第315話 冒険者ベアトリス

 結果だけ言えば、勿論私の圧勝だった。ドルドは剣士らしく剣を抜いて斬りかかってきたが、私はそれを軽く避ける。


(全く、身長が低いせいでいつも絡まれるのよね……)


 前世はまあまあ高い方だったのだが、筋トレを始めてしまったからか、それとも二年ほど眠っていたからかは分からないが、圧倒的に身長が足りない。


 なんと悲しいことか!


 早く背が伸びないかな……そんなことを考えながら、私はため息を吐く。


 すると、


「な、なんだ!?」


 ドルドの手にしていた剣が溶け始めたのだ。何が起きたのか、よくわからない間に勝手キレ始めるドルド。


「お前、よくも俺の剣を!」


 溶けかけの剣を振り上げて、再び私に向かって振り下ろす。だが、今度は私が避ける必要はなさそうだ。


 溶けかかっている剣にもはや私を斬る力は残っていない。


 そして、私の頭上まで向かってきた剣は、私に触れる瞬間にものすごい勢いで溶けて消え去った。


 ドロドロに溶けたわけではなく、その場から姿を消したのだ。金属の液体が地面に落ちるでもなく、何もなかったかのように柄だけが残った。


「嘘だろ!?」


 野次馬からは歓声が沸いた。私が圧倒的に勝利したように見えたのだろう。


 と言っても、私も今何が起きたのかよく理解していなかったから、理解に苦しむ。


 そうしているうちに、後ろにいたオリバーさんの口から不思議なことが聞こえてきた。


「『勇気の鎧』?」


「なんですかそれ?」


「あ、ええとですね、長年代替わりしながら活動している勇者様の持つスキルの一種ですね。悪意を含んだ攻撃を弱体化するというものです。ちなみに、あまりにも弱すぎる攻撃は完全に無効化できるらしいですが……」


 なんだよそのチートスキル。どこぞのトーヤが持ってそうなスキルじゃないか。


 そういえば、トーヤはまだ帝国にいるのだろうか?


 数年会っていないから次会うのが楽しみだ。


「そんなスキルがあったら便利ですね」


「で、ですよね……」


「えっと、これ私の勝ちってことでいいですかね?」


 自慢の武器が跡形もなく消えてしまったことを深く悲しんでいる様子のドルド。なんだか申し訳ない気もするが、私は何もしていないのでどうか逆恨みだけはしないでほしい。


「というわけで、ミサリー!私もAランク冒険者になったよ!」


「ええ~……」


「ちょっと!もっと喜んでよ!」


「い、いやぁ……私が十数年かけたSランクまで上り詰めたのに、お嬢様はたった数分でAランクまであがってきたので……」


「スミマセンでした」


 そんなこともあったが、なんやかんやで私も冒険者の仲間入りだ。


「Aランク冒険者以前に、ベアトリス様は冒険者なり立てなので、詳しく仕組みから開設させていただきます」


 と、受付の人。


「冒険者は基本、依頼をこなして達成することで賃金が発生します。依頼には常時依頼、通常依頼、特殊依頼、指名依頼の四つがあります。常時依頼は常に看板に張り出されている依頼です。通常依頼も看板に張り出されています。特殊依頼と、指名依頼に関しましては、緊急性の高い依頼や個人指名の以来のことを指し、低ランク冒険者には一切かかわりのないものとなっています」


「まあ、Aランク冒険者は受けるんですけど」と、付け加える。


 そうしているうちに、私の冒険者証明書が来た。それを見てみると、金色に光っているプレートの中に私の名前が入っていた。


 職業や性別は入れても入れなくてもどっちでもいいらしい。なぜなら、秘密を抱えている人も多いからである。


 私も一応家名は入れていない。まあ、すでに手遅れなことだろうけど……。


「で、お嬢様。冒険者になって何をなさるのですか?」


「ふっふっふ、それは単純明快!敵を混乱させるためよ!」


 もはや私の生存は敵首魁、悪魔の少女によって確認されてしまった。しかし、私は再び逃げ延びている。


 まだ私の居場所はバレていない。だが、時期にバレてしまうことだろう。


 教員なんてやっているのだから、名前が広まってしまっても仕方がないことだ。


 そこで!


 冒険者になることで、それをかく乱させるのだ!冒険者は自由に旅するのがモットー。よって、私がどこにいても不思議じゃない状況を作り出せる!


「逃げるが勝ち!その間に急成長してやる!」


 っと、その前に島国調査に行かなくちゃいけないが、それはそれだ。


「でもお嬢様、冒険者登録がこうもすぐに終わってしまっては時間はつぶせてませんよ?」


「うぐ……」


 かく乱だなんだというのは、あくまで建前。この暇をつぶしたかったのが、主な目的だったわけだが、それはどうやら叶わなかったらしい。


「しょうがない、明日行こうと思ってたけど、今日行きますか」


「どこにですか?」


「私の大剣を作ったドワーフの元に!」


 私の大剣はかなり素晴らしい武器だ。私の小柄な体に似合わず巨大な剣はとてつもない威力を出してくれる。


 だが、それだけ。いくら威力が出るといっても本物の強者にはかなわない。どちらかというと、取り回しが重要だというのが分かった。


 かといって大剣を捨てるつもりはない。なので、


「この大剣を加工してもらいましょう」


 冒険者カードを懐にしまうと、再びミサリーを連れて転移するのだった。

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