昼の太陽②

 四限目の時間が少しだけ経った頃、彼女は後ろの扉から教室に入ってきた。

 クッキーを授業中に食べるという、アホの極地のような行為をした彼女は三限目が終わってすぐに先生に連行されていった。当然クラスの皆はざわついていたけど、先生が静かにするよう言ったため、直ぐに落ち着いた。

 先生は事情をクラスメイトには話さなかったが、事情を知っていた僕はアホだなとしか思っていなかった。


「おかえり。かなり長引いたね」


「十分休みで終わると思ってたのに……こんなに長くなるなんて」


「そりゃそうだよ。授業中にクッキー食べてたんだから」


 僕は呼び出しから帰ってきた彼女に小声で話しかける。

 授業が終わったあとの十分休み。次の準備をしたり、教室を移動したり、友達と話したりする時間。大抵のお叱りはこの時間で済むことが多いのだが、彼女のやった事はその時間で収まるような内容ではない。四限目に多少ズレ込むのも当たり前といえた。当の本人は十分休みで終わると踏んでいたらしいが。

 楽観的というのか、アホというのか。今日あったばっかりの彼女には驚かされてばっかりだ。


「クッキーは美味しかったよ。後味は最悪だけど」


「クッキーの後味じゃないね。ほら、ちゃんと授業受けな。今の時間ぐらいはちゃんとしなよ。さっきまでふざけてたんだし」


「うーん。それもそうだね」


 四限目にして彼女は授業をまともに受けることにした。一限目は僕に喋りかけて授業を潰して。二限目は寝て怒られて、怒られたのは僕のせいでもあるかもしれないけど。三限目はクッキーを食べて呼び出し。

 今日一日でも彼女は色々なアクションを起こしすぎている。しかも、そのほとんどが悪いこと。復学初日からするような行為では無い。頭のネジが飛んでしまっているのだろうか。


 授業をまともに受けると言った彼女は筆箱を開けてシャーペンを一本取り出す。ノートを開き、板書を始めるのかと思いきや、シャーペンを鼻の上に乗せて鼻歌を歌い始めた。


「この歌なんだっけな〜」


 彼女は独り言のように呟く。こちらをチラッとも見ている。反応しろ、ということなのだろうか。

 ここで反応せずに、授業をまともに受ける選択肢と、ここで反応してちゃんと授業を受けるようにいう選択肢。二者択一か。なら、選ぶのは。


「ちゃんと授業受けな」


「君ならそう言うと思っていたよ。ちなみに、君当てられてるよ」


「おい、音成どうした具合でも悪いのか?」


「えっ!?あ、いや大丈夫です!どこからですか?」


「ちゃんと話聞いておけよ〜」


「ふふ、私を見すぎて当てられていたの気付かなかった?」


「鼻歌でこっちを見ていたのは、当てられてることを教えるため?なら、もっと普通に教えてほしいな」


「消しゴムのお返しだよ」


 彼女が鼻歌を歌ってこちらを見ていたのは、僕が先生に当てられることに気付いていなかったかららしい。実際、彼女と話していて気付いていなかった。見すぎていた訳じゃない。

 彼女は消しゴムのことをまだ根に持っていてお返しと、頬をあげてお返しとはにかむ。

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