアが持つ光輝く短剣と、謎の人物が持つ氷の剣が交じりギリギリと音が鳴る。互角といった状況の中、マレインは手を前に出し足元から茶色の魔法陣を出す。


マレイン 「土の塊アースクラスター!」


 謎の人物はリリアの光輝く短剣を受けながら、頭上に広がる巨大な土の塊を見上げる。互角状態だったリリアの光輝く短剣から氷の剣を離し後ろに素早くジャンプする。


マレイン 「ネイリーに傷をつけた者を逃がすものかっっ!!」


 マレインは氷の剣を造り出すと素早く謎の人物が着地した場所まで走る。氷の剣同士が交じり合うと誰もが予想をしたが黒いフードを被った謎の人物は真後ろに建つ飲食店の屋根まで高く飛ぶ。そして、マレインに向い口元を動かす。


マレイン 「―――っっ!!」


 謎の人物がマレインに言い伝えると不気味に口角を上げる。マレインは飲食店の真下まで駆け寄ると謎の人物を見上げ眉を寄せる。


マレイン 「ダイヤスファ国の…?ダイヤスファ国が何だと言うのだ!?」


 マレインは必死な顔で返答を求める。だが、謎の人物は無言のままマレインに背を見せると大きく飛び跳ねる。


マレイン 「待てっっ!!」


リリア 「マレイン!深追いしたらダメ―――行っちゃった…」


 謎の人物は建物の屋根をまたぎアース村の外へと大きく飛び跳ねていく。マレインは地に足をつけ謎の人物の後を追い続ける。


マレイン 「待てっ!ダイヤスファ国が何なのだ!?」


 建物の屋根をまたぎ飛び跳ねる謎の人物の後を追うように走り続けていたマレインは、目の前にアース村を包み込む高い壁まで辿り着き足を止める。謎の人物は建物の屋根から高い壁を飛び跳ね移動すると身体を反転しマレインを見落とす。


 「ダイヤスファ国の王は―――」


 謎の人物が話していると強い風がサァーと吹くとマレインは前髪が目に入りそうになり防ごうと顔に腕を当て目を閉じる。


マレイン 「ダイヤスファ国の王……?父上が何なの―――」


 強い風が収まるとマレインは謎の人物が先程まで立っていた高い壁の位置を再び直視する。だが、目を閉じている間に謎の人物は姿を消したのか、高い壁に人の姿は無く呆然とする。


マレイン 「この事件は父上と何か関係があるのか?」


 中心部から離れ村の人々が住まう、隣接した小さな建物に囲まれながらマレインはオレンジ色の夕焼けの光に照らされ1人で呟く。

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