第1話  とある町の喫茶店

 とある町にある何気ない喫茶店——


「いらっしゃいませ!」


 店内で元気のいい少女が、木製のお盆を持ちながら接客をしていた。


「何名様でしょうか?」


「二名です」


 店内に入ってきた若い男女の客がそう答えた。


「分かりました! カウンター席、テーブル席、座敷、どれがよろしいですか?」


「それじゃあ、テーブル席で」


 少女が提示した三つの内、客の男はテーブル席を選ぶ。


「はい。それではこちらへどうぞ」


 と、少女は案内する。


 店内は、木造建ての広々とした造りになっており、人々がゆったりと出来る空間がある。


 入って右側には、テーブル席。窓側は座敷になっている。厨房の周りをカウンター席で囲み、店の従業員が、動きやすいようにしてあるのも特徴のうちである。


「この席が空いてありますので、こちらにお願いします。それと、こちらがメニューになりますね」


 少女は、テーブルに立て掛けられているメニュー表を教える。


「お嬢ちゃん、注文いいかい?」


「はーい! 少しお待ちください!」


 と、他の客に呼ばれた少女は、返事をする。


「後で、お冷をお持ちしますので、ご注文が決まりましたら、お呼びください」


 一礼して、その場を離れる。


「それでは、ご注文の方をお伺いしますね」


 少女は、持っていたボールペンと注文票を取り出して、客が頼むメニューをしっかりとメモする。


「分かりました。アイスコーヒーが一つと、サンドイッチですね。失礼します」


 少女は、厨房の方に入る。


「秀ちゃん、アイスコーヒーが一つと、サンドイッチよろしく!」


「はい、はい。——って、ここでは、マスターと呼べと、何度言えば気が済むんだ、お前は……」


 厨房で、ナポリタンスパゲッティを作っていた二十代くらいの男が言った。


「そんな事、気にしなーい、気にしなーい!」


 と、少女は冷蔵庫の中を触りながら言う。


「秀ちゃん、サンドイッチのストックが無くなってきているよ」


「マジか! 今日は、結構、作ったつもりだったんだけどなぁ……」


 男は、頭を掻きながら、考える。


「涼音、アイスコーヒーとサンドイッチの方はお前に任せる。俺は、今、ナポリタンで手がいっぱいだ。他にもオムライスを作らないといけないからな」


「え~! 私?」


「そうだ。お前だって、ここの従業員なんだから、それくらいはしろ! サンドイッチは、何度も作っているだろうが!」


 男は、怒りながらも手の方は動かし続ける。


「まぁ、そうだけど……。接客って、大変なんだよ。それをたった二人で、お店を切り盛りするなんて、大変だと思わないのかねぇ?」


「グダグダ言っている暇があるなら、手を動かせ、手を!」


「はーい」


 少女は返事をした。

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