第387話 親しい呼び名

 そこからしばらくは寝たきりの生活になった。反乱軍のほうは無事に追い返すことが出来たようで、なんとこちらの死傷者はほぼいない。


 その主な要因となったのは援軍に来てくれていた服部長老こと兵蔵さん。どうやら一度気絶しミサリーと分かれた後、そのまま本隊の援護に回ったらしい。


 そのおかげだ。


「にしても、こんなふうに何もしない日が来るとは思わなかったな」


 ベッドに寝かされ、窓の外を眺める。真昼間だというのに、私は借りた家の中で寝たきり状態。


 こういう生活も悪くはないが、自由に歩き回れないのはやっぱりつらい。だが、お見舞いに来てくれるみんながお土産を置いて行ってくれて看病までしてくれる……幸せだ。


「まあ、悪い気はしないわね」


 最近は八呪の仙人の姿を見かけないが、ミハエルの話によると渓谷に籠っているらしい。何をしているのかは知らないけど、動けるようになったら一度顔を出そう。


「さてっと」


 ステータスを確認する。


 だが、


 ――――――――――

 名前:ベアトリス・フォン・アナトレス

 種族名:人族

 性別:女

 称号:公爵家長女・昼間の悪夢・真なる勇者・神童・塵殺

 レベル:不明


 基礎ステータス値:不明


 HP:???

 MP;???

 ………

 ……

 Etc

 ――――――――――


 いつもと何ら変わらない、相変わらずのステータス不明の文字。


「もう、いつになったらわかるっていうの?」


 早く自分のステータスが見れるようになりたいものだ。今はお見舞いに来ている人がいなくそれなりに暇なため、ステータスを見ようと思ったのに……それもできないなんてひどくない?


 《なら、増えた機能について確認されては?》


「あ、すっかり忘れてた」


 《……………》


 なんか呆れられた気がするけど、気のせいだろう。


 それよりも、新しく増えた機能とは何だねツムちゃん?


 《二つの機能が追加されました。『半自動戦闘マニュアルモード』と『粒子化』です》


 おおう、なんかすごそうなのが増えたな……。


 《半自動戦闘、通称マニュアルモードは戦闘時相手の動きを自動で分析し、自動で反撃するシステムです。ですが、成長機能はなく、随所随所で使用者自身が操作する必要があります》


 ふむ……自動で相手の動きを分析してくれるとは言っても、後出しで出てきた新技までには対応しきれないから、そこは自分で何とかしてねってことね。


 もう一つは?


 《粒子化は、自身の体を粒子にすることができます》


 ……………で?


 《それだけです》


 なんでやねん!


「ちょっと待ってよ、それでなんか変わるの?」


 《攻撃が当たらなくなります》


 うわ、やっば!?


 《そして、制御できずにそのまま塵になります》


「おい!」


 私の絶句を返してくれ、制御できないなら結局使い道ないじゃないか……。


「確かフォーマが光粒子とかいうのを使ってた気がする……」


 それの劣化版だろうか?


「しばらく使い道はなさそうだから放置かな」


 どうやら今の私は体が動かせないどころか、魔力操作もできない身になってしまったため、試す機会はもとよりない。


「ねえ、これいつになったら治るの?」


 《『進化』を待たずに考えるならば早くて一週間。考慮した場合は二週間程度でしょう》


「またなんか新情報出てきたよ……後から新情報出すのやめてくれない?」


 それで……進化とはなんぞや。


 《現在、一度死にかけた主人の体を修復している最中です。その修復過程で死んでしまったことへの反省を生かすよう、肉体が成長することです》


 うん、全くわからん。


 《肉体はより頑丈に……魔力出力はより出力を出しやすくするため、拡張されている、ということです》


 もっと人じゃなくなっちゃわないそれ?今までは肉体の頑丈さは人間のそれを超えてなかったというのに、それを超えちゃうの?嘘でしょ?


 《事実です。ご安心ください、主人よりも強い人物は地球上にまだどこかにいるはずです》


 とりあえず現実逃避しとこ……。


「はあ……先が思いやられるな……」


 とは言いつつ、強くなることは一向にかまわない。どうやら世界には上には上がいるらしく、もっと強くならなくてはいけない。


 私の敵を倒すまではね。


「とにかく今は休んどこ!そのくらい許されるでしょ」


 今はのんびりとしよう。これはきっと世界が私に休めと言っているに違いない!


 そう思って私は横になり、ゴロンと部屋の入り口のほうに目をやる。


「やあ」


「っ!?」


 そこには何か愛玩系の者を見るような目でこちらを見ているレオ君がいた。


「ノックした?」


「したよ」


「いつから、いたの?」


「先が思いやられるな~くらいからかな?」


 メッチャ独り言聞かれてた……。


「おほん!どうしたの、レオ君?お見舞いしに来てくれたの?」


「うん、まあ一応ね」


 そう言って、手土産らしき袋を手に、近くの椅子に座った。


「体は大丈夫?」


「うん、私は元気なんだけどどうにも体が言うこと聞かなくてね」


「まあ、無理やり蘇ったんだから、そりゃあそうだよ」


 そう言ってレオ君は私の顔を見つめてくる。


「なあに?」


「ああいや……こないだのさ、ことなんだけど」


 こないだのことと言えば……思い当たる節は一つしかない。


「やっぱりうらやましかったの?」


「うん……あいや、そうじゃなくて!」


 焦っている姿も可愛い。


「こんなこと言うのもなんだけど……ベアトリス生き返ってからなんだか可愛くなったような気がして」


「えっ!?」


 可愛くなった?ほんとに?吊り上がった目つきがコンプレックスの私が可愛くなったと?


「だから、本当に羨ましかった」


「ええ?」


 どういうことなんですかツムちゃん!?


 《肉体強化に当たり、外観の美的度も上がっているのかと》


 いらないような何よりも求めていたような……。


「まあ、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどね。私からしたら、レオ君のほうが可愛いんだけど」


「っ……可愛いって言われても嬉しくないよ」


 と言いつつ尻尾を振っているのが見えている。


「あっそうだ、思い出した。ベアトリスに一つお願いがあるんだ」


「うん?お願い?今の私にできることならなんでもいいけど……」


 そういうと、レオ君は恥ずかしそうに言った。


「ベアってこれから呼んでもいい?」


「へ?」


 そういえばレオ君ずっとベアトリスベアトリスって、わざわざフルネームで呼んでくれてたな……。


「そのくらいならお安い御用よ」


 分かりやすい通り越してわざとやってるんじゃないかと思うくらいの満面の笑みが顔からにじみ出ている。


「ありがとう!」


「今度はみんなでお見舞い来てね」


「わかったよ、ベア」


 そう言って、レオ君は部屋から去っていった。


「……もうずっと寝たきりでいようかな?」


 《ダメです》


 だ、そうでした……。

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