第3話 魔物

———【山中を散策】


 ライトは近くの山中に辿り着き、辺りを散策する。


ライト 「この山中は昔よく散策したけど魔物なんてそうそう居ないはずなんだけどな。……ん?」


 辺りを見渡しながら歩いていると足元に違和感がありライトはふと見る。その場で立ち止まり、よくよく観察すると大きな足跡がありライトはしゃがむ。


ライト 「これは足跡からするとかなり大きい魔物だな。近いな!急ぐぞ!」


 近くに魔物がいる事に気付き、ライトは立ち上がる。急いで足跡を辿りながら走ると小さな子供が叫んでいる声が微かに聞こえライトは大きな木に身を潜める。


 「だれかーーー!たすけてよおおおーーー!」


 「ダァレもタスケにナンテくる、ハズナイ」


 ライトは物陰に隠れながら様子を伺う。子供は魔物の手の中に握られもがいていた。ライトは爺さんが助けて欲しいであろう子供なのだろうか…と頭に疑問がよぎるが、何よりも魔物が話している事に対して驚いた。


ライト (あれ、このブタみたいな魔物、話してたような…?語尾にブヒって付ければ通じるか?)


 身を潜めながらライトは考え込む。


 「うぅぅう。おじいちゃーーーん!」


 子供が大きな声で叫ぶと、ライトは冒険者ギルドで依頼を受けたお爺さんの孫だと確信をする。そして居ても立っても居られず、魔物の目の前に姿を現した瞬間、鞘から剣を抜き構える。


ライト 「おい!じゃなくて…。そこのデブったブタ、ブヒ!」


 声が聞こえた方向に魔物は振り向き視界に剣を構えているライトが映り、反応する。


 「ニンゲンか?オレはブタじゃない!イノシシだ!」


ライト 「イノシシか、ブヒ!ブタと言ってスマン!…ブヒ!」


 ブタと思っていたがイノシシだと魔物に指摘されライトは軽く笑いながら発言するが孫は会話のやり取りを聞きながらも早く解放して欲しさの余りに助けを求める。


 「そんな事いってる場合じゃないって!助けてよ!!」


「イヤ…。タイセツなコトだ!」


 ライトの発言が気にくわなかった様子で魔物はイラついていた。


 「どうでもいいって!!」


 2人のやり取りに孫は『今はそんな状況じゃないって!』と心の中で叫ぶ。


 「オマエ、このヤミにフれたらどうかわかってオレにイドんでいるのか?」


 身体の周りに闇を纏いながら魔物は声を荒げる。


ライト 「もちろんだ!……あっ、語尾に付けるの言い忘れた!ブヒ!」


 「オイ、人間!さっきから語尾にブヒブヒ言ってるのは何だ!!俺はブタじゃないぞ!!!イノシシだぞ!」


 更に怒り突進するもののライトは瞬座に回避し、魔物に向って大きくジャンプし舞うように身体に目掛け素早く剣を大きく縦に振る。


 「バ、バカな!!ニンゲンごときにヤミをマトってるオレをキれるワケないだろ!!グフッ!」


ライト 「それがあり得るんだって。…ブヒ」


 魔物はドスンッ!と横で倒れると、腹から紫色の血がドバドバと流れる。


———【何年か前の記憶】


ジイ 「ライト、お前は魔物に対して本領発揮出来るぞ。何せ簡単に闇を斬ってしまう」


———【現在】


ライト (やったぞ!ジイ!)


