第406話 訓練のお時間

「は?」


「よかったな、お父様は生きているようだぞ?」


「な、ちょっと待って!?なんで服部長老がそのことを知っているの?」


 いきなりすぎる発言に戸惑いつつ、そう聞き返す。


「言っただろう、噂になっていると」


 うわさ……って。


「遠い東の地ってどこのことですか」


 私の記憶が正しければ、ここの島国が最東の国だったはずだ。確かに、この世界は陸続きになっていて最東という概念が現実的には当てはまらないのは分かっている。


「一体どういうことですか」


「確かにここより東は海しかない。だがな、東の地はあるんだよ」


「どういうことなんですか?」


「国家として最東なのはこの日ノ本だろう。だが、国ではない地がもっと東に存在するんだ」


 国ではない大陸が存在する。


 それはつまり、人間国家が築かれていない大陸があるということ。


「それは……詳しく聞かせてください」


「これが判明したのはつい最近で、知っているのは冒険者組合の上層部、そして一部のSランク冒険者のみだ」


 私が日ノ本の国へ来る少し前にその大陸は発見されたらしい。冒険者組合がとある理由で別の大陸が存在することを確認し、それを確かめに行くために歴戦のSランク冒険者数名が現地へ派遣された。


「その結果、新しい大陸が見つかったんだ。いくらこの世界、探索されつくしているとはいっても、それはわしら人間が知っている範疇に過ぎなかったってわけだな」


「それで、なぜ父様がそんなところにいるんですか?」


 そこが問題。父様はてっきり自分の足で二年前、逃げてくれたと思っていた。だが、実際は違ったらしい。


 そうでなければ父様がそんな訳の分からないところにいるはずないのだ。


「それについてはわしも知らないけどな。でも、とにかく死亡扱いされていた公爵家当主が見つかったってだけで世間は……というよりも組合は驚きに包まれたよ」


「でも、とにかく父様は生きてるんですね?」


「ああ」


 それだけで一安心。


「だけど、ちょっと待って?父様一人だけがぽつんといたわけじゃないでしょう?」


「もちろんだ。周辺には亜人種が大量に生活していたとの情報が入っている」


「そうなのね……その話が聞けただけよかったわ」


 ツムちゃんはその大陸知ってる?


 《肯定します。呼称、古代クラトン大陸。第一次聖戦時に分裂した古代大陸です。そこにはエルダーヒューマン、ダークエルフなどの変異種から、絶滅種の生物たちまで様々存在しています》


 なんだかすごい場所だというのは分かった。


「いつかそこにもいかなくちゃいけないのか~」


「おいおい、その大陸を鎮めたりはしないでくれよ?」


「しませんが?私のことなんだと思ってるんですか長老?」


 ひとまず、話は終わりだ。


「長老はお体に気を付けてくださいね」


「わーっとるわい」



 ♦



「さて、平助くんや。そろそろ機嫌を直してはくれんかね?」


「むぅ……」


「そんなふくれっ面になってたらモテないぞ?」


「……」


 そこは聞いてるのかい!


 忍びの里では訓練施設がたくさんあって助かった。流石に服部家の庭では狭すぎて話にならないから、どこで訓練を手助けしてあげようか迷っていたのだ。


 私も都に向かわないといけない義務があるもんで、最悪でも数日以内にはここを出なくちゃいけない。それまでに教えられることは教えたいな。


「はい!では始めましょうか」


「はい、先生」


「ノリがよくて助かります!」


 でも教えるといっても何を教える。正直魔法は必要ないだろう。


 忍術なるものを使ってしまえばいいのだから。


 だったら何を教える。特に教えることはないぞ?


 となると、やっぱり……


「スキルは持ってる?」


「スキル……一応は」


「じゃあ、それを伸ばしていこう」


 魔法は教えても無駄だし、一番強くなる近道はスキルになれることだろう。私のスキルだって慣れでうまく使えるようになったのだから。


「それは……ダメです!」


「え、なんで?」


「僕のスキルは戦闘向きじゃないから……」


 そう言って下を向いてしまった。


「何のスキル化だけ教えてくれない?」


「……裁縫……」


「裁縫?」


「そうだよ!裁縫がうまくなるだけ!」


 それは……確かに戦闘での使い道はなさそうに感じる。だけど、私だって話術師のスキルをうまく活用してここまで来たんだ。


「大丈夫、私がその裁縫スキルを戦闘系スキルに変えてみせるよ!」

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