第236話 組織勧誘

「は?なに……を……?」


 その場にいた全員が固まってしまった。

 今度は強欲の独壇場と化した。


「あのさー、ベアトリス」


「!」


「私が、本当に感情薄いとか思ってた?」


「それは、どういう……?」


 剣を引き抜いて、強欲はこちらを向く。

 笑顔で……それは、嘘偽りのない様子だった。


「んなわけないでしょ?なに?無欲だとでも思った?」


「でも……いつも、つまらなさそうで……」


「私も演技がうまくなってみたいね」


「え?」


「四百年前、私は吸血鬼に殺されかけた。もちろん、私はかかわったやつ全員殺した。だけどね、それじゃつまらなかったの。殺してもさー面白くなかったんだよ。だったらさ!私がこの国を治めて、全員奴隷にしてみようかなって思ったのよ!」


 そう言って、少年をどかし色欲に剣を突き立てた。

 色欲ですら、私を本気で殺そうとしなかったのに、容赦しなかった。


「狂ってる……」


「狂ってる?バカにしないで。狂ってるのはあなたたち。弱肉強食の世の中で、仲良しこよししてるあなたたちがおかしいの。仲間愛、家族愛……くだらない!」


 強欲は鼻で笑った。

 まるで、私たちをバカにするかのように……いや、バカにしている。


「あ、忘れてたわ。憤怒?」


「……なんだよ」


「あなたと色欲を対立させようと仕向けたの、私なの。言い忘れてたわ」


「は?」


「私って、影で頑張るタイプだからさ!面白いくらいに私の予想通り動いてくれた助かったよ。出てくるとは思わなかったけどね」


 憤怒さんが怒りに耐えきれずに突っ込んだ。

 凄まじい早さだった。


 そんな速度で、手に作った魔法を直接強欲にぶつける。

 その相乗効果はえげつなく、きっと強欲だって傷を負うだろう。


 そう思っていたのに……


「はいざんねーん。学習できないなら、そこら辺の有象無象と大して変わらないわね」


「っ!?」


 強欲が手を動かして、何かをする。

 それと同時に、憤怒さんのお腹に大きな穴が開いた。


 大量の血を吐いて、憤怒さんが何歩か下がる。


「再生が……間に合わない……」


 しまいには強欲に蹴飛ばされ、元の場所まで飛んでくる。

 それを数人でキャッチする。


「やっぱりベアトリス、あなたについてきてよかった。こうして、色欲の弟を見つけられたし、それに……」


 強欲が笑いながら、ネルネの方を見た。


「『怠惰の娘』もいたんだから!」


「怠惰?」


 ネルネのつぶやきに再び高笑い。


「そんなことも知らなかったの?なんであなたが太陽の光を浴びても無事なのか知らない?遺伝?ある意味ではそうね。『怠惰』の権能は、『怠け』だもの!一切の何物にも干渉されない力!その子孫だったとしても、多少の力は引き継がれてるようね」


「でも……でも!私は痛みだって感じるし、火に触れたら熱く感じるし……」


「それは力が使いこなせてないだけ!あ、そうだ。もう一つ言うのを忘れていたわ。私、『強欲』の権能はあらゆるものを手に入れる力なの」


 手を天に向けて掲げる強欲。

 一体何をするのかと思えば、いつの間にか手の中に小さなナイフが握られていた。


「なーんでも作れちゃう。もちろん、『ベアトリスの力を無効化する力が欲しい』と願えば、あなたの攻撃は効かなくなるわけ」


 なんだよ、それ……。


 憤怒さんのあの攻撃も効かなくなるのか?


 じゃあ、どうやって太刀打ちすれば……。


「おっと、暴れないでよ」


 色欲が背後を狙って、魔法を放つが、すべて避けられた。

 代わりとばかりに、色欲を剣で切りつけた。


「っっっ!」


「落ち着け、ベアトリス。あんたが行っても何も変わらない」


「でも!」


 憤怒さんは首を縦に振ることはなかった。


「いいわね、長年我慢してきたかいがあるわ。こんなにも素敵な表情がたくさん見れるなんてね!」


 あははは!


 高笑いが続く最中、また一つ、変化があった。


「お邪魔しまー……なんかヤバそうなことになってるね」


 そんなのんきな声が聞こえてきた。

 のんきな声は、どうやら影の中から聞こえてくる。


 そして、その中から何かが飛び出した。

 人の形、見たことある顔。


「は?え、あなた……母様が殺したはず!」


「こっちこそ、は?だよ。勝手に人を殺すなよなベアトリス。まあ、死んだのは事実だけどね」


 見た目は若干変わっているが、わかる。

 肉体に乗り移る能力でもあるのだろうか?


『傀儡』は。


「あら、いらっしゃい。今パーティーをしてるのだけれど、あなたも混ざる?」


「へー、パーティーか。面白そうじゃん、俺も入れてー」


「ちょっと!何のんきなこと言ってるのよ!この状況分かってるの!?」


「わかってるさ」


 そこで思い出す。

 こいつは敵だったと。


(万事休す?)


「あなた、とっても強そうね。色欲とどっちが強い?」


「メアリに関する記憶の『操作』の術式は解除してあるし、今だったら俺かな?」


「そう」


 強欲と、傀儡は笑みを浮かべあう。

 それがとても恐ろしく、私は一歩も動けなかった。


「そして!ここで、一つお知らせがあります!」


 傀儡がくるりと一回転して、言った。


「色欲君や」


「……………」


「君、解雇!」


「!」


「うちの組織に軟弱者はいらないしねー。ってことで、そこのお嬢さん!」


 強欲を指名する。


「君、世界征服に興味はないかね?」

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