第365話 良からぬもの(ミサリー視点)
街の人員が足りない!すべての事柄において人手不足だということを受付から告げられ、これは緊急な案件であると判断された。緊急依頼は信頼度が高いSランクの任せられる仕事である。
故に、私は手の空いている冒険者を集めるために他の街の冒険者組合まで走ることになった。
だが、冒険者組合というものが日ノ本の国にそこまで浸透した組織ではないというのが難点だった。隣町まで走ってもそこには冒険者組合はなく、そのまた隣町まで走ってもなく……。
そんなことが何度か続いた当たりで、方向転換することに決めた。
「そうだ、服部さんがいるではありませんか!」
忍者の里で出会った長老さんはなんとかの有名なSランク冒険者ではあーりませんか!
世界人口何億という世界で10もいないSランクが今日ノ本に三人いると考えるだけでも十分凄い。しかも全員が知り合いだということも凄い。
というわけで、お世話になったあの里まで一っ走りしてきます!
♦
と言ったのが数時間前の話。
「お主、大丈夫か?」
「はあ……問題……ない、で……す」
「大問題じゃろ」
目の前には『忍耐』の兵蔵と呼ばれている冒険者がいる。
「ふむ、街の防衛にわしが迎えと?」
「はい、残念ながら冒険者組合が日ノ本には少ないので、この里が一番近いのです」
「ふうむ……だが、Sランク冒険者二人もいれば十分じゃないかね?」
「強さじゃなくて人員の問題です。『人手』が足りていないから、兵蔵さんじゃなくてもいいので何名かお借りできませんか?」
お嬢様はせかせかと何か忙しそうにされていた。何をなされているのかは教えてはくれないが、忙しいなら私が動くしかない。
だから、絶対に人手は確保しなくてはいけないのだ。
故に、私は頭を深々と下げてお願いする。
「どうかお願いします」
「そこまでしなくてもよい。無論人手は貸す。民が殺されているのを命令がないからと黙って眺める程落ちぶれたやつはこの里にはおらん」
「ありがとうございます」
話し合いは予想よりもはるかに早く終わり、里の若手から精鋭を含めて三十人を借りることが出来た。
「そして、わしを合わせて三十一だ」
「来てくださるのですか?」
「反乱軍は我々を素通りした……脅威に感じていないのか、それとも居場所がバレていないのか。どちらにせよ、これからUターンで襲ってくるというのは考えずらいからの」
これで戦力は十分確保できただろう。
「ミサリーさん?」
「はい」
服部家のみなさんもこの場にいたのを忘れていた。
「戦場に出てるの?ベアトリスさんも」
「はい、むしろお嬢様がいなくなったら戦線が成り立たないですよ」
「ちゃんと戻ってくる?」
「もちろん。お嬢様ったら、昔から平気な顔でありえないことをやっていたんですよ?誘拐された時だって、平然と帰ってきたし!」
お嬢様が普通じゃないのは今に始まったことじゃない。今更これから起こるであろう戦の心配をしていても杞憂というものだろう。
なぜなら、ベアトリスだからである。
「そういうわけでそろそろ行きましょう」
そう言って立ち上がった時だった。一人の忍者が部屋の中へと入ってきて、兵蔵さんに耳打ちする。
「……そうか」
「どうかしたのですか?」
「反乱軍が侵攻を再開したそうだ」
「っ!ということは、すぐにここを出なくては間に合わないのでは?」
「そうなるの」
急がなくては。せっかくライ様たちとも仲良くなったのだ。死なせるわけにはいかない。
「兵蔵さん、私たちは先に行きましょう!」
「久々の戦だ。張り切って参ろう」
♦
街と里の中間地点で侵攻中の反乱軍を視界に入れる。
「山の上から走ってきて正解でしたね」
「平原をバカみたいに走るやつはおらんじゃろ」
トロッコを使うという手段もあったが、あいにくと今は街の下に停まっている。引き戻してから乗り込むより走った方が早かった。
「とまれ!」
兵蔵さんのその合図に私はすぐさま体の動きを止めた。草むらから反乱軍の様子を覗くと、そこには見たことのある顔があった。
「あれは……コウメイ殿か?」
お嬢様のお兄様……坊ちゃまがどうしてここに?
「危ない!」
「動くな!」
反乱軍は一度坊ちゃまの前で止まった。が、次の瞬間には坊ちゃまを素通りして、再び侵攻を始めてしまった。
それを坊ちゃまもただ何もせずに眺めていた。
「どういうこと?」
「今は気にしている場合じゃない。先を急ぐぞ!」
「はい」
なぜ坊ちゃまこんなところにいるのか?そして、なんで侵攻を止めようとしないのか?
様々な疑問をすべて消し去って私は再び走り出した。
「ミサリー殿」
「なんでしょうか?」
「これはちと、キツイ戦いになりそうだぞ」
「どういうことですか?」
走りながらそんなことを言う兵蔵さん。
「わしの勘だ。何か……戦力差を大きく勘違いしている気がする」
「反乱軍程度なら、我々Sランク冒険者で十分対処できますよ?伏兵がいたとしても忍者たちがいれば!」
「そうではないのだ。なにかよからぬものがかかわっている気がする」
「そんな不吉なことは言わないでください」
私は兵蔵さんの言葉を忘れるように無我夢中で加速するのだった。
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