第7話  引き籠もり少女の覚醒

「すー、すー」


「自分で仕掛けておいたM84の音でも起きないって、どれだけ生活がだらけているんだよ」


 秀司はしゃがみ込むと、マットの上でよだれを垂らして寝ている少女の頬を触る。


「耳痛っ! ねぇ、秀ちゃん。雪菜は?」


 後から部屋に入ってくる涼音は、耳を何度か触りながら、鼓膜が破れていないか確認する。


「んっ!」


 と、秀司は、寝ている少女を指差す。


 涼音は目を光らせて、我を忘れたかのように寝ている少女に向かって、飛びついて抱きつく。


「ゆーきなっー‼」


 抱きついた瞬間、大声ではしゃぐ。


 それと同時に、少女はパッと目を開き、抱きついてきた涼音の顔を見る。


「ぎ、ぎゃぁああああああああ!」


 少女は暴れだし、涼音から離れようと必死になる。


「雪菜が起きたぁああ! 肌もすべすべだし、この体も抱き心地がいいんだよ!」


 だが、涼音は少女を離さずにがっちりとホールドして、放そうとしない。


 少女よりも涼音の方が、力もその使い方も上である。


「なんで、涼音が抱きついた途端にお前は起きるんだよ……」


「しゅ、しゅう……。た、たす…け…て…」


 涼音のスキンシップにより、気力がなくなった少女は泡を吹きながら失神する。


「涼音、もういいだろ? 雪菜から離れろ、こいつが死んでしまったら、元も子もないだろうが!」


 秀司は、涼音の首根っこを掴んで、少女から引き剥がす。


「およ! しゅ、秀ちゃん! 放して‼ 私はまだ‼」


 暴れだす涼音を後ろへと放り投げる。


「おーい、雪菜。起きろ~。涼音から引き剥がしたぞ~‼」


 ペチペチと、頬を軽く叩く。


「ん、んん……。秀司……なんでいるの?」


「お前に用が来たんだよ。相変わらず、汚い部屋だな。たまには、掃除をしろよ」


 部屋の周りを見渡すと、ゴミ袋が積み上がっていたり、お菓子の袋などが散らばっている。


「うるさいなぁ。別にいいでしょ? 私の勝手」


 少女は起き上がって、服をパタパタさせて、汚れを払い落とす。


「まぁ、そうなんだけどさぁ……」


「言っておくけど、働いたら負けって、私の信念だって知っているよね?」


「お前、まだ、子供だろ?」


「うるさい! 大人も子供も関係ない‼」


「はーい、分かった、分かった。お前の理屈はいいから、たまには仕事しろ。この部屋、誰のおかげで、自由にできていると思っているんだ?」


「それは……」


 秀司に言われて、口籠る少女。


「それに自分の身を守れるようにある程度の装備を分け与え、知識を与えたのは誰だ?」


「秀…です……」


「だろ? だったら、たまには協力しろ」


「はーい」


 少女は、嫌そうな顔をしながら返事をした。

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