第249話 魔人

「と、とりあえず謁見は終わったんだし、次は森の人影の調査ね」


 気づけばすでに時刻は夕方あたりをまわっていて、なんと数時間は雑談で盛り上がっていたのである。


 そして、現在はすでに夜中となっていて、教師用の部屋の一室にて、空を眺めながら作戦を考えているところなのだ。


 二人には、副教師としての激務を任せていたからか、すぐに寝てしまった。


(ユーリ……そこ私の寝床……)


 まあいい。


 それよりも人影なんて見つからなかったら、一生解決しないのではないだろうか?


 せめて、人影の正体が分かればすぐに探知魔法で見つけられるのだけれど。生きてるのか生きてないのか、実体はあるのかないのかもわからないのに、私が一人で探しに行くのはほぼ不可能。


「ということは協力者が必要ね」


 まあ、幽霊に詳しそうな友人もいることだし、あとでその人の元に行ってみようかな。


「あとは、うちの生徒たちも使っちゃお」


 実践訓練と称して近場の森を使用すれば、人影とやらも姿を現すかもしれないし。


 それで、見つからなければ近くにはいないと報告もできる。


「まさに一石二鳥ね!」


 次の授業は明日。


 今日で全員の能力を把握したから、それに合った連携のパーティを組んで戦ってもらうとしますか!


 それに人影が襲ってきたとして、すぐに死ぬことはないだろうし。


 謁見のあと、寝る前に少し調べてみた。


 現在は勇者がすでに存在していて、その勇者パーティと呼ばれる人たちも存命中。


 なのに、異世界から生徒たちが召喚された。


 その理由は単に政治的目的なわけであった。


 まあ、帝国は勇者パーティという強力な武器を持っているのに、我が王国は強力な異世界人を誰一人たりとも召喚していなかったので、対抗手段に召喚したわけだ。


 要するに、戦争回避のためね。


 勇者はすでに存在するから仮に『英雄』ということで、彼らを育成すれば数的に勇者と同等くらいには持っていけるだろう。


 どこぞの勇者は数年前ですでに当時の私と互角かそれ以上だったので、同等に持っていけるか少し不安は残るけれど。


「ひとまずは人影調査の続きね!」



 ♦♢♦♢♦↓とある魔人視点↓



 寒い。


 夜の森の中は非常に肌寒かった。


 私が勝手ながら住処にしている森は、かつて私たちが戦った場所。悪い意味での思い出の場所である。


 別にここにとどまる理由はなかったけど、適当にほっつきまわって、捕まったら面倒だし、ここいいるのが安全なんだ。


 灯台下暗し……少し違う気もするけど、大体そんなところ。


「ベアトリスか……」


 かつての私の上司に当たる人物である狂信嬢様を殺した人。


 ただ、そこは戦場だった。死ぬも生きるも実力次第なのである。恨む気持ちはこれっぽっちもないが、私が尊敬しているのは、後にも先にも狂信嬢様ただ一人である。


 森の中での生活は一年前から始めた。


 私の所属していた組織は、現在ではあまり活動していない。


 活動しているのは幹部連中だけで、下っ端は待機。


 なんでも、王国がベアトリスの死亡を表明した。だがしかし、絶対にそれは間違っている。


 私は知っている。狂信嬢様相手に、互角にやりあって……フードを被った男の子?も合わせて二対一だったとはいえ、狂信嬢様を殺した相手だ。


 視界が悪くよく見えなかったが、縛り付けられ白装束が血で赤く染まっていた。


 そして、森から消え去る。


 転移の魔法だろうけど、少し驚いた。あんな子供が自分でも扱えない魔法を簡単に発動させるのだから。


 ベアトリスはまだ生きている。


 死亡の発表の一年前からそう思っていた組織は、すぐに捜索を始めた。協力者を名乗る少女の姿はそれ以降見ていない。


 何でかは分からないが。


 そして、組織はなぜか悪魔と敵対している。利害は一致しているらしいが、事態の収束を計りたい組織と、大事にしてでも目的を果たしたい悪魔とで、争いが起きている。


 目的というのはベアトリスの捜索。


 見つけ次第、確保もしくは殺せってさ。


 だけど、私はその前に組織を抜けたのだ。なぜかって?


 同じ下っ端同士で仲間と言えた奴らは死んだし、尊敬する上司も死んだし、訳のわからないことをしている組織にはもう嫌気がさしただけだ。


 組織から逃げ出すのは重罪だが、見つからなければ罰せられない。


「お腹すいたな……」


 ご飯、あんまり食べてないんだ。


 ここで、取れるお肉はごくわずか。生きていくのには申し分ないけど。


「朝ごはん、どうしよ」


 もうじき朝日が昇ってくる。


「お隣さんは実践訓練あるのかな?」


 大学院の近くにあるこの森は訓練によく使われる。そして、たまに少し勘の鋭いガキが混ざっていることがあるのだ。


 気配をわざわざ消して通り過ぎるのを待ってやってるのに、ひどい話だ。勝手にお化けだのなんだの言って逃げていくんだから。


「わたしゃま・だ・死んでないわよ……」


 ま、少なくとも何で生きてるかはわかんないけどね。


「寝るか」


 星空をずっと眺めていたら、寝られなかった。朝ごはんを作るのも面倒だし、さっさと寝てしまおう。


 そう思って、私は横になる。


 森の中の澄んだ匂いが、寝心地の良さを引き立てる。


 鳥やら虫やらの鳴き声がまたいいBGMになるのだ。


 私が、眠りに堕ちようとしたとき、BGMの中にペラペラという音が聞こえた。


「紙?」


 目を開けて音の出所を見ると、小さな紙が風に飛ばされて飛んできている。


 それは、ちょうど私のほうに向かってきていた。


「なんだろ」


 思わず手を伸ばしてそれを手に取る。そして、その内容を読み上げた。


「号外……ベアトリスは生きていた――」

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