この1粒は世界を救う

とうま(お茶にごし)

第1話 米粒命(前編)

「うわ…こびりついとるやん…」

 今日は長年片想いを続けた相手と始めてデートにこぎつけたのだが、

「いつやこれ?」

 1着しかない勝負服には胸元にとても目立つ米粒が着いていた。

「時間はあるけれど…取れるかこれ?」

 一応、デートが楽しみすぎて早起きをしているので出発までは時間がある…なので、色々試してみることにした。

「えーっと、どうしよ…!」

慌てて取ろうと思い爪で引っ掻いて取ろうとしてみたがどの方向から擦っても取れない。遂に爪が割れてしまった。

「うっ…どうしよ全く取れない…ステンレスみたいだ。」

丁度あまりやりすぎると服に穴が空いてしまいそうだとおもっていた所だったので一旦落ち着いて考えることにした。

「集合は10時だったよな…時計は」

8時半を指している。集合場所まで30分かかるので残る時間は1時間半である。

「まずいまずい…1時間半…どうしよ!!」

 正直、普段オシャレをしない彼にはこれ以外に人と並んで歩ける服はなくなんとしても米粒をとる必要があった。

「も、もっと道具を使おう!!」

と、彼が周りを見渡すが部屋には鉛筆やシャーペンといった汚れが着いてしまうものばかり目に入る。

「あ!これだ!!」

そんな中彼が選んだは定規であった。

「これなら、一気に削ぎ落とせる。」

彼は意気揚々と定規で米を削り始める。

「くっ…なんだこれ!?」

しかし定規は米にぶつかっては止まりぶつかっては止まり…全く先に行かない。

 時間は8時37分…まだまだ余裕があると思い部屋を再度見渡すが他に使えそうなものはどこにもない。

 彼は今年1番の大焦りでキッチンへ向かう。「ここなら、色々と器具が揃ってるぞ!」

と、彼の目に飛び込んできたのは包丁だった。

「……いやいや待て待て!?こんなので米粒取ろうとしたら米だけじゃなく布…なんなら床まで行っちまう!!何か…何か…!!」

と、周りを見渡すこと10分…見つかるのはボールや箸、スプーンやおたまとどれも米を取るに適した形をしていなかった。

「まずいまずいまずい!!要らない時間を過ごしてるぞ……ハッ!」

 と、焦りがピークに達した彼の目に入ったのは爪楊枝だった。これなら比較的安全に米を削ぎ落とせると考えた。

 既に時間は8時54分…とはいえまだ焦る様な時間ではない。

 彼は必死に米粒を引っ掻き始める。米粒はガリガリガリと音を立て今までにない感触だった。

「こ、これなら行けるかもしれない!!」

希望が見えて更にいっそう引っ掻く力を強めた。すると、

­­───ポキッ

「あ…お、折れた」

そう、ご存知の通り爪楊枝というのはあまり耐久性が高いものではないため少し力加減をミスったため折れてしまったのだ。

 さて、彼は無事米粒を剥がし、栄光を掴めるのだろうか


〜前半・【完】〜

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この1粒は世界を救う とうま(お茶にごし) @icinici1po

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