第198話 狙われる

 次の日の朝——


 眠かったが、体を起こして何とか目覚めることができた。

 起きたらいつもとは違う風景が広がっていて、明星宿に泊まっていたことを思い出す。


 エルフのところの生活もなかなかに快適だったが、この宿のベットもなかなか良かった。


 見た目も中もボロいのに、家具は一流だったのである。


 寝起きだったこともあり、私はあたりを見渡した。

 すると、目に映ってきたのはネルネと獣人コンビ。


 ねぜ従業員が地面でよだれを垂らして寝ているのか?

 思わず笑ってしまいそうになるのを堪えた。


 そういえば、昨日は真夜中まで雑談していたな……。


 そして獣人コンビの方はというと、二人仲良く同じベットで寝ていた。

 寝ている時だけは可愛い。


 寝ている時だけは!

 ここ重要。


 私は三人を起こさないように、部屋を出た。

 寝起きでお腹も空いておらず、何となくで宿から出てみた。


 起きたらそこは朝。

 照りつける光はかなり眩しかった。


 その眩しい光のもとで、私は街の探索を始める。


 旅に出た目的である『家族探し』はかなり根気強く探さなければならない。

 街の隅から隅まで探し、マップに記録する。


 そして、次の街へと進む。

 流石に、どこかの草原で優雅に寝ている……なーんて事はないと思う。


 街は暗かった。

 なぜなら、音がしないからだ。


 雰囲気が暗い。

 誰かの話し声が聞こえるわけでもなく、風の音も虫の音も聞こえない。


 無音だ。


 そんな無音の空間で、寝起きの私は何の警戒もしないでずかずか歩いていた。


 街は王国と似ていた。


 レンガでできた家々、整備された道も公爵領かなり酷似していた。

 だが、雰囲気の暗さによって、全て真逆のものに思えてきた。


 きっとミサリーがここにいたら、とても煩かっただろうな。


 そんなことを考えると悲しくなってしまう。

 ミサリーなら、いつだって私は笑わせてくれる。


 それに、子供の時はミサリーの方が強かった。

 今は知らないけど、彼女は昔の私にとっては心強い味方なのだ。


 そんなミサリーと離れた約三ヶ月くらい?


 寂しくは感じるが、死んでしまっているかも!という考えはなかった。

 あのミサリーが死ぬわけない。


 フォーマみたいな確信的なものはないものの、イメージができないのだ。


(大丈夫よ、絶対に見つけ出すんだから!)


 そう思っていた時だった。


「死ね!」


 そんな物騒な声が聞こえた。

 誰かが言葉を発したと、少々驚きつつ、それが自分のことだとは思わなかった私はいまだに呑気に歩き回っていた。


 そして、目の前に切れ味のありそうなダガーが飛んできて、ようやくそれが自分に対して言われた言葉だと気づいた。


「わ!?」


「避けた!?」


 びっくりしていて、なおかつ寝起きだったが、私の研ぎ澄まされた体はすぐそれに対応できた。


 所詮はただのダガーナイフ。

 その速度は悪魔とユーリとの戦闘の速度に比べれば、亀が歩いているようなものだった。


 余裕で躱した私にびっくりした声が伝わってきた。

 その声は若いが男性の声だった。


「もう一回!」


 そんな声が聞こえて、またどこからかダガーが飛んできた。

 もちろん私は回避した。


 当たったら痛いしね。


 声の発生源を探すが見つからない。

 どこに隠れ潜んでいるかわからない。


 今頃になって気づいたが、ここは路地裏だった。

 ただでさえ人通りがない表通りから、さらに人通りが少ないこの場所で誰かの助けを求める事はできないだろう。


 ただ、いくら探しても見つからないものは見つからない。

 その間にもダガーが何本も飛んできた。


 レンガの壁に挟まれて、奥に目をやれば、行き止まり。

 だったら後ろ?


 でもいない。


 ついに面倒くさくなった私は、


『ここに来なさい』


 そう、その声の主にも聞こえるように言った。

 すると、


「え?ちょ、何で!?何で!?」


 そんな声が聞こえてきた。

 あまりにも呆気なく、あまりの滑稽に姿を現したその人物は全身ローブ姿。


 もちろん顔も見えなかった。


(暗殺者?それにしても、小さいし、行動がいちいちバカなのよね……)


 暗殺者なら声を出さずに殺しただろうに。

 それに、不意打ちで避けられた攻撃を何度も続けるなんてただの馬鹿である。


 そのローブの人物は上から落ちてきたのだ。

 ただ、それ以上に行動がおバカすぎた。


 私は地面に激突し、痛そうにしているそのローブの人物に近づいた。


「ひぅっ!?」


 声が裏返って、今にも泣き出しそうだった。


(え?何で泣いてんの?)


 寝起きの頭では理解が追いつかない。

 何で私は殺そうとしていた人がいきなり泣き出したの?


 なんかしちゃった?


「あー、えーっと……何したいの?」


 このセリフを意訳しよう。


 えっと、どうしたの?


 である。


 私のそのセリフはかなり冷酷に聞こえてしまったようで、より一層激しく泣き出した。


 その時には私はめんどくさくなっていた。


(眠い……数時間しか寝てないんだから、勘弁してよー)


 ローブの人物が泣いている理由なんて正直、どうでも良かったが、かわいそうだし、煩かったので、


「あんたちょっときなさい」


「ひっく……どこにですかぁ……?」


 泣きながらも、聞いてくるローブの人物。


「ひとまず、表に出ようか」


 後ろを指差して、笑いかけた。


 意訳しよう。


 ひとまず、落ち着こう?


 である。


 表に出ようか、と、笑顔で言われたローブはまたまた泣き出した。

 その声は無音の通りによく響いた。


 まだ寝ている人たち……吸血鬼か……に、申し訳ないので、私は場所を移そうと思った——。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「というわけで、連れ込んでみました!」


「「「どういうわけだよ!」」」


 宿に戻り、部屋に戻った私はみんなからのツッコミを一身に受ける。

 片手にはローブの人物を引きずって……。


 さっきまで三人とも寝ていたのに、嘘のように元気になっていた。

 ひどい。


「待ってよ!ちょっと弁解させて!」


 そこから私の言い訳と、ローブの人物への尋問が始まった。

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