第446話 再会の準備(マレスティーナ視点)


 久しぶりに、国王とベアトリスの顔を見た。メッセージで流れてきた通り、生きているとはこれまた不思議だ。


 死んで蘇り、弱体化するかとも思っていたがその心配は杞憂だったようだ。すでに身体的進化を果たして、より強力な力を手に入れていた。


 身体能力で言えば、その動きを視界にとらえることが出来るのは人間でいえば私ともう一人くらいしかいないだろう。


「さて、これからどうしたものか」


 獣王国までやってきたは次元移動したはいいものの、これと言って計画はない。


「それに、『真獣』が関わってるんだ。このままじゃ兵士は無駄死にだな」


 真獣は現魔王率いる黒薔薇という組織の幹部。そこの戦闘部門の部門長だ。


 今やうちの弟子のような存在であるフォーマが情報部門だったのに対し、真獣は完全なる先頭に特化した性能をしている。


 獣人の中でも百獣の王として名高いライオン種であり、その中でも特に異質な存在であるのが真獣。


 その実力は魔族領に転移してくる前のフォーマであれば時間を稼ぐのがせいぜいと言ったところ。


「ま、私には攻撃通用しないけど」


 真獣はとてつもない身体能力で、ステータスは攻撃力と俊敏性が飛びぬけて高い。とてつもない攻撃力がとてつもない速さで打ち出される……避けようがなくかつ破壊力は抜群だ。


 だが、それだけである。


 私の無効化の結界にかかれば余裕で無効化できる。


「ともいかないのが残念」


 無効化結界


 それは発動してしまえば無敵の防御力を得られそうな響きをしているが、実際はそこまで万能なものじゃない。


 使用者の魔力が尽きればそこまでだし、耐久値をオーバーすれば効果を失くす。


 それでは他の結界と何が違うのか。


 耐久値が阿保程高いのだ。


 他の結界が耐久値数万に対し、私の無効化結界は耐久値百万近くある。うん、無効化の称号を持つにふさわしい耐久値だろう?


 だが、さっきも言った通り真獣は完全攻撃力特化。スピードを乗せた攻撃には十発くらいは耐えられるだろうが、それを超えればパリンと割れて私の顔面はぐしゃぐしゃに潰されてしまうだろう。


「その前に私が潰せばいいだけだけど」


 にやりと笑い、私は戦場へ向かった。


「やっほー元気してる?」


 作戦会議室らしき、一際でかいテントが張られてるところへズカズカ入り込む。中からは、王国騎士団長と、獣王国騎士団団長がいた。


「だ、大賢者様!?」


「やあ、まだ生きてたようだね」


「どこにいらっしゃったのですか!すぐにこちらへ!作戦を立てます!」


「もう、せっかちなんだから」


 やれやれを頭を振りながら私は中へ入っていく。


「そちらの獣人さんは……ふむふむ、確かカイラスだっけ?」


「な、なぜ名前を……」


「いや、なんとなく」


「さあ、作戦会議するんだろ?早くしようじゃないか」


 おっと、王国騎士団長の方の額に青筋がたったように見えた。あとから着た分際で……いやぁごめんごめん。


「……おっほん。続きを始めます」


「おっけー」


「現在、獣人族約三万ほどが首都を目指して行軍中とのことです。たった三万と思いがちですが、侮らないように。相手には化け物がいます」


 その化け物とやらはおそらく真獣だろう。


「たった一人の獣人に我ら混成軍中隊が壊滅させられました。ですから、今度は大隊をあてて時間を稼ぎつつ、本隊を叩きに――」


「それじゃだめだよ」


「ダメというと?」


「言い方は悪いけど、君たちが何人束になろうと彼女には勝てないよ。だから、そこは私が引き受けよう」


 今度は騎士団長は青筋を浮かべなかった。理由は明白、いくら私が生意気を言うお嬢ちゃんに見えても、国から直接世界で一人の大賢者の称号を与えられた身だ。


 当然権力もあり、実力もある。これに従わない道理はない。


「そこまで言うのなら、あなたにお任せします。では本隊三万は我々で食い止めます」


「良いけど、三万もあなたたちにはきついと思うよ?」


 なんせこちらの軍は三万以下なのだから。


 なぜそんなに少ないのかといえば、私が来る前の乱で既に多くが死亡したということ、そして反乱を起こしたのが、国の戦力たる騎士団だからだ。


 あ、勿論カイラス騎士団長が率いる直属の部下たちは裏切っていないが、一部の騎士団が裏切ったことで戦力差はかなり大きい。


「それでも食い止めて見せます」


「その意気やよし。そこまで言うのなら、私も少しだけサポートさせてもらうよ」


「化け物を食い止めていただけるだけで大丈夫です。無理はなさらないでください」


「いやいや、私は何もしないよ。ただ、一人援軍を連れてくるだけさ」


「一人?」


 そりゃあそうだ。援軍と言っておきながらたった一人というのははらから聞いたらバカにされているように感じるだろう。


「大丈夫、援軍に呼ぶ奴も君たちで言うところの『化け物』だからさ」


「なんと!?」


「そういうわけだから、頑張ってね」


 そうして作戦会議は終了する。


「さて、フォーマを連れていく準備をするかな」


 フォーマはまだまだ修行のし甲斐がある。伸びしろしかない。


 だが、もうそろそろ頃合いだろう。私の『眼』にははっきりとその未来の光景が見えていた。


「ベアトリスとフォーマの再会……ん~、感動の予感がするね」

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