第433話 修行の成果
私がその場でじっと幕府軍の人たちが到着するのを待っていると、草木を踏み分ける足音がいくつも聞こえてきた。
「やっときたか」
そう思って私は音がした方向に目をやると、そこにはすでに草木から顔を覗かせる兵士たちの姿があった。それらは私の方を見て何やら驚いているように見えた。
(あ、座禅崩すの忘れてた!?)
ついに無意識のうちの魔力を操作できるようになったってことかな?それはとても喜ばしいことだが、流石に修行しながら幕府軍の相手をするのは失礼にも程がある。
私は修行をやめて地面に降りた。すると、幕府軍の中でも偉そうな指揮官っぽい髭を生やした人が前に出てきた。
「あ、あなたは……この山の主なのですか?」
初っ端の質問それかい!と思いながらも、ここは優しく返すべきだな。
なんせ私は『優しい』のでね!
《はあ、そうですか》
そこ!ため息つかない!
「ある意味ではそうかもね」
実際私が魔力を注ぎ込んだせいでそんなふうに捉えられても仕方ないとは思っている。優しい声音で答えたつもりだったが、なぜか幕府軍には戦慄が走っているように見えた。
私の気のせいかな?
「勝手に立ち入ったこと、お許しください」
「いいよいいよ、別に私の邪魔しなければ何してたって私は許すよ」
修行の邪魔をされるのは流石にいただけないがね。それ以外ながらこの山をどうしようと私はどうでもいいのだ。
《主、山が泣いています》
山がなくわけないでしょうに……そういうこと言わないの。
「失礼を承知であなた様からお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
話?私まだ幕府軍に失礼は働いていないよ?まあ今後働く予定ではあるけどね。
「いいよー?」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
「全く堅苦しいなぁ。もう少し緩くていいってー」
「そういうわけには……」
ツムちゃんに私の優しさを示すチャンスなんだからね?
《主には不可能でしょう》
そんなこと言わないの!こんだけ優しく語りかけてるんだよ?いつもとだいぶ口調違うよ?
「それでお話しって何かしら?」
私が笑顔を作るとなぜかまた戦慄が走ったように見える軍の皆さん。気のせい……だよね。
「じ、実は我が国の都で今噂になっていることがありまして……」
「ほお?」
「我らが敬愛する将軍様が傷を負ったと……」
「そうなんだー」
そこで話は途切れた。
「え、それだけ?」
「いえいえ!誠に滅相もございません!私どもはその将軍様に傷を負わせたという人が誰なのか、そしてどのような人なのか調査すべく派遣されたといいますか……」
「ああ、要するに誰なのかが知りたいのね?」
「は、はい。その通りでございます」
「それなら私だと思うな」
「っ!?」
別に将軍は人間と周りからは思われているだろうから、将軍に傷をつけたと言っても大した問題はない。
将軍だって、ちゃんとそこら辺は説明しているはずだからね。流石になんの説明もなしに傷だらけで帰ったわけではあるまい?
それに、将軍を殺そうとしたわけでもないし、なんなら将軍も同意してくれた。この二つがあるから私が裁判にかけられることはおそらくないはず!
「それでは……あなた様は仙人なのですか?」
「仙人?」
「将軍様には向かうことができるものなどそうそうおりません!ましてや傷をつけるなど……仙人以外に考えられません!」
そ、そうなるか?でも、これはこれで私にとって好都合かもしれない。
まあ一応はこの山の主だし?仙人と名乗って、この場を乗り切る方が楽そうだ。
「そうね、あなたたちからしたら仙人かもね」
「なんと!」
別に嘘はついていない。勝手に勘違いして仙人だと思っているようだが、あなたたちからしてみれば実際そうなのでしょう?
普通の人間ですと言って仕舞えば裁判沙汰になる可能性がぐぐんと上がるが、仙人と言えばそんなことにはならない。なぜなら仙人は俗世に縛られない存在だからである。
仙人を俗世の法律で縛ることはできない。何人も仙人を怒らせたくないからだ。
「もう少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「構わないわ。修行ならいつでもできるしね」
「……この山に空いている穴は……」
「私が開けたわ」
「将軍様とお知り合いだというのは……」
「本当よ」
「なぜ将軍様を傷つけたので?」
「お互い楽しくなっちゃって?」
それは言い訳思いつかんわ。とっさに言ったけどこんなの信じる馬鹿はいない……
「そうでしたか」
信じちゃったよ!?
幕府軍たちの間では驚愕の色が見え隠れしている。
「そんなに驚くことかしら?だって、将軍は国で一番偉いのでしょう?『仙人』知り合いだったとしてなんの不思議があるの?」
将軍は仙人と同じく女神の治める前に誕生した存在。よって、仙人たちとはいわゆる『同期』である。
同期の仙人と知り合いだったとしてもなんの不思議でもない。
(あ、でも人間って思われてるんだった)
ま、まあ大丈夫だろう……バレないバレない。
「最後になりますがよろしいでしょうか?」
「うん?」
「確かにあなたからはとてつもない圧力と力……覇気を感じますが、どうしてもあなたの実力を見てみたいのです」
「ふむふむ」
「その力の一端を私たちにお見せしてはくれないでしょうか?」
「いいよ」
即答である。
(まあ、修行の成果がどれほどまで行ったのか気になっていた頃だしね)
魔力操作と魔力量がレベルアップした私が昨日とはどれほどまで変わったのか、自分の目でも確かめたかったのだ。
また強力な魔法を放つ機会をくれてありがとう幕府軍さん方。
「それじゃあとくとごらんあれ」
私は魔法の発動準備に取り掛かる。
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