第405話 遠方の地
忍者の里と言こともあって里にいる女、子供全員が忍者である。とはいっても私の存在に気づくことはない。
お昼ごろに堂々と里の中を歩いても。
「なんで!?」
私、無視されてる?
《否定します》
あ、よかった……里の大通りを堂々と歩いているのにもかかわらず誰にも見つからない。人通りが少ないというのもあるとは思うが明らかに不自然だ。
《魔力隠蔽能力の上昇の副産物であると思われます》
ツムちゃんによると、魔力を抑え込むというのは同時に、その人物の存在感を抑え込むにつながる。
例えば強烈な魔力を放つ魔物がいたら嫌でも目が行くだろう?それと同じで、私が魔力をだだ洩れにしないように抑えているせいで、気配すらも抑えられてしまっているとのことだった。
「はいはい、人外人外……もう聞きたくない」
ある一軒の家の前へと足を運び、ノックする。
「はーい!」
流石にノックすれば嫌でも気づいたようで平助くんのお母さんが中から出てきた。
「あら!久しぶりねぇ!」
「っお!?」
中から出てきた平助お母さんが私を抱きしめる。胸が顔に当たって苦しい……。
「し、死ぬぅ……」
「あ、ごめんなさい私ったら!ちょっと待ってて頂戴!」
そしてバタンと玄関が閉められ、中から何かを叫ぶ声とバタバタと足音が聞こえた。
再びバタンと玄関が開かれた。
「平助くん?」
「あ……いらっしゃい!」
「だいぶ汗かいてるけど……もしかして訓練中?」
「いや……うん、そう!」
だいぶ興奮気味だ。顔も赤くなっている。
「訓練は少し休んだ方が良さそうね」
「うん、そう思う」
「というわけで、お邪魔していいかしら?」
「もちろん、です」
中に上がらせてもらう。内装は一切変化していない。
居間で寝っ転がっている妹さんがいた。それを見て平助くんは頭を抱えている。
「ふふ、大丈夫。私は気にしてないから」
「うちの妹がすみません……」
やっぱ兄妹はこうでないとね。このくらいの関係性が一番。
うちの四兄弟ときたら、一人は私が生まれる前に他国で領主やってるし、もう一人は私が五歳の時から一回も家へ帰ってこないし、下の兄は今頃王国の騎士団へ入ったころだ。
全く、全員自由人過ぎる。
「ささ、ベアトリスさん。お茶入れましたよー」
「あ、ありがとうございます」
妹さんの寝ている横にある机にお茶が置かれてそれを受け取る。
「今日はどうしたの?」
「いや、時間が空いたので平助くんとの『約束』を果たそうかなと」
「約束?へぇ~?」
平助お母さんはニヤニヤしながら平助くんの方を見ている。
「なっ!違うからね!?一緒に訓練してくれるって約束だから!」
「はいはい、わかってますよー」
凄く焦っている平助くんをあしらうお母さん。
「あのー何か?」
気になった私は聞いてみる。
「ああ、聞いて頂戴!この子ったら、お嫁さんにするならベアトリスさんみたいな子がいいなっていうのよ?もう、マセちゃってねぇ~」
「はぇ?そう、ですか」
嬉しそうに言うことではない気がするけど……。それより、平助くんの頭から湯気がのぼっているように見えるのは私だけ?
「……バカ」
どうやらお怒りなようだ。
「平助くんは今何歳?」
「……十三」
「じゃあ、後二年は待ってね」
「……!」
「ふふ、冗談だけどね」
「バカぁ!」
純粋よのう……これだからいじるのは楽しいのだ。
「そういえば、服部長老はもう戻ってきてるんですか?」
「ああ、お父さんのことですか?そりゃあもう全身ボロボロで帰ってきたんですよ。あの人何時も着替え一着しか持ち歩かないから、もうほんとにひどい感じでしたよ」
引き連れていた忍者部隊は全員無事だったらしく、一安心。
「じゃあ、平助くん。訓練の前に私は長老に会ってくるから待っててね」
「……うん」
♦
「久しぶりだな。一度死んだのに、もう元気になったのか」
「まあ、なんか治りました!」
「はは!それでこそ『神童』よ!」
もう私のSランク冒険者としての私の二つ名は『神童』で決まってしまったらしい。
Sランク冒険者になってから、それなりに日にちが経過した成果いたるところで私に関するうわさが流れているそうだ。
曰く、あの伝承の悪魔を退けた公女。
曰く、最強のSランク冒険者。
うわさをされるのは悪い気分ではないが、それをなぜ服部長老が自慢げにしている?
「まあ、服部長老の方もご無事そうで何よりです。それと、ミサリーと一緒に戦ってくれてありがとうございました」
「なに、気にすることはない。ミサリーは才能豊かだな。あれなら、王国ならトップを狙えるだろう」
確かに、ミサリーはまだ若いのにSランク冒険者となった。実力としては、まだSランク冒険者の中では下から数えたほうが早いだろうが、そのうち一人で軍団に対抗できるようになることだろう。
「それと、ベアトリスや。お前に話しておきたいことがあったんだよ」
「え、話しておきたいことって何ですか?」
そこから、私の予想外だった話が始まったのだ。
「ベアトリス。いや、ベアトリス・フォン・アナトレス」
「……はい」
かしこまったように、服部長老が言った。
「アグナム・フォン・アナトレスが遠い東の地にて生存していることが確認されたらしい」
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