放課後③
彼女がどこに行くかを教えてくれないで、もうかれこれ十分は経っただろうか。桃色から緑に変わった桜並木を二人で歩きながら、僕はふと空を見上げると雲がそよ風になびいていた。太陽も段々と赤く染っていく。
気温は朝より比べたら少しだけ下がって過ごしやすくなっていたが、額には汗が浮かんでいた。さぁっと、風が吹いて木の葉を揺らなしながら額の汗を撫でていく。
「そろそろ着くよ」
「ここってブルキャベじゃないか」
彼女が後ろを向きながらそろそろ着くという先には、地元の人が御用達のブルーキャベツスーパーがそびえ立っていた。昔ながらの雰囲気をまとったブルーキャベツスーパーの壁にはヒビが入っており、老朽化をひしひしと感じさせる。
地元の人達ははブルーキャベツスーパーというのは長いので、ブルキャベと略している。
「そうだよ。ここの駄菓子屋に来たかったんだ」
「あぁ、そういうこと。安いよね、ここの駄菓子屋」
ブルーキャベツスーパーの外には駄菓子屋が立っている。ここはお金のない学生の味方だ。値段設定は親切で店主のおばちゃんはとても優しくたまにおまけをしてくれる。昭和のまま時が止まってしまったような駄菓子屋。
僕と彼女は駄菓子屋に入る。壁に付いた昔ながらの壁に張り付けられた扇風機が店内を冷やしていた。ドーナツのお菓子、口に入れたらパチパチするお菓子。昔の自分の目には宝物のように見えていた駄菓子が今も変わらずにあった。
僕は店の一番奥にあるポテトを模した駄菓子を一つだけ手に取る。今でもたまにここに足を運んで、この駄菓子だけを買って帰るほどに好きだった。
「それ美味しいよね。琴くんは何味派?」
「無難な塩かな?月海さんは?」
「私はねブラックペッパーかな。私も一個買おうっと」
ポテトの駄菓子は、塩味、ブラックペッパー味の二つがある。僕は塩味のサッパリとした後味が好きなのだが、大体の人はブラックペッパーの方が好きだと言う。彼女もその一人だった。
僕はポテトの駄菓子だけを持ってレジに行く。彼女はまだ買うようで店内をウロウロしている。
「おや、琴坊じゃないか。今日はべっぴんさんを連れてきたようだけど、彼女かね?」
悪戯げな笑みを浮かべる店主のトネさん。僕は小さい頃からここには通っていた、実のおばあちゃんのような存在だ。トネさんは彼女の方を見ながら、魔女のように笑う。
「違うよ、トネさん。友達」
「なんだい。違うのかね」
「全然違うよ。今日会ったばっかりだし、月海さんとは」
「あの子、月海というのかね」
「そうだけど、どうして?」
「いやいや、ただ気になっただけだよ」
トネさんはそう言うと、代金を支払っていないのにポテトの駄菓子をくれる。
「トネさん、申し訳ないよ」
「子供なんだから有難く貰っておきなさい。お嬢ちゃんの分もいらないよ」
トネさんは僕の後ろに並んでいた彼女を指さしながら言う。彼女は急に指をさされ、肩を跳ねさせていた。
「えっ、いいんですか!?」
「あぁ、いいとも。琴坊がこんなべっぴんさんを連れてきたのだから、祝いだよ」
「べっぴんさんなんて〜、照れるなあ」
彼女は海藻のように体をくねらせながら照れる。
「トネさん、ありがとう」
「ありがとうござまふ、ありがたくいただきまふ」
彼女は既に駄菓子を口の中に放り込んでいた。モゴモゴさせながら、トネさんにお礼を言い僕達は駄菓子屋を後にした。
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