残虐な女魔王を全裸土下座させるまで

ぐらんぐらん

残虐な女魔王を全裸土下座させるまで

 崩れる壁、抜ける床、魔王城の主である魔王ゲザリーヌは、傷を負い膝をついていた。

 彼女の目の前には、聖剣を携え仁王立ちする勇者の姿。彼もまた、いたるる所に傷を負っている。

 両者の激しい戦闘があったことは言うまでもなく、その勝者もまた、言うまでもない。


「くっ……! 人間風情が、この我を……!」

「ハァッ、ハァッ……! 勝負あったぞ、魔王!」


 ゲザリーヌを取り囲むように、勇者の魔王が展開される。

 それは光。空中に浮かんだいくつもの光が彼女を照らす。


「聖魔法か……ぐ、しかし、我はまだ……死ねん……! こんなところで、死ぬわけにはいかんのだ……!」

「……妹さんのためか?」

「なっ!? 何故貴様がそれを!」


 魔王ゲザリーヌにはひとりの妹がいる。

 病弱で床から出られない愛しい妹は、人類領に無慈悲な侵略を行った残虐非道な魔王にとって唯一の弱みと言ってもいいだろう。


「ここに来る前、本人に会ったよ」

「貴様……! まさか、妹を……!」

「安心しろ。手は出してない」


 信じていいか分からない言葉であったが、勇者の答えにゲザリーヌは内心ホッとする。

 だからこそ、ここで死ぬわけにはいかないという思いが一層強くなる。


「そうだ……我は妹の病気を治すため、世界樹の実を手に入れる必要があった。しかし世界樹は人類の王国が所有し、その恵みを独占している……それが、貴様ら人類の崩壊を招いたのだ!」


