手当の包帯

彩霞

第1話 魔法使いの看護師

 魔法使いが存在するこの世界には、大きな大陸がある。

 それを囲うように小さな島がいくつもあるが、そのなかでも南側に特別大きな島があった。


 島の名は、スーベル。スーベルとうは魔法使いが生まれるところであり、ここ以外の大地では魔法使いの素質を持った者は生まれないという。よってスーベル島には大きな魔法学校があって、すべての魔法使いの子供たちを育てていた。


 スーベル島で育った魔法使いは、自分の能力を活かすための仕事に就く者もいれば、非魔法使い(=魔法使いではない者)の生活の手助けをするために、大陸に渡る者もいる。だが多くの者は島にとどまり、のんびりとした生活を送っていた。


 しかしある事件をきっかけに、その日々が少しずつ変わろうとしていた。


*****


「レネア!」


 春らしい、暖かな日の昼下がりのこと。

 無機質な白を基調とした廊下に、看護師の声が響いた。


「はい!」


 レネアは部屋から出て返事をすると、廊下で自分を呼んだ先輩看護師であるエラの元に駆け寄る。


「何でしょうか?」


 と尋ねたが、頼むことはおおよそ予想できた。彼女の手には籠いっぱいに入った白い衣類があるので、洗濯だろう。


「悪いんだけど、患者服と包帯を洗っておいて。それが終わったら、一号室のベットのシーツを替えて頂戴。お願いね!」


 そう言って、エラは抱えていた大きな籠をレネアに渡した。量が多く、ずっしりとした重さがある。


「分かりました」


 少しでも楽になるように、籠の持ち方を変えながら答えると、別の部屋から「エラ!」と呼び出しの声がかかる。


「こっち手伝って!」

「はい、今すぐ! じゃあ、頼んだわよ」

「はい」


 エラは軽くレネアの肩を叩くと、パタパタと呼ばれた部屋へ行ってしまった。

 レネアは小さくため息をついて見送ると、洗い物が入った籠を持って施設の裏口へ向かった。


 施設の造りはとても単純だ。南側にあるエントランスと北側にある裏口が、施設の真ん中にある一直線の廊下で繋がっており、その両脇がそれぞれ部屋になっている。エントランスに近いところは大体患者用の部屋であり、裏口に近づくにつれ調理室や備品置き場、また施設で働く者たちの控室や仮眠室がある。


 患者用の部屋は、大部屋、中部屋、個室の三種類があり、大部屋であれば一部屋六人分のベッドがある。それが六部屋。中部屋は二人一部屋で、これも六部屋ある。そして個室は三部屋なので、最大五十一人が利用することが可能だ。

 そして、エントランスの東側から、一号室、二号室、三号室と番号が振られており、数字が若いほど大きい部屋であることを示している。


 レネアが裏口から外へ出ると、一旦籠を地面に置き、建物の白い外壁に立てかけてあった、木の大きなたらいを用意する。レネアはそこに水と洗剤を入れ、汚れた患者服と包帯を入れた。

 そして、たらいのなかの水を指でさし「洗う」と命令すると、水が勝手に動き出し、水と衣類の摩擦を使って包帯を洗い始める。


 こんなことはレネアを含め、この地で魔法使いとして育った者にとって朝飯前のことだ。また、これが終わったら沸かした湯で煮沸消毒を行い、物干し竿に干せば終わり。もう一つ頼まれていたシーツも同じようにすれば、一通りの作業は完了する。


 だが、これは本来の彼女の仕事ではなかった。

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