第434話 押して図らずとも知れたこと
どんどんと肥大化していく魔力の塊がとてつもないが熱を放出し、圧倒的な力の渦を生み出す。
(山の一個くらいは壊せるんじゃない?)
もし山をまた破壊してしまったら、今度は完全に修復するだけに留めておこう。直せばたぶん将軍も怒らないだろうしね。
そう思って私は遠くにある山に狙いを定める。
荒れ狂う魔力がまるで暴発したかのような衝撃音が辺りに響き、瞬間私の魔法が突然消えた……ように見えた。
多分、幕府軍の面々からは本当に消えてしまったように見えたことだろう。私だってちょっと見えなかったレベルの速度でそれはまっすぐに飛んでいったからだ。
そして、私の魔法は山にぶつかって……
「え?」
貫通し、さらにその先にある山にまで貫通し、またその先を突き進んでいった。
(あ、あれぇ?威力がおかしいぞ?)
分かっていたことだが、流石にここまでとは思わなかった。巨大化した魔力の塊はとどまることを知らず、山の中央から上部にかけてをすべて吹き飛ばしていった。
遅れて風圧と爆発音のようなものが私の耳に届いてくる。幕府軍の方たちもようやくその音で何が起こったのか認識したらしく顔が青ざめている。
(いや、魔法使ってみてと言ったのはあなたたちだからね?)
言っとくけど私は悪くない!
「ちょっとやりすぎちゃったけど、ちゃんと見ていた?」
一応念のため聞いておく。すると、怯え切ったようにすごい勢いで首を縦に振っている。
「ちゃんと見ました!ちゃんと見ましたからあれを都に撃つなんて絶対にしないでいただきたい!……いや、お願いします!」
なんだよのその言い方!まるで私が悪者みたいじゃないか!
《そう見えてもおかしくないです》
「はあ……山四個くらい吹っ飛んだかな?元に戻すのめんどくさいな……」
こんなことになるならもっと威力抑えるんだった……でも、ちゃんと実力が伸びているのは分かった。
同じ魔法、同じ魔力だけを加えてもこの差である。山三つ分威力が違うではないか。
いや、三つ分という単位のつけ方自体がおかしいというのは分かるけど、流石に威力伸びすぎでは?どう考えても一日で伸びていいレベルじゃないぞ?
《『選抜者』の持つスキル『世界の言葉』には成長を補助する能力も備わっているので、成長速度は常人の比ではありません》
おっと、またチートを発見したようだ。
《ですが、流石に一日でこれは異常です。これは紛れもなく才能です》
才能なんて私にはないけどね。私には魔法の才能がなかったから話術師になったわけだし……。
《個体名メアリの血を引き継いだ結果でしょう》
メアリ母様は確かにとんでもない才能持ってそうだな。
《人間の肉体のまま今の主以上の実力を備えていました》
私がもう人間卒業しちゃってるのに対し、メアリ母様は人間のままこんな力を手にしていたのか……そんな母様があっけなくやられるのだろうか?
今思ったらどことなく疑問が残る。メアリ母様があの程度の爆発に巻き込まれた程度で死ぬか?
(ま、考えたところで分からないんだけどね)
もし生きているのなら、また会いたいな。
「それで、えっと……魔法も見せたしそろそろお帰りなったら?」
「は、はい!」
「私は山の修復に言ってくるとしましょうかね――」
♦
翌日から幕府はその山に調査隊を向かわせた。もちろん幕府軍の中でも精鋭の中の精鋭を集めたその調査隊が発見したのは明らかに変質した山だった。
その山からは禍々しい気配が蔓延り、濃厚な瘴気のようなものが辺りに充満していた。それらに当てられるだけで体調不良を起こすものがいたほどだ。
調査隊は満を持して登山を開始し、見事に登りきることに成功した。だが、その先に待っていたのは予想外な先客だった。
そこにいたのはまるで仙人のごとき少女。和服に身を包み空中に浮きながら座禅を組んでいるその少女はどことなく神々しいような気配すら感じた。
明らかにこの山を変質させた元凶であるその少女に調査隊は話を聞くことに成功した。
曰く、将軍に傷を負わせたのはその少女であるとのことだった。思わぬところで出くわしたが、調査隊のメンバーは冷静にその少女のことを観察した。
まず、性格は比較的温厚で口調は割とフレンドリーだったとのことだった。そして、その少女は自らのことを『仙人』と名乗った。
日ノ本の国が誕生すると同時に生まれたこの国の守護者。神に近い存在。
仙人というものにも様々な階級が存在するというのは一般常識だが、その少女は一体どの位の仙人であるのか。
それ次第で我々に打つ手があるかどうかが変わってくる。
調査隊はその少女に力の一端を見せてほしいと頼んだ。だが、それはその直後に公開することになったそうだ。
なんと、少女は自身の体の何倍も大きな獄炎の塊を生み出し、それをまっすぐ放った。それは山四つを貫通し、上部分すべてを吹き飛ばしてしまったのだ。
仙人、その中でも上位に位置する存在であるのはここで確定した。
仙人の中には『神仙』と呼ばれる存在がいる。これらは日ノ本が進行する複数の『神』と同一視されることもある存在であるのだ。
山から下りてきた調査隊は口をそろえて彼女のことを『神仙』だといい、絶対に逆らわない方がいいと口々に言った。
それらがその少女のすべてを物語っている。
元々神仙として生まれたのか、それとも人間の身から神仙へと至ったのかはこの際重要ではないが、今後の動き次第ではこの国が亡ぶかもしれないというのは忘れない方がいいだろう。
我々は守護されている立場だ、決して逆らってはいけない一線を超えたらどうなってしまうのか……それは押して図らずとも知れたことだろう。
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