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 久し振りに夢を見た。悪夢だ。燦爛とした光の破片がオレに向かって降りかかる。感じるはずがないのに左足に激痛がほとばしって……、目が覚めた。

 この夢を見たのは、もう何度目だろう。五十回から数えるのをやめてしまったから分からない。汗がびっしょり、肌にシャツが張り付き気持ち悪い。

 あきらめたら——、それは呪いの言葉だ。

 不快感をそのままにパジャマを脱ぐと畳むことなくベッドの上に投げ捨てて、オレはカバンを片手に部屋を出た。

 その後、どうやって登校したのか、今日一日どんな授業を受けたのか、ろくに覚えていない。そう、気付いたらオレは学校にいて、その上、放課後になっていて——、不意にパンッ、パンッと乾いた音が頭の中に鳴り響いた。シューイチが丸めた台本を自分の手の平に叩きつけた音だ。

「ストップ、ストーップ! どないしたんや、ジュリちゃん。今日は覇気がないで」

 じっと見つめてくるシューイチを、オレは、ふいとかわす。だけどシューイチは、そんなオレを見つめ続ける。今日もシューイチがオレの稽古をみてくれていた。

「昨日はできてたやん。ほんまにどうしたん?」

「だって……」

「だって?」

「だって、無駄じゃないか……」

 ぽつりとオレの口先からその一言がこぼれ落ちた。蚊の鳴くような声だっただけに、シューイチの耳に届いてかは分からない。だけど。

 ああ、そうだ。どうしてオレは、こんなことをしているんだろう。どうしてオレは、ここにいるんだろう。どうしてオレは、どうして……。

 分からない——。

 なんで、どうして、オレは、こんなこと……。

 なにもかも分からなくなっていた。だからだろう。気付いた時には、なぜかミオ先輩の顔が目の前にあって。

「ジュリ——」

 先輩のいつもより低い声が、オレを現実へと引き戻した。

 気付いてとっさに身を引こうとしたけど先輩はオレの腰に腕を回すと、ぐいとさらに顔を近付ける。もう少しで触れそうになるくらい、近い。いつもと違って真剣な先輩の瞳が、まっすぐにオレのそれを捉える。その圧力に視線をそらそうとしたけど、なぜかそうすることができない。先輩が許してくれない。

 先輩は海の底のように深い瞳を大きく揺らして、

「ジュリエット、明日はちょうど休日だ。だから僕とデートをしよう」

「はあ……?」

 デートって、あのデートだよな。先輩ってば、突然なにを言い出すんだ。

 にっこにこの先輩を前に、オレは、オレは……。

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