第6話 12聖将

———【12聖将せいしょう


 この世界には魔王が存在し、人間達は何百年も前から争っている。12聖将せいしょうは唯一、闇を纏う魔王軍に対抗出来る特殊能力を所持している12人の組織である。


 幼い時は誰もが『12聖将せいしょう』になる!と輝いた目で将来の夢を口にする程だった。


 そんな12聖将せいしょうは、戦闘に関しては頂点の地位で貴族でも庶民でも憧れの地位だった。


 民の権限を持つ、王族と戦闘指揮の全権限を持つ、12聖将せいしょうの議会が月1に開催され、その議会では王族と対等に意見を言い合える程の権力を持っていた。


 昔は”圧倒的な能力を扱う”貴族のみが選抜されていたが、庶民校が設立されてから庶民の中でも選抜されることもあり、戦闘のトップとして君臨する唯一の手段でもあった。


 12聖将せいしょうに選抜された者は証として、動物のシンボルが装着した指輪が渡される。ちなみに住居内も使用人等も12聖将せいしょう用に予め用意されている。


―――【現在】


 広場で大きな鍋を囲むゴブリン達を眺めながら2人は小声で話す。


ライト 「12聖将せいしょうじゃないと勝てないのか?」


ネイリー 「ああ、特殊能力を所持してない私たちでは無理だ。冒険者ギルドに―――」


 ネイリーは背中を見せ、その場から離れようとした時だった。


ライト 「いや、勝てる」


 ネイリーは足を止め振り返る。


ネイリー 「っ!?…説明したであろう!特殊能力を所持していな我々では無理だ!!」


 ネイリーの声が大きかったのか魔獣ゴブリンの身体がピクッと反応をする。


 「…ん?人間の声…?お前達!辺りを探せ!」


 魔獣ゴブリンは立ち上がり、周りに指示をする。大勢のゴブリンが一斉に動き始め2人を探し周る…と。


ライト 「ここにいるぞ!…ゴブ!」


 ライトはあっさりとゴブリン達の目の前に姿を出し注目を浴びる。


ネイリー 「お前はアホか!!…しかもその話し方は何だ!?」


ライト 「ネイリー!闇を纏っている魔物と話す場合はその種族を語尾につけるんだ!」


 ライトは"自分だけが知っている"であろう知識を自信満々にネイリーに説明をする。


ネイリー 「……は?」


 自信満々に話すライトだが、ネイリーは目を丸くし、思わず気の抜けた声が出る。


 「人間か…?ここの巣を壊しにきたのか?」


 2人は間抜けな会話をしている間に、魔獣と大勢のゴブリンに囲まれ、ライトは剣をネイリーは拳を構える。


ライト 「そうだ。…ゴブ。お前らがグリーン村の畑と牧場を荒らしてた奴らか?…ゴブ」


 「いかにもそうだが…。それを知ってもお前ら如きに俺を倒せる訳無いだろ?ハハハ!」


 魔獣ゴブリンは鈍い声で大きく笑うが、ライトは剣を構えたまま真顔で話す。


ライト 「さあ……どうかな?…ゴブ」


 「オイ!!ニンゲン!!さっきから語尾にゴブゴブ付けているが、それは何だ!?」


ネイリー (ライト…。気づいていないようだが、語尾にゴブと付けているせいで魔獣ゴブリンを逆に怒らせてしまっているぞ…)


 魔獣ゴブリンが怒ると、周辺のゴブリン達も騒ぎ始める。逆にゴブリン達を怒らせてしまったが、先程まで震えていた身体からネイリーは緊張が解れる。


 「…俺はあの方に選ばれてこの能力を貰ったんだ…。あの方に勝つのも難しいお前ら人間如きに勝てる訳ないだろ?お前ら!か弱い人間と遊んでやれ!!」


 周りのゴブリンに命令をすると、黒いモヤの闇が微量に纏い2人に目掛けて一斉に動き始める。


ライト 「ネイリー!俺を信じろ!俺ら2人なら倒せる!!」


ネイリー 「くっ!やるしかないか!!」


 2人も動き始め、ライトは剣をゴブリン達に縦で振ったり、薙ぎ払い、突いたりする。ネイリーも拳の周りにオレンジ色に光る円ができ、素早くパンチ、蹴ったりで凄まじい怪力で壁まで吹き飛ばす。


ライト 「さすが貴族校の2席だぜ!!」


ネイリー 「お前も庶民校でもさすが首席だな」


 互いに褒めながらゴブリン達にひたすら攻撃をする。辺りのゴブリン達はライトの剣で斬られ…そして、ネイリーの拳に吹き飛ばされ遠くへ紫色の血を流しながら倒れていく。


ネイリー 「後はあの魔獣だけだぞ!!」


 ゴブリンの死体だらけになると、残るは魔獣ゴブリンのみ…となり2人は狙いを定める。いとも簡単に大勢のゴブリン達を蹴散らす2人に魔獣ゴブリンは目を細め見つめる。


 「あれがあの方が言ってた『天性てんせい能力者』か。しかし『12聖将せいしょう』ではない限り勝算はコチラが有利だな」


 大きな棍棒を持つ魔獣ゴブリンはようやく動き始め、ドスンドスン…と地響きをしながら素早く2人の側まで移動する。魔獣ゴブリンは2人の背丈から約5倍は大きく、思いっきりジャンプし着地したら地面が割れるのではないだろうか…と思う程のデカさだ。


ネイリー 「ライト!!あの魔獣に触れたら私たちは闇に取り込まれて命は無いぞ!!」


ライト 「ああ!分かってるって!」


 魔獣ゴブリンは2人の目の前へと到達すると、大きな棍棒を横に振る。しかし、2人も咄嗟にジャンプし回避をする。


ネイリー 「ライト!どうやってあいつを倒すつもりだ!」


 大きな魔獣ゴブリンは2人に対して大きく棍棒を振るうが全てジャンプやら、素早くしゃがんだり…と回避する。魔獣ゴブリンに触れられないネイリーは拳で攻撃する事も出来なく只々身構え、ライトの方へ振り向く。


ライト 「普通に攻撃するだけでいい!ネイリー!目の前にいるぞ!!」


 ライトに声を掛けられネイリーは目の前に視線を移すと、魔獣ゴブリンがすぐ側で立ち、棍棒を振るう瞬間がスローモーションで動く。


ネイリー (あぁ…。私もう終わったな…)


 ネイリーの身体は魔獣ゴブリンが持つ棍棒に叩かれ、壁まで吹き飛ぶと衝撃で倒れ込む。


ライト 「ネイリーーーー!!!」


 「俺の闇をまともに食らったら意識はもう無いぞ?そのまま闇に侵されて死ぬだけだな」


———ネイリーは意識を失う。


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