第2幕:What’s in a name?
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「ああ、愛しのジュリエット。君は、どうしてジュリエットというんだい?」
「さあ、そんなの知りません。それよりミオ先輩、教室に戻らなくていいんですか? また先生に怒られますよ」
「ふっ、ジュリエットよ。なにを野暮なことを。少しでも君のそばにいられるのなら、それくらい他愛もないことさ」
「おい、茂田。いい加減にしないかっ!」
静まり返っている教室に、ぱっこーんと爽快な音が鳴り響く。先生がいつもの調子で丸めた教科書を先輩の頭に叩き付けた音だ。
「お前たち、練習は部活動の時間にしろ」
「あの、先生。お前たちって、もしかしてオレも含まれているんですか?」
オレの質問に先生は答えない。いや、答えてくれない。せめて一言くらい言ってくれよ……!
結局先輩はいつものごとく、先生にずるずると引きずられて退場する。その情けない姿をきっとオレは、死んだ魚の目で見送っていたことだろう。
そんな中、やはりいつものように前方から、「ははっ」と軽やかな笑声が降って来た。
「毎回大変だなあ、ジュリは」
「本当だよ。先輩の巻き添えをくらって大迷惑だ」
先程から他人事のように笑っているのは、アッキーだ。同じ演劇部で、よくも悪くもマイペースなヤツだ。
で、さっきの歯が浮くセリフを恥ずかしげもなく語って聞かせていた変人は、
ミオ先輩は演劇部の部長でモデル並にイケメンだけど、あの変人ぶりから、どうやら女生徒からの受けは悪いらしい。見事な宝の持ち腐れだ、もったいない。
そんな先輩の持ち前の容姿にあの酔狂な性格のせいで、一日も経たない内にオレと先輩ができているんじゃないかという傍迷惑な噂が立ってしまったと同時。オレの夢見た平凡で平穏なはずであった学園生活は、見事先輩の手によって粉々に打ち砕かれた。
先輩はオレをジュリエット役にぴったりだと直感したらしく、先輩からのしつこい勧誘の末、なぜか勝負でその行方を決めることになり。その結果、賭けに負けてしまったオレは、否応なしに演劇という未知の領域に足を踏み入れることになってしまい——……。
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