第6話 盗賊・鬼火 前編
人々が寝静まった真夜中。東北の風が強く吹く夜であった。
数人の黒い人影が闇夜に紛れ動いていた。
「カンッ」「カンッ」「カンッ」「カンッ」
町の中央に建つ
一軒の
業火に焼き出された人々は、小脇に荷を抱え逃げ惑う。
町を護る国府の兵士たちが大勢出動し、人々の誘導や救助に走り回る。
火消しの為の建物打ち壊しを一斉に行っていた。
「くそっ!」
「また奴らだ!」
町を護る
◇◆◇◆ 嘆願
屋敷の中庭で
経若丸が縁側にチョコンと座り、二人の剣の動き真似て小枝を振っていた。
「
「かなり剣の腕が上達したわね」
「
「でも、私はこれが一番いいみたいっ―――」
と背丈ほどの
「そんな武器は……剛力の
と、
硬い
鉄板を固定する為に打ちつけた
「それで……岩でも砕くつもりなの?」
とクスクス笑う。
一息つていると、この屋敷に仕える
「
「玄関先に娘さんが一人訪ねて来ています」
この青年、まだ二十歳前であろう。
しかし、その落ち着いた物腰と話し方は、熟練の
黒の着物に銀色の帯締めが何とも堅苦しい。
「おおっ!
稽古の後の汗を拭いながら、気楽に声をかける鬼娘の
紅巴の
「
そんな様子を見て、フッと肩を上げた紅葉が問う。
あっ!と思い直し、大助は向き直る。
困った顔で自分が訪れた要件を伝えた。
「それが……」
「訪ねて来た娘が、両親の
紅葉は目を細める。
「わかりました……話しを聞きましょう」
「その娘さんを連れて来て下さい」
暫くすると、背を丸めた一人の娘が、
様子を見た紅葉は、また目を細めた。
薄汚れた顔と着物。
微かに
泣き濡れた様な目は赤く
娘は歩きながら途中で泣き崩れ、地面に
ズッズッと鼻をすする娘に紅葉はの手を伸ばす。
「りょう……両親の
「お願いします」
「お願いします……」
何度も
紅葉は、片膝をついて娘に顔を近づける。
そして両肩を抱く。
「もう大丈夫」「大丈夫……」
そして娘の傷ついた手をとり、自分の手を覆う様に合わせた。
「ひんっ……ひんっひんっ」
娘は大声を上げ泣いた……。
声が
◇◆◇◆盗賊・鬼火
「絶対に許さんぞっ!」
「鬼火っ―――!」
屋敷に訪れた娘の話を聞き終わった
「娘さん。あなた話しは、大体理解しました」
目の前で泣き崩れる娘。
先日、町の火事で火元となった
店の者が寝静まった真夜中。
鬼の面を付けた十数人の盗賊が店に押し入った。
両親を襲い、そして次々と店の者を襲った……。
そして火を放った……。
運良く納戸に隠れた娘は命拾いした。
鬼の面を付けた盗賊が口にした言葉……盗賊・鬼火……。
盗賊・鬼火と言えば、代官所から数回通達があった火付け盗賊である。
検非違使が必死で捜索しているが、神出鬼没の盗賊に未だ手掛かりも掴めていない。
町の住人は恐れ、夜になると家の戸を固く閉ざした。
娘は
父親が盗賊と争った時に
紅葉は、ちぎれた
「
「この娘さんを離れの部屋へ案内してあげて」
「……」
「はいっ!―――わかりましたっ!」
大助が切れの良い返事を返す。
「娘さん……私に
「必ず
紅葉の
「大助っ。それから……」
「
「承知しましたっ!」
「直ちに用意いたします」
娘の保護を命じられた大助は、泣き崩れる娘を連れ部屋を出て行った。
◇◆◇◆ 八卦の祭壇
紅葉の住む屋敷の離れに小さな
室中の中央には一段高くなった場所があり、そこには飾りが張り巡らされた雛壇が設けられ、石碑が一体置かれている。
その石碑は、顔程の大きさであろうか。
石碑の前には、紅い
御堂には
紅葉は娘から受け取った、ちぎれた
石碑の後ろに飾っている太刀を両手で持ち上げる。
そして
無垢の
手に持つ白鞘の太刀を腰に下げると、指で
そして
美しく白銀に輝く両刃の剣。
大和に伝わる古剣の刃が、キラリと光った。
トオッン……トオッン……と足で床を打ち鳴らす。
「ヒュン」「ヒュン」「ヒュン」
手に持った抜き身の太刀を振りながら真言を唱える。
この流れる様な太刀さばき……。
はたまた、
翡翠の飾り珠が揺れ……紅葉の口にする
「カチャリッ」
紅葉は太刀をゆっくり
そして
御堂の戸を開けると、目の前に
「紅巴っ」「大助っ」
「用意をっ!」
「……」
「今夜っ……盗賊・鬼火を一掃するっ―――!」
紅葉の立ち去った後。控えていた二人もサッと左右に散る。
夕日に照らされた御堂の影が長く石畳に伸びていた。
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