第234話 集う仲間

 武器を失くしたことで、私の抵抗は無に等しいものとなった。


「そら!どうしたベアトリス!動け!」


「がっ!?」


 ドン、ドン、と柄が私の体にぶつかる。

 お腹に感じる衝撃は、痛みと一緒に血を吐いた。


 何度も休む間もなく殴られ続ける。


「死ね、死ね!死んで償え!」


「怖い怖い。ボコボコじゃん」


 強欲は非情にも、私を冷やかす。

 口から血を数滴たらしながらも、私はその剣の柄を抑える。


 が、力でも私は色欲に勝てなかった。

 手に取る腕ごと顔に突き上げた。


 あごに強烈な痛みを感じたが、そこでへこたれる私じゃない。


「くっ、ああああ!」


「!」


 頭突きを繰り出す。

 色欲は頭から血を少し流したが、それでひるむことはない。


 そして、私の服を掴んで投げ飛ばした。


 私の目からは強欲の足が見えた。

 そして、私の顔を覗き込んでくる。


「頑張れ」


「ちっ!」


 何が頑張れだ!

 ふざけるな!


 そして、立ち上がろうとした瞬間には、剣が私に向けられていた。


「お前が邪魔なのよ!私の国を荒らし!私の目的を邪魔した!この意味が分かるか!?」


 そう言われても、私にはその『目的』がわからない。

 だから、なんとも……。


 心の中で言い訳を模索しているうちに、色欲は剣を振り上げた。


 咄嗟に目を瞑った。


 だが、来るはずの痛みはなかなかやってこなかった。


「?」


 目を開けて上を見上げれな。カチャカチャと剣が震える音がした。


「貴様は……!」


「やあ、面白いことしてるじゃん」


 色欲の持つ剣は手によって受け止められていた。

 それを受け止めたのは、


「メアル、さん?」


「久しぶりだな」


 変わらない様子で立っていた。

 メアルはその剣を弾き返した。


「う、腕、ケガしてない?」


「大丈夫だ、問題ない」


 手をひらひらと振って見せた。


「でも、どこから入ってきたの?」


「ああ、入ってきたというよりも、戻ってきたの方が正しいだろう」


「戻ってきた?」


 それについて考えようとしたときには、玉座が破壊された。


「メアル?知らない名だな!お前も私の邪魔をするのか!」


「メアル?はっ!そんな名前なわけないだろうが!」


 え?


「名乗れよ」


「……ふん」


 どこかで見た景色だった。

 体から魔力が出始めた。


 吸血鬼だから?

 いや、そんなわけない。


 魔力量が多すぎる!


 纏った服が魔力を帯びて変形していく。

 そして、髪の色も不自然に……いや、見間違えではない。


 茶髪だった髪色は赤色に変色する。

 そして雰囲気も変わった。


「え?メアル……さん?」


「私の名前はメアルじゃない。わからないか?」


 そう言って、ゆっくりと振り返った。


「メアル……あんたの母親、メアリだろ?髪色は茶髪。性格までは強制できないが……こんな偶然、あるわけないだろ?」


「じゃ、じゃあ!」


「私に名前なんてない。『強欲』やほかの罪人たちと一緒だ。なあ、わかるだろ?この見た目に見覚えあるだろう?」


 自分の顔を指さした。

 その顔を見なくても、すぐに分かった。


「憤怒さん?」


「私としては、十数年以上前に会った人間であるベアトリスに会いに来る必要はそんなにないんだが……そこは気分だ」


「待って!十年以上前ってどういうこと?」


「それについては私も知らん。封印が解けて、変えるはずの時間軸が違ったというべきか?封印にいた年数が違うから、戻るべき年代にも差異が生まれたんだろ」


 それについてはあとで話す


 彼女は言った。

 それと同時に、迫っていた色欲を吹き飛ばした。


 文字通り……いや、それ以上に残酷にだ。


 至近距離で、憤怒さんが極めた火魔法を使われれば、全身にはひどいやけどを負うことだろう。


 さらに言ってしまえば、腕のに三本は私ならとれそうだ。

 色欲の腕は一本になっていた。


 つまりはそういうこと。

 あまり目にしていて気分がいいものじゃないけど、もう慣れたね。


「この力……その見た目。『憤怒』、お前は封印したはずだ!」


「あんたも知ってんだろ?封印が消滅してたのは。でも、気にしてはいなかった様子だな」


 図星をつかれたというように、色欲は顔をゆがませた。

 私の方に再び振り返った憤怒さんは、


「時期にがきんちょたちが来る。あんたの仲間だろう?獣人二人に吸血鬼二人……珍しい組み合わせだな」


 そう言い、私の背後に魔法を放った。

 私の後ろにいた『強欲』はもちろんもろに喰らった。


 が、


「アッツ、ねえ。髪燃えたらどうするの?痛いよ?」


「あれ?あ、そっか。お前の能力を忘れていたよ」


 またしても強欲は無傷で立っていた。

 あの、憤怒さんの一撃必殺ともいえる魔法を喰らってもなお、無傷とか強すぎなんですけど?


(それにしても、能力って……)


 強欲の能力は絶対防御?

 可能性としてはアリかな。


「憤怒!私に負けた分際で!」


 色欲はがれきを弾き飛ばして、怒りに目を染めた。

 そして、やけどはなく、腕も二本ついていた。


(流石吸血鬼ね……)


 最近、流石とかしか言ってないような気がするけど……吸血鬼の再生能力はとんでもないようだ。


 それが、罪人とか、存在ごとチートみたいな連中ともなると、必殺の攻撃すら、回復してしまうようだ。


 もう一方に至っては無傷だし。


「封印では生温かった!今度は殺してやる!」


 瞬間、加速した色欲を私は見失った。

 さっきまでは案の定本気じゃなかったらしい。


 そして、憤怒さんと色欲がぶつかると思われたその時、


「来たな」


「!?」


 扉が大きく破壊された。

 周囲の壁ごと破壊され、通路と横端に黒い空間が垣間見えた。


 そりゃそうだ。

 ここは吸血鬼の国ではなく、亜空間なのだからそれは当然である。


 そして、土煙の中から、聞こえた声は私のよく知る人のものだった。

 一人、また一人と土煙から姿を見せる。


 ……なお、その中の一名は尻尾を振って「ご主人様!」と大声を出そうとしているのを、吸血鬼の女の子に止められている様子。


 彼女たちは先に色欲と憤怒さんを止めろと話しかけているようだ。


 そして、私に近づいてきたその子は、何も言わずに手を出してきた。


「こういう時は、なんか言ったらどうなの?」


 空気も読まずに私がそんなことを言うと、困ったというように、レオ君が苦笑いをした。

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