第366話 戦い前

「あれ、いなくなってるや」


 転移ですぐさま八呪の仙人の元へと戻ってきたものの、その場にはすでに仙人の姿は無くなっていた。あるのは眠ったように座禅を組んでいる本体だけだった。


「本体が喋れたらよかったのに」


 というか、本体があるってことはあのしゃべってる方を倒しても死なないってこと?


「さすが仙人……」


 幻花でもしかしたらと思ったが、ひとまずは組合に戻るとしよう。このまま無闇に探しても何も見つからないだろうからね。



 ♦️



 そういうわけで組合に戻ってくると、そこには出かけていたはずのミサリーの姿があった。


「お嬢様!」


「お帰りなさい、ミサリー」


「冒険者……忍者の皆さんを応援に呼び寄せました」


「ん?街の復興で忍者使う必要はなくない?」


「違います、すぐそこまで反乱軍が迫ってきているんです!」


 いきなりそんことを言われて、驚いているところに後ろから肩を叩かれた。


「ぎゃ!」


「数日ぶりかな?」


「服部長老……あなたまできてたんですか?」


「年寄りに向ける目つきじゃないのぉ〜」


 背後には服部長老と数名の忍者がいた。


「それで、反乱軍はもうそこまできてるって?」


「そうなんです。ですが、それはさしたる問題ではないでしょう」


「ま、まあ……自信過剰かもだけど、私ら強いもんね……」


 仮に、服部長老に負けたミサリーですらステータスは10000を超えており、そうなるとステータス万超えが私を含めて、五人いることになる。


 一騎当千の猛者がこれだけいれば防衛面は問題ないだろう。


「じゃあ何が問題なの?」


「仙人ですよ」


 ドキッと心臓が一度跳ねたが冷静を装い訪ねる。


「仙人?」


「はい、ここからすぐ近くの霊峰にとても凶悪な仙人が住んでいると聞き及んでいます。その仙人の逆鱗に触れたら、我々全員皆殺しに遭ってしまいますよ」


「あ、はは。それは怖いねー……」


 その仙人さん、おそらく今頃反乱軍の足止めをしていると思われます。だから霊峰の渓谷からいなくなっていたんだね。


「それに、お嬢様はお嬢様で何か忙しそうにしているじゃないですか」


「あ、ああそれはね、幻花というのを探してたから」


「幻花?」


「数百年に一度しか咲かない貴重な花だよ。ちょうどその時期と今の時期が重なっているの」


「え!?じゃあ、このチャンスを逃したら数百年はお目にかかれないのですか!?」


 あんた何歳まで生きるつもりなんだよ……。


「まあそういうことになるね」


「でしたら、そっちを優先してくれても構いませんよ?反乱軍なら私と兵蔵さんでなんとかできますし。ユーリちゃんたちは街の防衛をお願いしようかな」


 うーん……確かに反乱軍の人数が万単位でいたとしても問題はない。だけど、そう簡単に行くのか?


「なんだか嫌な予感がするわねー」


「お嬢様もですか?」


「ミサリーも感じるの?」


「いえ……私じゃなくて兵蔵さんが」


 そう言って服部長老の方を見る。


「仮にも戦争じゃ。そう簡単に勝てるわけないだろ?」


「まあ、そうなんだけどね。私のはそういう嫌な予感じゃなくて……」


 もっと現実味の帯びた奴なんだ。


 もしも、反乱軍だけが攻めてくるのであれば戦力面では問題ない。だが、他にも敵がいたとしたら?


 《八光の仙人は反乱軍と繋がっている可能性があるということですね?》


 察しがいいから助かるよ。


 もし、八呪の仙人と同格……実力的にはもしかしたら八呪の仙人よりも上かもしれない敵が数万の反乱軍を率いて襲ってきたらどうなる?


「ちょっと待って?もし、そこが繋がっているなら……」


「お嬢様?」


 嫌な予感の現実味がさらにました。


「最悪な場合、私ら負けるかもね」


「ええ!?」


 その最悪な場合にならなければいいけど……。


 そんなことを頭の中で思考していたとき、冒険者組合に強震が起きた。凄まじい衝撃音が頭上から鳴り響き、建物の一部が崩壊していた。


「何!?」


 天井からどさっと落ちてくるのは、一人の人の姿。その姿は紛れもなく八呪の仙人その人であった。


「大丈夫!?」


「油断した」


「ここまで吹っ飛んできたの?なら、あいつもいたのね?」


「ああ、差しでの戦闘を想定していたのが悪かった。横槍が思った以上に邪魔だな」


 八光の仙人が反乱軍に加担しているなら、こちらの情報は筒抜けだったことだろう。何せ街の中に出入りしていたくらいだからね。


 ということは勝算があったからせめてきたと言う事。


「だが、傷は負わせた。しばらくは反乱軍だけの相手で十分だろう」


「ありがとう時間稼ぎ」


「それで?何かあったのか?」


 私は幻花の話を伝えた。


「なるほど、それなら記憶も消せるかもしれない」


「何処にあるか知ってる?」


「それはわからぬ」


「なぜ!?」


「数百年に一度咲く花の場所などいちいち覚えていられるか」


 正論ではあるんだけど、それじゃ不味いんだよ!


「お、お嬢様……その方はどちら様で?」


 瓦礫をどかしながらミサリーが戻ってくる。服部長老ももちろん無事だった。


「えっと……ミサリーがさっき話していた仙人さんだよ」


「え?」

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