第3話
翌日彼は朝早くに目を覚ました。時計を見ると、まだ7時だった。
いつもの彼ならもうひと眠りするような時間だったが、その日は早めに起きることにした。窓からは既に明るい日差しが差し込んでいた。
彼はぼんやりとニュースを見ながらパンを齧っていたが、ふと最近郵便受けを開けていないことを思い出した。寝巻のまま一階に降りて郵便受けを覗くと、中にはぎっしりとチラシが詰まっていた。
部屋に戻ってからチラシを捨てていると、埋もれていた茶封筒が顔を出した。それは実家から転送されており、中を開けてみると中学の同窓会の案内だった。
開催日時を確認してみると、丁度アルバイトが入っている日だった。彼が案内を畳もうとしたとき、そこに書かれた幹事の名前が目に入った。
松岡さん、と彼は小さく呟いた。それは心をくすぐられる様な、懐かしい響きだった。彼女の名前の下には連絡先が記されていた。彼は暫くその電話番号を眺めていたが、やがて案内を封筒へと戻した。
しかし昨日から残っていた食器を洗っている間も、彼の頭からはその番号が離れなかった。彼は皿を拭き終わると、もう一度案内を取り出した。
「欠席の連絡位はしておいた方がいいよな。」と彼は自分に言い聞かせるように言った。
彼はスマホを手に取って番号を押している時に、微かな緊張を感じていた。コール音が鳴り始めた。10回ほど鳴らしてみたが彼女は出なかった。
しかし彼が諦めてスマホを置こうとした時、折り返し着信があった。
電話を取ると、「もしもし、松岡ですけれども。」という声が聞こえた。その声は高く、柔らかい声だった。
「あ、えっと中学の時に同級生だった藤本です。」
「あー、藤本君!もしかして、同窓会の話かな?」
松岡さんの声は、少し弾んだように感じられた。
「そう。同窓会の事なんだけど、バイトが入っちゃってて行けないと思う。」と彼は、申し訳なさが伝わることを願いながら答えた。
「そっかあ。残念だね。」と彼女は言った。
彼は何か話を繋げようと思ったが、上手く言葉が出てこなかった。
その空白を埋めるように松岡さんは、
「藤本君って、大学東京?」と尋ねた。
「うん。松岡さんも?」
「私も東京にいるよ。国分寺の辺りに住んでるの。」と彼女は答えた。
そして少し間があってから、付け加えるように、
「良かったら今度コーヒーでも飲みに来ない?私、喫茶店でアルバイトしてるから。」と言った。
彼は松岡さんの誘いが純粋に嬉しかった。しかしそれは同時に、単なる社交辞令である様にも聞こえた。
「了解。じゃあ、今度時間がある時に行くよ。」と彼が言うと、松岡さんは店の場所を教えてくれた。
「じゃあ、またね。」と彼女は言い、電話は切れた。
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