 世界樹の実は万病を治す力を持つ。勇者もその力を直接見たことがあり、その効果は偽りではない。


「だからと言って、それが侵略の罪を免れる口実にはならない! お前はここで……!」

「っ、ふん……我は諦めんぞ。この聖魔法で殺せるなら殺してみろ!」

「いや、殺さない」

「へ?」


 勇者は聖剣をしまう。てっきり剣か聖魔法でトドメを刺されると思っていたゲザリーヌは面食らった。


「お前、生きたいんだろ?」

「あ、ああ……そりゃあまぁ」

「なら土下座しろ。そうすれば命だけは助けてやる」

「は、はぁっ!? 土下座だと!? ふざけているのか貴様ァ!」

「俺はふざけてなどいない。いたって真面目だ。ほら早く。逆らえる立場だと思っているのか?」


 既に勝敗は決している。勇者がその気になればゲザリーヌの命を奪うなど雑作も無いだろう。

 それなのに命を奪わないということは、余興や冗談などではなく、本気で土下座をさせるという意思の表れであった。


「ほら早く」

「い、嫌だ……! 魔王たる我が、人間に頭を下げるなど! そ、それも土下座など! 貴様、我に誇りが無いと思っているのか!?」

「あると思ってるよ。だからこそ、その誇りとやらを捨てて土下座して命乞いしろって言ってるんだよ」

「んなっ! ぁ、き、貴様ァ……!!」


 視線だけで人を殺せるような憤怒を隠さないゲザリーヌ。

 しかし勇者にとってはどこ吹く風であり、状況は変わらない。


「ふーん、あ、そういう態度取るんだ。へー」

「な、なんだ……!」

「妹さん、どうなってもいいのか?」

「ッ!? や、やめろ! い、妹は、妹だけは!」

「なら土下座だよ。命乞いには相応の姿勢と態度が伴わないとな~?」

「ぐ、ぐ、ぎぎぎぎぎぎ……!!!」


 妹という最大のカードを出され、とうとう魔王は従わざるを得なくなってしまう。

 両膝を折り、両手を床につき――


「あ、服は脱げ」

「ハァ!?」

「お前を辱めるのが目的なんだから。服を着たままっていうのは絵面にインパクトが無いだろ」

「ふざけるな!! お前マジ! ふざけるな! 絶対脱がん!」

「あ、そう。じゃあやっぱり妹さんは――」

「ま、待て! も、もう待ってくれ! いっそ殺してくれ!」

「馬鹿野郎!!!! お前、簡単に殺してくれなんて言うなよ!! お前が死んだら残された妹さんはどうなる!!?」

「えぇー……」


「とにかく脱げ。全部脱いで土下座しろ。殺すぞ」

「いや言ってることメチャクチャか貴様」

「あん? 俺に逆らえる立場だと思ってるのか? お前の命も妹さんの命も俺の手の中にあるっていうのを忘れるな」

「……なぁ、頼むからそれだけはやめてくれないか? 我のことは好きにしていいから全裸土下座だけは……」

「好きにしていいんなら服脱いで土下座しろよ! 早く!」

「ひぃぃぃっ! わ、分かった! 分かったから突然感情爆発させるのやめろ! 怖いんだよそれ!」


 ゲザリーヌはしぶしぶ服を脱ぎ始める。

 既にボロボロだった衣服は、脱ぐというよりも破って捨てた方が早いまであったが、勇者の要望により綺麗に脱ぐことを徹底させられた。


「よし、じゃあ服を畳んで脇に置け」

「何故……?」

「その方が『さっきまで着てました』感あるだろ。早く」

「…………」

「畳み方が甘い! ちゃんと角を合わせろ!」

「ぐ……!」

「お前髪長いから大事なところはいい感じに隠せるな。正面から見てもギリ大丈夫だ」


 何が大丈夫なのか。

 力の象徴でもある魔王の衣装が綺麗に畳まれ、一糸まとわぬゲザリーヌの横に置かれる。

 ゲザリーヌの表情は羞恥に染まっていた。

 見下していた人間に敗れ、命乞いをするためにこのような恰好をしなければならない。プライドの高い彼女にとって、死に等しい屈辱があった。


「よし。土下座しろ」

「…………っ、ぐ、……ぐぐぎぎぎぎ……!」

「もっと頭を下げて、額を床につけろ」


 そうして完成する土下座。

 正面から見れば豊満な肢体は背と髪に隠された、見事な全年齢向きの全裸土下座。


「まずは自己紹介して謝れ」

「っ、わ、我、は……っ、魔王、ゲザリーヌ……あ、謝るって、何を……」

「はぁ!? 人類に戦争を仕掛けたことだよ! どんだけ被害出たと思ってんだ!」

「ひっ、あ……こ、此度は、す、すまなかっ」

「はぁ~~~~~!? なんだその態度? んなもんで許されると思ってんのか!?」

「っ、ぐ……! こ、この度は……戦争を、仕掛け……申し訳、ありません、でした…………」


 生きてきた中で間違いなく最大の屈辱。

 しかし従うしかない。ゲザリーヌは勇者に己のすべてを握られているのだから。


「俺の村で小火を起こしたことも謝れ。アレお前の軍のせいだろ分かってんだぞ」

「……ゆ、勇者の村に火を放って、申し訳ありませんでした……村人の皆さん……許してください」

「許すわけねぇだろ!! 家畜が何頭死んだと思ってんだ!! 冬越せなくなるところだったぞ!」

「ひっ、ご、ごめんなさい……!」


「エルフの森に侵攻して木材を奪ったことも謝れ! ドワーフの里を支配して強制的に武具を作らせていたのも謝れ!」

「っ、え、エルフの皆さん……ドワーフの皆さん……! む、無理やり働かせて、ごめんなさい……」

「魔王軍にも謝れ! お前のせいで俺らと戦争することになったんだぞ! 敗軍の将として誠心誠意謝れ!」

「わ、我が下僕たち……す、すまなかった……我、負けてしまったぁ……」


「で、命乞いは?」

「っ、わ、我、は……し、死にたくあり、ません……助けて、くださいぃ……」

「うおっ、コメント数エグ。よーしこんなもんだろう」


 満足したように頷く勇者。

 魔王はもう終わりかと顔を上げるが、土下座のままの姿勢を強要される。


「あ、あの……コメントってなんだ?」

「ああ、今の全世界に配信してるから」

「えっ、えっ?」

「ほら。これ」


 勇者の手に浮かぶのは、ひとつの光。ホロスクリーンとも言う。

 そこに流れるコメントの速度は、目で追いきれないほどだ。


 聖女@本物:草

 国王:草ァ!

 魔女:見えた!

 法皇:姉妹献身てぇてぇ

 騎士団長:保存した

 村人:BANされない?大丈夫?


「お前は聖魔法だと思ったみたいだけど、これ遠隔投影魔法だから。こっちの光景が全世界の至る所にリアルタイムで映し出されんの」

「へ……え、それって……」

「お前の全裸土下座、この世のすべてが見てるよ」

「ぁ……え……い、いつから?」

「最初から。ちなみに局部が見える後ろからの視点は成人向け課金で見れる」

「っ、い、い、いやああぁぁぁぁぁ~~~っ!!!!」

「あ、おい! 土下座やめんな!」

「いやっ、いや! やめ、やめてとめてぇぇ~~!!!!」

「おいおいみんな喜んでるんだぞ。魔王軍だってほら」


 ゴブリン@最前線:これマジ?

 オーク@砦:魔王軍抜けるわ

 リッチー:↑どっちの意味で?

 幹部S:ま、魔王様……なんてことだ……!

 幹部Y:↑隣にいるけどコイツ課金してエロ視点見てるぞ


「いやあぁぁ~~~っ! も、もうやめてぇ! お願いだから! お願いだからもう見ないでぇぇ!!」

「おいおいいいのか? 妹さん。まぁ病気は治ったんだけどさ」

「へっ……?」

「俺は勇者だぞ? 世界樹の実なんて頼めば手に入るに決まってるじゃないか」

「ほ、本当か!? 本当なのか!?」

「ああ。だってほら、妹さんもスパチャしてるし」


 魔王の妹です:50000リル

        病み上がりに姉の痴態きっくゥ~w


 その日、戦争は終結した。

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