第235話 百年ぶり
「お久しぶりです!お客さん!いやー、一時はどうなるかと思いましたよー!」
ネルネがユーリを引きずって近づいてきた。
レオ君の手を借りて立ち上がった私の方を、その後ろにいる少年も見ていた。
(名前、帰ったらちゃんと聞こう……)
「おい、ガキども!そこ邪魔だからどっか行ってろ!」
憤怒さんのそんな声を聞き、ふと振り返れば激しい戦闘が繰り広げられていた。
封印の中、何千年分の時間を過ごしたのかは私にはわからない。
けど、それぐらいの時間を使って能力を鍛えても互角の戦いを色欲と憤怒さんは繰り広げていた。
「邪魔邪魔邪魔!みんな邪魔!私の前に立つな!」
凄まじい轟音とともに、繰り出されたパンチを憤怒さんがもろに喰らった。
だが、そこは憤怒さん……精神力お化けである。
「おい、聞こえてんぞ」
私はほめてるんだから、いいでしょ?
封印のカで鍛えられたのは、魔法だけではない。
心もだった。
その精神力は簡単に折れることはない。
いくら体が痛もうとも、憤怒さんは笑っている。
「かほども効かないね。さあ、続きといこう」
二人の戦いは周囲のものをまき散らした。
壁が崩れ散乱し、床の石のタイルは面白いくらいに吹っ飛んでいった。
その破片が強欲のほうに飛んで行ったが、彼女は依然として真顔である。
たとえ、それが顔面にぶつかっても真顔だ……不気味なくらいに。
私は戦いに入り込めなかった。
いくら、私も強くなったとはいえ、所詮はその程度だったようだ。
まだまだ上には上がいる。
昔の罪人たちに私が勝てたのは、防御を捨てて攻撃したこと・周辺被害を考えずに攻撃したこと・そして、怒っていたことが原因でもある。
メアリ母様がいるから、防御なんて気にしていなかったし、どんな攻撃を使おうとも、メアリ母様は耐えるだろうと思って全力をだして、私はあの時、少しだけ我を忘れていた。
他にも、罪人たちの権能が育ちきっていなかったりー、など、考えられる要因はあるが、この二人には勝てる気がしないんだよな。
入り込む隙がない。
そんなことを考えているうちに、第二ラウンドが幕を閉じた。
入口の方に憤怒さんが飛んで、壁にめり込んだ。
すぐにそこから抜け出したが、体は擦り傷や、打撲だらけだ。
いくら吸血鬼とはいえ、痛みは感じることを忘れてはならない。
考えても見てほしい。
すぐに傷が治るはずの吸血鬼にこれだけの傷がついているのを。
再生した分の傷を含めたら、一体どれだけのケガなのだろうか……。
「ふん、私に勝てると思うな。私は……この百年間、すべてを注ぎ込んできた!やっと見つかるかもしれないのに!お前らに邪魔されてたまるかあああああ!」
色欲の持つ剣に不穏な黒煙が纏う。
そして、憤怒さんに向かって突進した。
(ダメ!間に合わない!)
すでに、憤怒さんと色欲の距離は数メートルになっていた。
その時だった。
「やめて!」
声を発したのは少年だった。
その少年はいつの間にか、二人の間に割り込んでいた。
「どけ!」
色欲が威嚇のために、少年のかぶるフードに剣を掠めさせる。
そして、フードが取れた。
少年の顔を見た途端、色欲の顔色は変わった。
「え?」
「もうやめて!お・姉・ち・ゃ・ん・!」
(おねえ、ちゃん?)
「う、嘘……やっぱり生きて……」
そう言った色欲は少年に抱き着いた。
そして、初めて泣いた。
「どこ行ってたのよ!百年間も、私に心配かけて!」
「ごめんなさい……お姉ちゃん」
そこは二人の独壇場となった。
「私は……ずっとあなたを探していた!なのに、なんですぐ姿を見せてくれなかったの!」
「……俺、記憶がなくなってたんだ」
少年はそう、口から漏らした。
「前まで自分が何をしていたのか、思い出せなくて、外で暮らしてたんだ。でも、思い出した」
そう言って、強欲の方をちらりと見た。
「ごめんなさい」
「バカ!お姉ちゃんにこんなに心配かけて……!バカ……」
いつの間にやら、憤怒さんも私たちの隣にやってきていた。
自分があの二人のそばにいるべきではない、と、気を使ったんだろう。
「百年間、色々な手段であなたを探したのよ?私たちの家系に伝わる水晶で探したり、男狩り令を出したり、あの組織に加入したり……」
男狩り令か……。
色欲が男を求めていたのは、食べるためでも『色欲』という欲望を満たすためでもなかったのね……。
ただ、弟を探していた。
吸血鬼の成長は早い人もいれば遅い人もいる。
急に成長したり、しなかったり……。
だから、子供から大人問わずに探していたのか。
「ねえ?お姉ちゃんのこと、幻滅した?仲間だった人も手にかけようとして……」
憤怒さんは「ちっ」っと言って視線をそらした。
「ううん、手にかける前でよかった。俺は、お姉ちゃんのこと、幻滅なんてしないよ」
少年は色欲のほうに手を近づけ抱いた。
色欲がしゃがみ込む形となったが、少年のほうが背中が大きく見えた。
そして、その状態が数分続いた。
……………それを破ったのは、強欲だった。
滴る血液、目に見えたのは残酷なものだった。
「はい、いったん終わりねー」
そう言って、強欲は二人を剣で刺した。
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