第296話 目撃

 私の背中から立派な翼が生えてくる。なくても飛べないことはないのだが、こっちの方が魔力消費が少なくてすむのでお得。


「毎回思うんだけど、グラートたちはどうやって飛んでるの」


「それは知らん」


 翼と魔力消費なしに飛べるのは龍族の特権なのだろうか?


 木々の中から飛び出し、数千の軍勢が見渡せる辺りまで飛んだところで、私たちは静止する。


「族長、わかる?」


「ふむ……あやつは擬態がうまいようだ。魔力の量も偽っている」


 私の魔力感知にも引っかからないということは、先ほどの上位悪魔の用心深さが窺える。


「だが、あの中にいるのは間違いなさそうだ」


「というと?」


「あの低位の悪魔たちは命令なしには動かない。知能はあっても自我が弱いのだ」


 操作するためには近くに命令できる上位者が絶対に必要。


「ひとまずどうする?」


「突っ込む」


 ドラウはバカなのか、それとも何も考えていないのか。

 圧倒的なシンプルイズベスト……。


「でも、全体を見渡してわからないなら、それがいいのかもね」


「真ん中から四分割だ」


 一人当たり数百を叩けばいいだけのこと。


 そして、私たちは悪魔たちの大群の中に突っ込んでいくのだった。



 ♦️



「ほら、こっちきなさい!」


 悪魔は一切喋らない。声を上げることも悲鳴を上げることもせずに死んだらそのまま塵となって消えてしまう。


 上位悪魔のように物理攻撃が通じないなんてことはない。見た目もそれぞれだいぶ違う。伝承通りのガーゴイルのような見た目のやつから動物をかたどったような悪魔たちもいる。


 強さもまちまちだ。だが、私には問題なさそう。


 一匹が背後をとって私に向かって迫ってくる。正面からはもう一匹の悪魔が……頭上からもう一匹が魔法の準備をしている。


「邪魔!」


 正面からくる悪魔を掴み後ろへ投げ飛ばす。背後にいた悪魔と激突している間に、私は頭上に転移する。


 何回転か回りながら遠心力をつけ、頭を一蹴り。


 とれた頭はすぐに消滅する。


 集まっていた魔力は霧散して、あたりめがけて攻撃を撒き散らした。


 それをひらりひらりと避けると、周りのいた悪魔たちは勝手に攻撃を喰らってその動きを止めている。


「『竜巻トルネード』」


 上空は空気が薄い。そんなところでの風魔法は効果が弱い?


 むしろ逆だ。無風の空間で戦っていたのにも関わらず、いきなり突風を喰らえばそれはもう大惨事である。


 鋭い風が下位悪魔たちを飲み込んでいく。飲み込まれた悪魔は竜巻の中でズタズタに切り裂かれてその姿を消した。


「これだけ倒しても十体か……」


 今の攻防で倒したのはたったの十体。


 これを後数十回繰り返せばいいわけだが、それでは時間がかかりすぎる。


 そして、一番の問題が残りの私の魔力だ。


 私は魔力を消費しながら戦っている。人間が飛んでるんだから、そりゃあ当然の話だが……。


 その魔力消費量はバカにできない。


 大体常に中位魔法を使用し続けているような感じだ。このまま戦えば絶対に魔力が尽きるし、疲れているところを上位悪魔に叩かれかねない。


「でも……」


 迫ってくる悪魔たち。それを未だに竜巻がせきとめていてくれてる。


 このままでは埒が明かない。


 どうしたら……。


「待って、もしかしたら……」


 一つ、大事なことを見落としていた。今、上空で戦っているのは四人。他は……申し訳ないが戦力外。


 ナターシャと長老は戦力になるが。


「あの二人ももし飛べるんだったら……」


 そうなれば、みんなの負担する敵の量も格段に減る。


 そして、


「シル様の目があれば!」


 魔力感知に引っかからないほど、隠蔽がうまい上位悪魔だが、魔力の総量を見通す魔眼の持ち主には通じないはず。


「族長!」


 ちょうど近くに飛んでいた族長に声をかける。


「なんだ!?」


「少し、私の分も相手できますか?」


「そのくらいお安い御用だ」


「ありがとうざいます!」


 私は一旦戦線離脱だ。



 ♦️



「もちろん我々も協力します」


「ありがとう長老!」


 ナターシャを連れた長老は上空での先頭を快く引き受けてくれた。


 ナターシャも飛行術を習得しているので、これで私を抜いた五人が戦闘に参加できる。


「あとはシル様ね」


 姿を見ていないが、どこにいるのだろうか?


 いや、むしろ鬼族の監視がシル様の任務だったから、もうここにはいないんじゃ……?


 だが、そんな後ろ向きなままではダメだ。まだここにいてくれていることを祈ろう。


 それに、まだまだ問題は山積みだ。


(龍族を倒しきれなかった鬼族はどうなる?)


 監視までつけていたくらいなんだ。討伐できなかったと知れたらあの獣王国の王はなんと思うだろうか?


 見せしめに鬼族を処刑など言い出したら……。


 ターニャも心配だ。これから、どうするつもりなのだろうか?


 鬼族を率いるのは絶対として、獣王国での居場所がなくなるのは明白。


 私のせい……だが、私は私の正しいと思うことをしただけだ。


「もう!シル様はどこに!?」


 そもそも獣人には魔力がない。よって、魔力感知が意味をなさない。


「ただでさえ急いでいるのに!」


 地団駄をふむが、そんな場合ではない。


 部族内にいるわけがないので、外を探すが一向に見つからない。


「どこに……」


 と、探していると、一つの建物が見えてくる。


 あれは……。


「ターニャのテントか……」


 鬼族の大将がいるはずの場所。


 この中にはターニャとその護衛がいるわけだが……。


「護衛はどうしたの?」


 テントの前で倒れる二人の護衛。


 何が起きているのか……。


 テントに近づき、中へと入る。


「ターニャ!?」


「ぇあ?」


 そこには片膝をついたターニャと、ターニャに剣を向けるシル様がいたのだった。

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