 何年か前の記憶を思い出しながらライトはジイに言われた事を心の中で呟く。


 「お兄ちゃん凄い!!一瞬だ!!」


 無事に助けられた孫は先程まで戦っていたライトの姿を実際に見て「かっこいいな~!」と心の中で感動していたようだった。


ライト 「さっ、じいさんが待ってるぞ!帰るか!」


 孫はライトに向かって笑顔な表情になりながら答える。


 「うん!」


 依頼を無事に完了したので、2人は冒険者ギルドに戻る。


———【30分後】


 ライトは冒険者ギルドに着きドアを開ける。


ライト 「ただいまー!ブヒ。…あっ、人間だから語尾にブヒって付けなくて良いんだった!」


 冒険者達と受付のメルは『ブヒって何だ?』と首を傾げる。だが、ライトは子供を連れている事に、冒険者達とメルは”魔物”を倒した…と確信をする。


 「おじいちゃん!!」


 「おお、無事だったか!!良かった、本当に良かった…。ライト様この恩は忘れませぬ…」


 孫は爺さんを見かけた瞬間に走りながら抱き着いた。そして抱き着きながら爺さんは安心し泣き崩れる。


「ライト本当に魔物を倒しちまったのか!」

「お前、闇を纏ってる敵に対しても戦える程なのか…?」


 ライトは冒険者達の注目の的となりガヤガヤと騒がしくなる。そして、ライトはメルの前まで辿り着くと、立ち止まる。


メル 「ライト様!おかえりなさいませ!」


 メルはライトにニッコリと微笑み、挨拶をするが心の中では無事な姿で戻ってきた事に気持ちは舞い上がっていた。


ライト 「メルさん見ての通り、無事に孫は助けたぞ!」


メル 「はい、では報酬をお渡しします!」


 爺さんから受け取った報酬をメルは受付カウンターの上に用意する。ライトが報酬を受け取ったと同時に魔物討伐依頼の紙は任務完了と書かれた。そして、ライトと爺さんの手首についていた■の刻印も薄っすらと消えていく。


メル 「ライト様今回の依頼の件ですが、シルバー1の昇格条件が『闇を纏った魔物討伐の任務を完了した事があること』なので今回の任務完了によって昇格です!」


 メルはシルバー1と書かれているバッジを受付カウンターに置く。


 「ライト!お前一気にシルバー1に昇格かよ!シルバー1になったら受けられる依頼も多くなるぞ!」


ライト 「ん?シルバー1になったらどんな依頼があるんだ?」


 ライトはバッジを手に握ると、テーブルや椅子に座る冒険者達に首を傾げる。


「難易度が難しいのもあるけど、シルバー1以上のバッジを持ってるのが条件って依頼はたいてい報酬額が大きいな」


「シルバー1以上のバッジを付けてるやつはたいてい強いからな。任務完了も早いから難易度がそんなに高くなくても報酬がいっぱい貰えるんだ」


ライト 「へー、知らなかった!」


 説明を頷いて聞き終えると、ライトは今後の依頼が楽しくなり自然と笑顔になる、


「お前は昇格するのが速すぎるんだよ!その若さでもうシルバー1かよ!!俺なんてもう冒険者ギルドに入って3年も経つのにシルバー2だぞ!」


「まぁ、お前正直依頼受ける時報酬なんて気にしてないだろ?冒険者ギルドに入ったのに何か理由があるんだろ?」


 1人の冒険者が質問をした途端、ライトの顔から笑顔が消える。


ライト 「ああ、俺は3年前急に居なくなった父さんと母さんを探すために冒険者ギルドに入ったからな」


「…3年前、庶民が急に姿を消えた事件か…。沢山居なくなったよな。そうかお前の親御さんはあの事件に…」


 冒険者ギルドの場が暗くなった途端、ライトのお腹が鳴り手を押さえる。


ライト 「はぁ、腹減った。俺今日はもう家帰ってめしでも食うよ!んじゃメルさん、皆、また明日な!」


 ライトは冒険者ギルドのドアを開けようとした瞬間だった。


メル 「お待ちください、ライト様!」


ライト 「ん?」


 ライトは声を掛けられ振り返ると、メルは裏から持ってきたお弁当箱を持ちながら急ぎ足で駆け寄る。


メル 「あの…。これお口に合えばよろしいのですが。今日お昼のお弁当食べそこなってしまって!」


 お手製の弁当をライトの目の前に突き出す。


ライト 「メルさんはお腹は減ってないのか?」


 ライトは心配な顔で質問をするが、メルは目を逸らし咄嗟に思いついた事を話す。


メル 「ええと…、私は今日晩御飯はご飯物っていうよりか急にパスタが食べたくなってしまったので…」


ライト 「そっか!んじゃ有難く頂くな!また明日よろしくな!」


メル 「はい!また明日!本日は昇格おめでとうございます!」


 ライトはニッと笑って受け取った弁当を大切に持ちながら家に帰宅していった。メルは走りながら帰る後ろ姿を見ながら手を振る。


 冒険者達は2人のやり取りを、ニヤニヤしながら見つめていた。


「メルさん、そのお弁当ライトが魔物討伐するとか言い出したから心配で食えなかったんだろ…?」


メル 「ち、ちがいます!忙しくて食べ損ねてしまっただけです!」


 図星の質問にメルは顔を赤くしながら冒険者達に段々と声が大きくなりながら返答する。


「メルさん実はライトが冒険者ギルドに入ってきた時から結構気にかけてたもんな~」


メル 「も、もう!皆さん勘違いしないで下さい!私はそういう訳ではありませんから!」


 メルは冒険者達に茶化され、剥きになりながら大きな声で反発する。


メル (何故だろう…。ライト様なら、どんな強敵でも倒せてしまうのでは無いかと自然に思ってしまう…)


 そんな事を想いながらメルはオレンジ色に染まり夕焼け空を、冒険者ギルドのドア越しで見つめ続けていた。

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