第383話 浄化される心(ミハエル視点)
絶対に誰も見捨てない……そう強く願った結果、自らの体に驚くべき変化が起きた。
《あなたと共に戦いましょう》
(ミハエル様?)
体から幻花と似たような光が溢れ、背中からは軽い何かが背中から生えた。一瞬何が起きたのかわからなかったが、すぐに理解できた。
頭の上には光る輪っかが出現し、背中には純白の翼が生えていた。
ミハエル様が力を貸してくれたのだ。
私を信じて力を貸してくださったのだ。だから、私は自信をもって宣言する。
「絶対に誰も死なせません!」
神に祈りを捧げるシスターのように、私は両手で祈りのポーズをとる。それで何かが変わるのか、その時の私にははっきりと理解できた。
「離れて!」
仙人さんにそう言い放ち、仙人さんが後ろに避難した刹那、上空からまるで雷が落ちたかのように渓谷全体を包み込む光が現れる。
それは徐々に範囲を狭め、金鎧の男一点に狙いを定めた。
「祈りを!」
私は強く願った。
浄化を。
光はまるで金鎧の男を包み込むように光の粒子が優しくまとわりつく。それが慈悲だと言わんばかりに男の全身が完全に見えなくなるまで光が男を包んだ。
そして、数秒という時間で光は晴れ、その中にいたのは膝から崩れ落ちている金鎧の男だ。
驚愕で固まっている仙人さんに私は言う。
「大丈夫です、死んではいませんよ」
「お前は……いや、また後ででいいだろう」
そんな会話をしている最中に男は目を覚まして、起き上がってきた。ただ、先ほどまでとは一つ違う点があった。
「迷惑を、かけたね」
その男は仙人さんに対して、そう呟いた。
そう
私は彼を殺そうとしたのではない。心を浄化したのだ。
「……少し、我とこやつで話してもいいか」
「構いませんよ」
♦
光が八光を包んだときは死んだのかとヒヤヒヤしたが、ミハエルは彼の心を浄化してくれたようだ、いや元に戻してくれたといったほうがいいだろう。
「いろいろと……その、迷惑かけちゃったね」
「本当だ、迷惑ばかりかけられたさ。我はお前のおかげで何百年と時間を奪われたんだからな」
「あはは……本当にごめんよ……自分がしでかしたことは全部覚えている。いろんな人を傷つけて殺して……もう救いようがないくらいに」
そういうと、八光は鎧の武装を解いた。それと同時に、体が勝手に動いていた。
「ちょ、っと……いきなり抱き着くなよ」
「黙れ」
「もう、泣き虫なくせに……今までありがとう」
しばらくの時間が経過した後、八光を離した。
「それで……お前みたいな優しいやつが何で狂気にとらわれてしまったんだ?」
「っ!」
単純な質問かつ、核心を突いたものだ。答えづらそうにしている八光の様子からもただ事ではなかったことがうかがえる。
「私は……俺は、『世界の言葉』っていうスキルを持っていたんだ」
「なんだ、それ?」
「そこは一旦置いといてくれ。そのスキルは世界のあらゆる情報を知らせてくれるというスキルで、権限のレベルが上がっていくごとに得られる情報が増えるんだ」
「ほう?」
「俺はその権限のレベルがマックスになって……この世界の真実に気づいてしまったんだ」
「真実?」
青ざめた表情から、それはとんでもないことであることがうかがえる。
「ああ……その真実は教えることはできない。権限がないやつには教えられないことになってるんだ……それに、教えてしまったらお前まで狂ってしまうかも……」
「そんなにか?」
色々な、今までに教えてもらったことのない……相談されたことのないような真実がどんどん明かされていく。
「まあ、でも……戻ってきてくれてよかったよ」
「……ああ」
だが、彼はずっと暗い顔をしていた。それが不思議で、
「どうして、そんなに暗い顔をしているんだ?」
彼はその暗い顔のまま、言った。
「最後にお前と話せてよかった」
「はっ?」
その言葉の瞬間、邪悪なまでの漆黒な刃が彼の心臓を貫いた。上から降ってきたそれは、すさまじい勢いで寸分たがわず彼を撃ち抜いたのだ。
「おい!?大丈夫か!?」
「誰ですか!」
渓谷から上空を見上げると、そこには小さな少女がいた。ベアトリスくらいの大きさだが、茶髪のぼさぼさな髪をしているのが特徴的だった。
「誰ですか?ですって……?そんなのに答えるバカいないでしょ」
「なっ!」
凄まじい勢いで落下してきたその少女は、冷たい眼光でこちらをにらみつけている。
「あなたたちには興味がないの。私はこの男にしか興味がない。むしろ、あなたたちにはさっさとベアトリスの元へ向かってほしいくらいだわ」
「え?」
疑問を浮かべ、固まってしまう。その様子を見ていた少女は突然にキレ始めた。
「さっさと行けって言ってんでしょ!?ベアトリスを早く蘇らせなさいよ!」
「お、お前は一体誰なんだ?」
「誰だって、いいでしょう!?面倒くさいわね!」
「お、おい!ちょっと待て!」
すぐさま立ち去ろうとする少女を呼び止める。
「彼を……殺したのか?」
ピクリとも動かない彼の様子を見て、思わずそれしか聞けなかった。だが、不覚にも回答は安心するようなしないようなものだった。
「いいえ、殺していないわ。本当だったら殺したいところだけどね。ちょっとした理由でそいつは生かさなくてはいけないの。安心しなさい、」
そう言って、少女は今度こそどこからともなく現れ、どこからともなく消えたのだった。
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