第386話 帰ってきたベアトリス
「みんな……ただいま」
みんなの顔を見渡し、笑顔を作る。泣きそうな顔をしちゃってこっちまでうるみそうだ。
「ご主人様っ!」
「のわっ!?」
バサッとユーリが私の上へ覆いかぶさり、涙をぼたぼたと落として泣いた。ユーリのぐしゃぐしゃになった顔なんて初めてみた。
いつも従順だけど、ちょっと悪戯したりして可愛いユーリをこんなに泣かせてしまうとは……。そう私が悔いていると、生温かい息が顔にかかり、
「ん……!?」
「「「ああ!?」」」
くちびるが塞がれ、ユーリの髪の毛が顔に触れる。だけど、その感触はすぐなくなった。
「よかった……」
「ユーリ……大丈夫、もうどこにも行かないから」
優しくユーリを抱きしめてやると、今まで啜り泣くような声が大きい泣き声に代わった。泣き止むまでしばらく、私が抱きしめておくとしばらくしてユーリは顔を上げた。
「生きてる?大丈夫?痛くない?」
「えぇ生きてるよ、ちゃんと」
まあ一回死んだけど。
「それより……」
今めちゃくちゃあたったよね、くちびるに……。
「どう?ボクのファーストキス!」
ファ!?
「まじ?」
「まじ」
どうしよう、可愛い可愛いユーリからファースト奪ってしまった……。
え?なにこの罪悪感、私なにも悪くないけどすごい申し訳ない気分になってしまうんだけど?
私がそう頭を抱えていると、ユーリは私の方を見て、笑いかける。
「ボクは全然いいよ?逆にご主人様のを奪ってないか心配なんだけど……」
そう言って目を逸らす。
私の?
「さあて、どうでしょうねえ?」
「うわー!酷い!」
人生二回繰り返してるから、もう覚えてないよ。
「おっほん!」
「「あっ……」」
「そろそろいいですかお嬢様?」
後ろに控えていたミサリーわざとらしい咳払いで私たちの意識を戻す。その顔にはどことなく血管が浮き出て見えるほど笑顔で怒っているように見えた。
「せっかく私たちが感動の再会をしようと言うときになにを二人でイチャイチャと……」
「アッハイ……スミマセンデシタ」
「まあいいです。では改めて……」
もう一度咳払いした後から、今度は優しい笑顔をむける。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「はい、ただいま」
感動(?)の再会を果たし、他のみんなも喜んでくれていると言うのを目で確認した。これだけでも生き返った甲斐があると言うものである。
反乱軍の動向や仙人を名乗っていた男についても色々と聞きたいことが山ほどあるが、それはまた今度聞くとしよう。この雰囲気を壊したくないから。
「それで……レオ君はなにコソコソしてんの?」
「うっ……」
ミサりーの影からこちらの様子を伺っているレオ君に目をやるとびくりと肩を震わせた。
「いや……見ていいのか悪いのかわからなかったから……」
と、照れたように言っている。あ〜いい反応をしてくれるじゃないかぁ〜!
大変眼福ですありがとうございます。
「その……できたら僕もしたかったな……」
「羨ましいだろぉー!」
「う、うるさいなぁ……」
え、なにもしかして私モテ期?レオ君が、私にそんなことを言うなんて……尊い……生き返ってよかった。
「お嬢様は人気ですね、まあお嬢様の程の淑女なんていませんから当然です!」
んでもってミサリーは私のことをヨイショと持ち上げる。うむ、こう言うのも悪くない気分だ。
「あのぉ……」
「あ、ミハエル……さん?」
ミハエルのことを完全に忘れていた私が最初に目にしたのは、その立派な羽だった。
「どどどどうしたのその翼は!?」
「ええまあ色々とあって……神格はどうやら私の中にあったようです」
ごめん、だいぶなに言っているかわからない。
「まいっか、久しぶりにのびのび息してる気がするよ」
今まで張り詰めた雰囲気の中過ごしてたからね。一瞬だけでも、こうやって平和な会話ができたことに感謝しかない。
ねえ、ツムちゃん?
《そうであるといえて、そうでないとも言えますね》
なんかあんまり嬉しそうじゃないなー私が生き返って嬉しくないの?
《至福です》
おっと、ナチュラルに言われるとビビる。そんな平坦な口調で言われてもねぇ?
《それより、報告があります》
ごまかされた……それで?報告ってなんのこと?
《スキル『世界の言葉』の権限レベルが2に上がりました。これにより、閲覧可能な情報が増え、新たな機能も追加されました》
おお!?そんなに簡単に権限レベルって上がるものなのか?まあ、新しい機能が増えたと言うのも気になるけど、何より情報が増えたのが嬉しい。
《簡単?一度死んだ『おかげ』でレベルが上がったため、簡単とは表現しにくいです。保持者ベアトリスがそう思うのであればもう一度死んでみますか》
あ、遠慮しときます……。
情報や機能についてもかなり気になるが、これはまた明日にでも見ておこう。
「さあて、のびのびできたことだしそろそろ体起こすか〜」
そう思って、体に力を入れようとする。が、
「あれ?」
なかなか体に力が入らなかった。自分ではかなりの力を使って立ちあがろうとしているのに一向に立ち上がれる気配がしない。
え、もしかして死んだせいでレベルダウン……ステータス下がってたりする?
《ステータスは上昇傾向にあります。一度死んだことにより、耐性面も強化され、死亡する以前と比べて格段に強くなったと言えます》
じゃあなんで?そう聞いたが、これは聞かないほうがよかったかもしれない。
《内臓器官が全て停止しています。そのせいでしょう》
はい?
《内臓器官が機能しないために、体に力を入れることができていないのだと思われます》
こわ!?どう言うことなの?内臓動いてないのになんで私生きてんの!?
《元々、人間とは程遠かったこと。そして、死を一度乗り越えたからこそ、人間の肉体を超越したのでしょう。今なら呼吸せずとも生存が可能です》
はっ?
「聞かなかったことにしよう……」
「どうされましたお嬢様?」
「いや、大丈夫……って、あの二人はまだ戯れてんの?」
見るとユーリがレオ君を追いかけ回して遊んでいた。
「あぁ……『羨ましいなら行ってみなよ!』と、からかってるんですよ」
「思春期か!?いや、思春期なのか……よくよく考えたらちょうど思春期の時期か私たち!?」
私人生二回目……いや、一度死んだから三回目か。私の思春期なんて十数年前に過ぎ去っているから忘れていた。
側から見たらこんな感じなのか思春期とは……厨二病よりかは見ていられる青春だな。
それと、
「ちょっと……体に力入らないや」
「大丈夫ですお嬢様。今まで死んでたんですか徐々に体を慣らしていきましょう」
「うん、そうさせてもらうね」
「では、私はそろそろ外へ出ますね」
「何か用事があるの?」
そう聞くと、ミサリーは元気に答える。
「外で殺り合ってる反乱軍どもをおい返しにです!」
「物騒だな!?……ん?っていうか、今戦争中だったんかい!」
今日も今日とて平和でした。
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