第220話 迷い込んだ檻

 思わず逃げ出した私は、色々と駆け回った。


 え?


 ナインがいるんだから案内してもらえよって?


 いなかったんですよねーそれが。

 どこ行ったんだよ!


 私を置いて行かないでよ!

 どうしてくれるっていうのさ!この複雑な場所!


 曲がり角を曲がる度に、景色が変わるんだけど!?

 なんなのこれ、幻覚?


 迷うどころの話じゃない。

 平原に出たり、木造の部屋に出たり、元の狭い廊下に出たり……。


「もう!なんなのよ!どこに行ったら、ナインに会えるの!」


 この中で暮らしてなさいとか色欲っていう偉そうな尻軽女に言われたのはいいとして……どこで暮らせと?


 もう一度聞く?


 ここで、どうやって人間である私が暮らせと?


 食糧どこ?

 水どこ?


 は?

 なしで生きろと?


 吸血鬼はこれだから……。

 おっと、ネルネのことじゃないからね?


 とりあえず、今いる場所を教えておこう。


「なんか……真っ黒」


 地面も後ろも前も全てが真っ黒。

 もうなんも見えないんですけど。


 どこが壁で、どこに行けば出れるのかわからないのだけれど。

 さっさと抜け出さなければ、私はここで餓死してしまう!


 適当に歩き出し、あっちこっち行ってみる。


「あーもう、全然わかんないわ。迷ったー、完全に迷ったわー」


 投げやりである。


 その時、


「いて!」


 何かが頭にぶつかった。

 落ちてきた何か?


 いや、何かに頭がぶつかったんだ。

 前方方向に、手を伸ばせば冷たい棒があった。


「なにこれ?」


 その呟きには誰も反応しないと思っていので、私は驚いてしまった。


「これはね、鉄格子っていうんだよ!」


「!」


 瞬間後ろに気配を感じた。


「ねえねえ!どこからきたの!可愛いね!」


「え?あ、誰……どちら様でしょうか?」


 後ろから肩を触られたので、さすがにびっくりしてしまった。


(気配が消えていたなんて……何者よ)


 ナインですら、普段は気配だだ漏れなのに……。


 ふ・だ・ん、は!ね?


 黒い影はようやく人の形に見えてきて、それは男?の形になった。


「俺?俺は、『傲慢』の吸血鬼さ!」


「傲慢ですって?」


 まーた吸血鬼かよ……。

 そう思ったのは内緒です。


「それより君!どこから入ってきたの?」


「え?入ってきた?」


「うん!ここは俺の檻だよん!」


「へ?檻の中?」


「そうさ!俺の箱庭!で、君はそこに入ってきた子猫ちゃんってわけ!」


 うわー。


 なんだかわかんないけど、痛々しいなー……。

 なんとなく、本能で……。


 そして、ようやく顔を見るくらいに接近され……というのも問題なんだけど……顔つきは男のよおうな女のような。


 とにかく中性的な顔立ちだった。


「そういえば、傲慢さんって監禁されてるんじゃ……」


「だからここがその牢獄ってわけ!」


 え?


「まじ?」


「おおまじ!」


 どうしてだ!

 どうやったら折の中に気づかずに入れるんだ私!


 つまり、私は傲慢の檻の中に勝手に入ってきてしまって、出られなくなっていると言うこと?


「あの、出してもらっても……」


「ダメだよーせっかく遊びにきてくれたんだから」


 傲慢だこいつ!

 いや、確かに傲慢って名乗っていたけどさぁ!


「いや、出してくれないと困るんですけど……」


 そう言ってみても彼の表情は変わらない。


「?」


 ニコニコすんなし!

 はてなマーク浮かべるのやめろよ!


「それで?どうやってここに入ってきたの?」


「わ、私にも分からなですけど……」


「ふふ、まあいいさ。なにかして遊ぶかい?」


 そう言って指を鳴らしたかと思えば、


「え?見えるようになった?」


「ここは俺が住む所だからね!好き勝手いじれるんだよ」


 まあ、できても不思議じゃないか。

 だって、ナインと同類なんだから。


 景色は黒いままなのに、なぜか見えるようになった。

 その、多分男の傲慢の姿もまた見えた。


 髪は短く、中性的な顔立ちで、私と同じくらいの身長だ。

 髪の色はよくわからない。


 私の知っている色の名前じゃ表現できないのだ。


「さあさあ遊ぼう!どんな遊び?お人形でも使うかい?それとも……」


 髪を触られ、耳に手が触れる。


「大人の遊びでもするかい?」


「私は子供なので、遠慮しておきますネ」


「ふーん。あっそ」


 私が拒否すると、急に興味をなくしたようになった。


「まあいいさ、俺は狭量じゃないからね」


「狭量じゃないなら、なーんでこんな所にいるんでしょうねー」


 少々私もイライラしてきたので嫌味を言えば、


「そりゃあ、ほかのみんなが狭量だからだよ」


 そう言って顔を若干歪ませる。


「俺をこんなところに閉じ込めて……ふざけやがって……」


「あなたは、何年間閉じ困られてるの?」


 正直、罪人たちの事情なんて全く知らないからね。

 気になるのだよ。


 ナインは強欲って言われてたけど、実際どんなものなのかイメージが沸かないのだ。


「ざっと百年間かな!」


 百年間!?

 私にとっては人生を一回以上は満喫できてしまう、とても長い時間だ。


 吸血鬼だからそれは普通なのか?

 いや、絶対違う。


「しょうがない……君に罪人たちについて教えて進ぜよう!」


「いや、帰らせ……」


「あれは百年前のこと……」


 あーあ、語り出しちゃったよ……。

 めんどさいけど、聞くしかないかー……。


 私はいつ、帰れるんでしょうか?

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