第259話 学生の休日(ナナ視点)
昨日はかなりひどい目に合った。なぜなら、赤い髪の女性に殺されかけたからである。
とはいっても、最初にちょっかいをかけたのは私たちだったので、文句を言うべきではないだろうが……。
私たち異世界人は特別に個室が与えられており、部屋の中には自分以外誰もいない。
誰も起こしてくれないからたまに遅刻することもあるけど、その前に誰かがわざわざ起こしに来てくれたりするので、クラスメートのチームワークというものは抜群だ。
だが、別に特別言って仲がいいわけでもない。
仲のいい子は別のクラスに……クラス替えではよくある悲劇だ。そして、その悲劇が起きたまんま私は転移というものをしてしまったので、今後会える可能性は低いだろう。
しかし、帰る方法はあるのだそうだ。定番と言えば定番なのだろうが、魔王なら時空を跨いだ転移の魔法を知っているらしい。
倒してこいとは言われないが、戦争に備えて鍛えておけとこの国の国王から言われたのを思い出す。
私たちは勇者ではなく、『英雄』なのだ。その違いとは物語の主人公かどうかである。
勇者は英雄譚においての中心人物……英雄はよく言えばそんな勇者のサポーター……悪く言えばただの取り巻きである。
帝国にいる勇者はかなり強いそうだ。その強さは私たちがよく知る身近な先生と互角だったそうな。
勇者のくせにベアトリスというただの子供と互角なのか、そう侮られることもあるそうだが、私は勇者がとんでもなく強いと確信している。
ベアトリス先生の強さは異常なほどだ。あれと互角だなんて勇者も狂っている。
「少なくともクラス全員で勇者と互角にやりあえるくらいになれって言われても……」
二十人いるとはいえ、勝てる気は湧いてこない。
「はぁ……朝から気分悪いなぁ」
気分転換は大事だ。
昨日のこともあって眠りが浅かったせいか疲れは取れていないが、眠れそうにもないので私は外に出ることにする。
今日は土曜日というべき、素晴らしい休日の始まりなのだ。楽しまなくてどうする?
「そういえば今日は入学試験があるんだっけ?」
私たちの後輩になる人たちが受験しにここまでやってきているという事実に少し興奮する。
イケメンとかいたらいいなという淡い希望を抱きながら。
「とりあえず、歩こう」
ベッドから抜け出し、部屋を出る。
すると、隣の部屋からも扉が空くような音がした。
だが、
(あれ?こっちの部屋って確か誰も使ってなかったはずだけど?)
誰も使っていないはずの部屋から出てくる人を見て、私は目を丸くした。
「!?」
「あっ、昨日の……」
目の前にいるのは赤髪のあの人。
「どうして、ここに!?」
「ベアトリスにここで寝泊まりしろって」
ベアトリス先生は一体何を考えているの!?
この人がまた襲ってきたらどうするの!っていうか、襲わないよね?大丈夫だよね?
私がそんな心配をしていると、
「襲ったりなんかしないよ、住まわせてもらってる身なんだから」
「本当ですか?」
「ああ」
私の顔色を見た女性が、そう返す。
「あの、名前は……」
「アネット」
「そ、そう。私はナナよ!」
アネットと名乗ったその人は、辺りをきょろきょろと見渡している。
「ど、どうしたの?」
「授業に出なくていいのか?」
「うん?今日は休日だから授業はないんだよ」
そう言いながら、私は何とか会話を続けようと必死になる。
「あ、そうだ!アネットさんは大学院の中に入るのは初めてだよね!私が案内してあげるよ!」
「え、あぁうん」
そうだよ、私は日本人。平和的に行こうじゃないか!
この人は敵だ敵だと、そう思っているから私も信じられずに警戒してしまっているのだ。
まずは私から信じる。それが、仲良くなるための秘訣である。
「こっちに来て!まずは校庭のほうから見ていこ!」
♦♢♦♢♦
「広いな」
「そうだよね、うちの学校なんてもっと狭苦しかったもん!」
「ん?ここがお前の学校じゃないのか?」
「ああ、いやそれとは別なんだけど……」
裏口から外に出ると、右側にも左側にも大きな校庭が広がっている。
そう、この学院、校庭が二つもあるのだ!
「なんだか、騒がしいな」
「今日は入学試験ってのがあって、この学院に入るためにたくさんの人が来てるんだよ」
「ベアトリスみたいなやつに将来育つと考えると……身震いが……」
ブルブルと体を揺らして顔を青ざめさせるアネット。
(何があったの!?)
と、聞きたいところだが、単純にあんな強い人がたくさん生まれると怖いと思うの私も一緒なので一人で納得してしまう。
そして、校庭を歩き出す。
何もないと思われるだろう校庭だが、案外そんなこともない。
日本ではなかなか見られなかったきれいな花が咲いていたり、いつの間に入り込んだのか不明な犬が時々出没するのだ。
アネットも女性であるため、そういうものに興味を示すはず!
と思ったが、
「あれは、昨日の奴か?」
「へ?」
花と犬より先にアネットの目に留まったのは、校庭の隅の方で素振りをしている男だった。
制服ではなく、私服で剣の素振りをしているその男は、遠くからでもヤンキーであることが分かった。
金メッシュというのか?あんな髪色しているのはこの学校で一人しかいないのだ。
「アネットさん、花壇行きませんか――」
と話かけようと振り向いたら、すでにそこにはアネットの姿はなかった。もしやと思い、ヤンキーのほうに向きなおるが、そこには、
「痛ってぇなぁおい!?」
なぜか殴り飛ばされてるヤンキーとなぜか殴り飛ばしたアネットがいた。
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