第250話 お仕事の後

「今日は野外での実践訓練です!」


 野外とは言っても、そこのすぐ近くの森なんだけどね。無論、学校が森と隣接しているわけではなく、ちゃんと柵が設けられている。


 その柵の奥からたまに顔を出している狼系の魔物の姿が女子生徒に人気があるらしいが、それはまたのお話。


「昨日見た、みんなの戦い方を参考にチームを組んでもらうことにしました!というわけで、私の助手君に持ってきてもらいましょう!」


「助手じゃないんですが……」


 と言いつつも、てきぱきと動いてくれるレオ君。


 どんどん渡していくそのプリントには誰とチームを組み、そのチームでの役割が記載されている。


「四人チームで動いてもらうので、まずは五チームに分かれて!」


「「「はーい」」」


 その渡されたプリントに記載されている、メンバーの名前を元に、全員が移動する。


「五チームできたか……ってわけで、さっそく実践訓練の説明からね」


 私の担当は実践での戦闘訓練であるため、この訓練の内容自体は私が決めてい良いことになっているのだ。


 そして、私は理事長に恩があるわけだが、そんな理事長でも私を服従させることはできていない。


 これすなわち!


「どんな無茶でも許される……!」


 無理難題とはいかずとも、この子たち全員の実力と同レベルがそれ以上の敵が出没しているのは把握済みであるがため、


「今日は魔物の討伐訓練を行います!」


 と言っても、ただのS級一歩手前くらいの実力しかないので、四人でチームを組み、なおかつヒーラーがいれば傷を負うことなどないだろう。


 油断しなければ。


「先生が見てきたところによると、弱い魔物からそこそこな魔物もいたので、点数をつけてきました」


「点数?」


「狩ってきた数に応じてチームに点をあげます。要約すると点取りゲームです!」


「報酬はなんですかー?」


「報酬は私と理事長ができることなんでもです」


 理事長、金と地位。私、力。


 というわけで、金と力と地位があればなんでもできるのだ!


「あ、そういえばこの森の中には人影が出るとの情報がありましたよね」


 点取りゲームの説明の中に本題をこっそりと忍ばせる。これぞ、貴族たちが使う会話術の一つだ。


「その人影におびえる生徒たちがたくさんいます。ついでなので、その人影を見つけて捕えてきた人には点数すっ飛ばして優勝ということにしましょうか!」


「「「ええ!?」」」


「というわけで、各自解散!チームで移動して、授業時間内には絶対に戻ってきてくださいね!」


 私が最後に一声かけたのち、全員が散りじりに散っていった。


「よし!仕事終わり!」


「お疲れ様」


 そう言ったレオ君のほうを見やれば、この広い校庭のどこに隠していたのか……椅子と机を用意していた。


「ありがとう、それじゃ失礼します」


 そこに座って、私はくつろぐ。生徒に私の仕事を全部押し付けたので、ちょっと気分がいい。


 このまま寝てしまいたい欲求にかられるが、


「紅茶入れましたー」


「レオ君って紅茶入れられたの!?」


「うん、ちょっと勉強したんだ」


 そう言って、これまたどこから取り出したのか不明なティーカップに紅茶を注ぐ。


 そして、完成したその紅茶は独特ないい匂いをさせていた。


「そういえば、レオ君ってお菓子作りとかうまかったよね」


「お菓子も欲しいの?」


「そういうことじゃないけど、とにかくすごいねっていうことよ!」


「でも、出会ってすぐの時は紅茶なんて入れたことなかったけどね」


 紅茶を一杯飲めばその芳醇な味が口いっぱいに広がり、後から茶葉の後味の良い匂いが鼻を通り抜ける。


「こんなにおいしいのに?」


「ミサリーさんに習ったんだ」


「ミサリーにかぁ、ちょっと納得だよ」


 そういって、もう一杯。


「どうして習おうなんて思ったの?」


「うーん……」


 レオ君ってばほら、性別的には男なわけだし、そんなことが出来るようになったってあまり関係ない気がするのだけれど……。


 そんなことを考えていると、レオ君がすこしそっぽを向きがなら答えた。


「ベアトリスに、飲んでほしかったから……じゃ、ダメかな?」


「!?」


 そして、チラッとこちらを見てもじもじとしているレオ君の顔が私の視界に入り……。


「尊っ……(ボソッ」


「?」


 くそ!惚れてまうやろ!


 なんなん!?その照れ笑い!?顔を赤くするのはやめてくれ!


 なんだか久しぶりに異性を意識した気がする……。中身おばさんがこんな子供に手玉に取られるとは……!


 うん、かわいい。語彙力はなくなったがとにかくかわいい。そもそも私がモフモフしたものに弱いってのもあるだろうけど、そういうの関係なく、レオ君かわいい……。


 はぁ……レオ君にもいずれ彼女とかできるんだろうけど、その彼女(予定)もこの顔に堕とされるのだろうな。そんなことを考えていると、レオ君は耳をピクリと動かしながら、顔を覗き込んでくる。


 なんだ、なんなんだその疑問符を頭の上に浮かべてかのような表情は!やめろ、その顔で私を見るな……!


 殿下の時もそうだったけど、私の周りにいる友達たちは総じて顔面偏差値が高すぎなんだよね。


 ユーリは完全美幼女だし(男)

 オリビアは美少女だし


 それにレイだって……。


 と、そろそろ変な妄想の域に入ろうとしていたところに、一つの轟音が聞こえてきた。


「何!?」


 見れば、二階の一室から煙が上がっていた。


 煙が上がっている、なおかつ壁が破壊されており、そこから少し中の状況ものぞけた。


「ユーリ!」


 チラッと特徴的なあの髪色が見えたので、私はすぐさまその場に向かう。


(そういえば、ここの部屋……昔は錬金術クラブだったっけな……)


 そんなことを考えながら。


 そして、その部屋の中に突入すると、


「魔族!ベアトリスをどこへやった!」


「いや、ちょっと話を――」


「お好みの拷問器具はどちらで?アイアンメイデン?それとも――」


 そこにいたのは、ユーリともう一人。


 そして、そのもう一人というのは実は私の知り合いだったのだが……。


(性格なんか変わってない?)


 まあいい。


 とりあえず、私を探してるみたいだし、声かけるか。


「レイ?」

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